SCP-563-JP
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アイテム番号: SCP-563-JP 

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: 移築による環境の変化がSCP-563-JPにいかなる影響を与えるかが不明であるため、SCP-563-JPの顕現の発生する刑務所は施設ごと財団の管理下でDクラス職員の収容施設として利用されています。SCP-563-JPの発生する第██雑居房にはDクラス収容施設の標準監視設備に加えて2名のセキュリティスタッフを配備して下さい。第██雑居房には定員である6名のDクラス職員を居住させる事が望ましいと考えられています。これらのDクラス職員には一週間ごとの心理検査を行って下さい。

説明: SCP-563-JPは、██県███市の███刑務所第██雑居房に発生する非実体現象です。この非実体現象は房内にその定員である6名±2名が入房した場合にのみ顕現します。顕現が発生するまでには同一の入房者が平均二時間をその房内で過ごすことが必要とされます。出現には入房者達に暴力的、犯罪的性向があり、実際に犯罪を犯して収監された経歴がある事が必要です。非犯罪者が入房したケースではその顕現が観測されませんでした。SCP-563-JPがいかなる手段で入房者の来歴を知覚しているかは不明です。

SCP-563-JPが顕現すると、入房者達は体長150cm程の若い、妊娠経験のあるメスのローランドゴリラ(Gorilla gorilla)を知覚していることに気付きます。入房者達の証言は財団の動物学者が種の同定を可能とする程に詳細であり、そのローランドゴリラはどこにいるのか、今何をしているのかという質問に対し、入房者達を隔離したにも関わらず全員が一貫した回答を行いました。自白剤、ポリグラフ検査、及び強度の高い尋問を行った結果、彼らが(少なくとも現実と区別がつかない程鮮明な)ローランドゴリラを知覚していると信じている事が判明しました。

SCP-563-JPは、その雑居房にローランドゴリラが存在した場合に、動物行動学的に予想される行動とほぼ一致した振る舞いを見せますが、対照実験で用いられた現実のローランドゴリラよりも人間に対する親和性が高い傾向があります。現実のローランドゴリラ同様のサイクルで食餌、睡眠を行いますが、入房者達はSCP-563-JPが食べている餌(笹、食パン、バナナ等)が出現する瞬間を目撃することは出来ませんでした。また、排泄物も一定の時間(20分前後)で入房者達は知覚できなくなります。

SCP-563-JPの顕現した雑居房では入房者達に特異な影響が現れます。入房者達はSCP-563-JPの前では攻撃性を減じ、精神的に落ち着いた状態になります。SCP-563-JPの顕現した房内では暴力事件はほとんど起こらず、入房者同士のトラブルもほとんどの場合穏健に、他の入房者による仲裁で解決される結果に終わりました。また、入房者達は自発的に房内を整頓し清潔に保ちました。そのような模範的行動を取った動機について彼らは"そうするべきだと感じた""彼女が見ている"等証言しています。また、彼らは第██雑居房から移動させてもSCP-563-JPの心理的影響を受けたままであることが明らかになりました。これが単純にSCP-563-JPの影響を受けた記憶を有しているという学習の結果によるものなのか、入房者にSCP-563-JPが心理的介入を与え続けている事が原因で有るのかは不明です。いずれにしても、Cクラス記憶処理でSCP-563-JPの記憶を削除する事によって影響を排除する事が可能なのは確かです。SCP-563-JPの記憶を保持することは一般的に入房者の精神状態を良い状態に維持する助けになりますが、房の移動が原因で反抗的になるようであればCクラス記憶処理を行う事が推奨されています。とはいえ、多くの反抗的なDクラス職員は第██雑居房での記憶を処理される事を望まないため、Dクラス職員に対しては記憶処理の有効性を説明することで制御を容易にすることが可能です。

補遺:インタビューログ 563-4

被尋問者のD-1865は二件の強盗殺人によって死刑判決を受けたDクラス職員です。Dクラス職員として採用された後もDクラス職員同士のトラブルを起こしていたことからこの実験の被験者として選出されました。D-1865はこのインタビュー時点で15日間を第██雑居房で過ごしており、その間はトラブルを起こすことはありませんでした。
尋問は第██雑居房内をパーティションで区切った上で、他の同房者たちを薬物抑制した状態で行われました。保安規定に従い2名のセキュリティスタッフが尋問に立ち会いました。

███博士:ではインタビューを始めさせてもらうよ。この第██雑居房に移ってから君も、君と同じ部屋で暮らす同僚達も随分落ち着いているようにみえるね。それはどうしてだろうか?

D-1865:それは……(D-1865は少し口ごもる)なあ、制服の旦那の脅しはほんとに効いた。俺はこの房から出たくない。だがこれは必要な尋問なのか?

███博士:必要でなければ尋問などしないよ。答えたくない理由でもあるのかな?

D-1865:そういう訳じゃねえ。いや、そういう訳なのかも知れねえな。今から俺はガラにもない話をする。みんな寝ちまってるしな。笑うなよ。

███博士:笑ったりはしないさ。私は君の話を聞くことでSCP-563-JPがどういうものなのか知りたいだけだ。笑うのは私の仕事じゃない。この場所に移った事で君にどういう影響があったのか続けてもらえるかな。

D-1865:あんたら白衣の連中が言うように俺は、俺達は変わった。多分恥ってものを知ったんだろうな。もちろん俺達全員はこの場所に来るまでも恥って奴は知ってた。というか、知ってると考えてた。だが俺達の知ってるのは要するにナメられたくないってことだけだった。

███博士:というと?

D-1865:そっちに突っ立ってる旦那ならわかるんだろうがな。(D-1865は同席しているセキュリティスタッフを見やる)ムショでも街でも、俺たちがそうだったような連中はいつも同じことを考えてる。ナメられたくねえ。ナメられたら終わりだ。腰抜けだってバレたら便所に近い寝床に追いやられる。いや、ちょっと違うな。便所になるんだ。大口を空けてタフな奴らが俺の上にまたがるのをこらえなきゃならねえ。だから俺達はキレてる連中の中でも一等キレてるやつじゃなきゃならなかった。██████(D-1865が強盗を行った店名。)でのこともそうだ。俺は……クソ、わかるかよ!
(D-1865の表情が変わり、部屋の一点を見つめると視点を███博士に戻す)
いや、つまり、そういう表現しか出来ない事柄があるってことだ。汚い言葉遣いをして悪かったよ。許してくれるか?

███博士:あ、ああ。もちろんだ。かつての状況は分かった。でも今は違うと。その、つまり、今君の見ているSCP-563-JPが今の君の態度に繋がっているという理解でいいんだろうか。

D-1865:そういう言い方をするんじゃねえ。ここでは誰もが敬意を払って話すことになってんだ。

███博士:では"彼女"と呼ぶことにしようか。それでいいかな?

D-1865:かまわねえ。俺達もそう呼んでる。もっとも"彼女"に話しかけても答えてくれるわけじゃねえから"彼女"がどう思ってるかはわからねえがな。

███博士:話しかけても答えてくれない"彼女"がどうやって君たちを変えたのか、そこが私達の知りたいことなんだ。続けてもらえるかな。

D-1865:"彼女"は……俺達の事を見てるんだ。ムショじゃクソをたれて……すまねえ。便所にいる時も誰かに見られてる。だが"彼女"の目つきはムショの目つきとは違うんだ。目玉の後ろにいる何かが違うんだと思う。俺達が汚ねえ言葉遣いをしたり、ガンをつけただつけてねえだで言い争ってる時もほとんど変わらない。俺達のやってることが理解できてるのか理解できてないのか俺にはわからねえ。いや、でかい声を出したりしたらびっくりしたりするんだがな。
ただ、"彼女"の、他の連中とは違う目つきで見られてると……なんでこんなことをしてるんだって気分になっちまうんだ。そうなったら、なんでこんなことをしなきゃならねえ? もっとマシなことが世の中にはあるんじゃねえのか? って考えるようになる。俺の場合はそうだった。多分これが恥じるってことなんだと思う。
この房にいる他の連中がどう考えてるかはわからねえ。だが全員"彼女"がいたほうがいいって思ってるのは確かだ。

███博士:いや、だがゴリラなんだろう?

D-1865:そうだ。だがあんたはなにもわかっちゃいねえ。

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