アイテム番号: SCP-580-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-580-JPは出現区域全域をサイト-8111と定めた上で研究、収容が行われます。区域内でSCP-580-JPを発見した場合は即座に2m以上の距離を取り、大声を出さずにSCP-580-JPが移動するまでその場で静止して下さい。
説明: SCP-580-JPは長野県氷魚郡に位置する白旅山付近でのみ確認されている雪で構成された人型実体です。身長40cm程で大雑把な人の形をしており、残留物の検査結果から雪は水分と空気中の不純物のみで構成されている事が分かっています。猫の鳴き声に似た音を発しますが外見上は目鼻や開口部等が存在せず、体の内部からは生体機能を持つ器官は発見されませんでした。
SCP-580-JPの特異性は原理不明の浮遊を行う事と何らかの衝撃を加えた際の反応にあります。手で触れる等の単純な接触に対してSCP-580-JPは音を発して手足を不規則に動かすのみですが、体を殴り付ける、締め付ける等の大きな力や銃声のような大きな音を加えると「ガラスを振動させたような音」と形容される高音を発して白い気体と冷気を噴出すると共に消滅します。この気体は冷媒ガスと類似した熱交換を発生させる効果を持つと考えられており、付近の温度を減少させ周囲の物体を凍結させると共に蒸発します。この気体の飛散範囲は半径約1m程である為、結果的にSCP-580-JP付近で衝撃を加えた存在は冷気と気体に曝される事によって瞬時に凍結する事となります。SCP-580-JPに対して何も行わなかった場合はしばらくその場で浮遊するかしばらくの接触の後に離れて移動する為、衝撃や音を加えない限りは無害であると考えられています。
凍結の効果は衣服や装備の着用に関係なく人体へと大規模な影響を与える事が確認されており、Dクラス職員を用いた実験では防寒着と断熱材を使用した職員の身体全域が凍結していた事が確認されていますがこの効果を引き起こした原因と考えられる気体の成分等は即座の蒸発から、依然不明のままです。
SCP-580-JPは-2℃以上の環境に置いては即座に溶解し液体へと変化する他に白旅山の周囲800m以上引き離した場合でも同様の変化を引き起こす為、出現区域を新たなるサイトとして制定し研究施設を建設する事によって収容が執り行われました。液体は上述した通りの水分と空気中の不純物で構成された硬水である事が判明しており、成分上の異常な点は確認されていません。
収容経緯: SCP-580-JPは20██年█月█日に白旅山を訪れていた登山客から「雪だるまに襲われた」との通報が入った事によって発見されました。調査の結果、白旅山の周辺に位置する村の住民はSCP-580-JPの存在を関知しており、古くから「コゴエ」と呼ばれる存在として伝えられていた事が判明しています。
以下は白旅山の麓に位置する雪沢村の住民である猪飼 ██氏に対するインタビュー記録です。
対象: 猪飼 ██氏 76歳男性
インタビュアー: エージェント・五月蠅
付記: 一部の方言の記述を変更しています
<録音開始>
エージェント・五月蠅: それでは、あの雪の塊のような存在について教えてもらえますか?
猪飼氏: ああ、そりゃコゴエだな。
エージェント・五月蠅: コゴエ?
猪飼氏: 凍える、からコゴエかなぁ。雪山で死んだ子供の魂だって婆ちゃんは言ってたなぁ。
エージェント・五月蠅: 貴方は遭遇したことが?
猪飼氏: ああ、あるよ。あれは子供ん時だったか、突然雪の中からボコッと出てきたんで石をぶつけたんだよ。そしたらキィンって音だして爆発して消えてったんだ。それで婆ちゃんに聞いたら教えてもらった。見つけたらすぐに離れないとカチンコチンになっちまうんで逃げろって言われたよ。
エージェント・五月蠅: 成程、コゴエについて何か他の話はありますか?
猪飼氏: 他に聞いた話じゃ、コゴエは若い娘に近寄っていくらしい。何故かってとコゴエはユキオンナの子供って話もあるんだってよ。だからコゴエは生娘には近よらねぇ、若いが子供がいるような娘に近寄っていく。母親と間違えてるらしいんだなぁ。まぁ村の男衆もちょろちょろ襲われてたし、そこはどうなのかわかんねぇけどな。
エージェント・五月蠅: 若い女性に寄っていく、ですか。
猪飼氏: 嫌な話もあってな。どっかの村じゃあコゴエが増えたら若い娘を生贄にしてたらしいんだよ。さっきも言った通り生娘じゃダメなんで、ひどいことしてな。山に動けないようにして置き去りにしたんだとか。そんでその娘がユキオンナになるんだとさ。まぁ古いおとぎ話だけどな。
エージェント・五月蠅: 今はコゴエが見られる事は無いんですか?
猪飼氏: 最近はとんと聞かねぇよ。前に大山のせがれが見たって騒いでそれっきりだ。まぁそのせがれも大きくなって都会に行っちまったし、時代が変わってこういう話も消えてくんだろうなぁ。ここらじゃあもう見たってやつはいないし山の奥にいるんじゃねぇかな。
エージェント・五月蠅: 成程、お話ありがとうございました。
猪飼氏: はいよ。
<録音終了>
猪飼氏の証言を元に周辺の村に聴き込みを行った結果、十数年前からあまり見なくなったといった旨の共通した証言が得られました。現在、SCP-580-JPの個体数の減少に関して、ここ数年の異常気象による暖冬の影響が考えられており、更なる調査が行われています。
補遺: 白旅山中での調査中に付近にいた猟師が職員に対して発砲して逃亡する事案が報告されました。その後勾留された猟師である兎川 █氏からSCP-580-JPに関する更なる証言が出た為、以下に添付します。
対象: 兎川 █氏 45歳男性
インタビュアー: エージェント・五月蠅
付記: 兎川氏は20m程逃走した後にその場に座り込み、職員が到着した際にも抵抗する様子を見せませんでした。
<録音開始>
エージェント・五月蠅: 貴方の素性は分かりました。しかし何故我々に対して発砲を?
兎川氏: 悪いね、変な余所者がうろついてたんで気に入らないと思ってさ。脅かしてやろうと思って。
エージェント・五月蠅: それにしては随分と物騒ですね。
兎川氏: 当てるつもりは無かったよ。コゴエもついでに驚かせて破裂させようと思ったんだ。……あんたらもあれが目的だろうしね。
エージェント・五月蠅: コゴエ……ですか。
兎川氏: 子の声さ。あいつらはそのつもりらしい。
エージェント・五月蠅: 一体何の話なのか分かりかねますね。
兎川氏: 隠さなくたっていいよ。そんな格好で来て雪遊びも猟もせず、山のてっぺんにも行かないんでおかしいと思ってたんだ。あんたら国から呼ばれた人かなんかだろ?あのガキ共を何とかする為にさ。
エージェント・五月蠅: ガキ……とすると本当にあれは雪女の……
兎川氏: なわけねぇだろ。あれはガキの真似したバケモンだよ。山に入った子供の姿形を真似て獲物を油断させようとしてるらしい。まぁあんなお粗末な見た目や声で上手く行くと思ってる辺り、脳みそはガキ以下なんだろうが。
エージェント・五月蠅: そんな存在を信じろと?
兎川氏: 信じるも何も実際にいるからあんたらもここに来てるんだろ?この山の五合目くらいの所を探してみなよ。山小屋の反対側にある崖の下に雪が積もってる。あそこはいつも冷たい山風が吹くから雪がずっと残ってるんだ。柔らかい新雪だから多分形が残ってるのもあるよ。
エージェント・五月蠅: 何の話ですか?
兎川氏: うんざりしてたんだよ。じいちゃんもひいじいちゃんも親父もやってて俺も受け継いだ。知ってるか?生贄の話。バケモン共のオモチャになるのさ。昔は村の若いのを使ってたが、都会から来た馬鹿共を使った方が数もこなせる事に気がついた。これなら村の人間は死なずにすむしな。……別に俺の姉ちゃんじゃなくても良かったんだ。
エージェント・五月蠅: それは……今も風習が続いていたという事で良いですか?
兎川氏: ああ、数を減らさねぇといけないからな。ずっと昔から続いてた。コゴエはでかい音を聞けば破裂する。凍った馬鹿共に大量に誘き寄せれば銃声一発でカタが付くんだ。
エージェント・五月蠅: 成程、任せてもらえるという事は収容に協力して頂けるという事ですね。ならばこちらとしても貴方からお話を伺った上で手続きをさせて頂きたいと思います。
兎川氏: 最初に言った通り、あんたらなら大丈夫だろう。やつらともちゃんと距離を置いてるし、下手な事はしないと思う。……これの事は知らなかったみたいだけどな。[懐から石で出来た笛を取り出す]
エージェント・五月蠅: オカリナですか?
兎川氏: これを使えば奴らを誘き寄せる事ができる。うまく使えばいい成果が出せるよ。……生き残る事が出来たらな。[笛を吹く]
<録音終了>
終了報告書 兎川氏が笛を吹くと同時に400体近くのSCP-580-JPが出現。付近にいた職員全員は迅速に離脱した為に被害を免れたが、SCP-580-JPが去った後に付近を捜索した結果、半ば砕けた形となった兎川氏の凍結した遺体が発見された。兎川氏は笛を使って逃走を図ったと考えられており、付近に落ちていたオカリナに酷似した石笛はSCP-580-JP-Aと指定され現在調査中。
インタビュー内で言及されていた場所を捜索した結果、合計███体の凍結した遺体が発見されました。所持品等から捜索の打ち切られた登山者等と考えられており、この規模から一部の青年団のメンバーや近辺の市の捜索隊が何らかの関与をしていものと見て捜査が行われています。
ページリビジョン: 4, 最終更新: 10 Jan 2021 16:30