SCP-5882
評価: +19+x

アイテム番号: SCP-5882

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: 緊急プロトコル アレフ-41に従い、SCP-5882の継続利用がO5の裁量に基づいて許可されています。緊急プロトコル アレフ-4が取り消されるまで、職員の労働時間は40時間から120時間に延長します。

SCP-5882の負の副作用を受けていると思われる人物にはクラスA記憶処理を施します。

説明: SCP-5882は財団サイト内の宿所に影響を及ぼす異常現象です。SCP-5882の影響下にある人物は睡眠を必要としなくなります。緊急プロトコル アレフ-4下での参加者に対する実験から、この効果の最長継続期間は少なくとも3年以上であると判明しています。SCP-5882の副作用には、財団の利益に反した扇動行為の増加に伴う士気や生産性の低下が挙げられます。このような副作用は、クラスA記憶処理剤を継続して服用すれば軽減すると判明しています。

SCP-5882は2080/07/12に発見され、その時点でサイト内の宿所の█%に影響を及ぼしていたと判明しました。現在は██%に変化しています。

補遺5882.1、2082/06/11: SCP-5882に関する正式な異議申し立て

倫理委員会はエリー・マクナマラ管理官から緊急プロトコル アレフ-4の取り消しを求める異議申し立てを受けました。財団憲章に従い、倫理委員会は全メンバーが揃わなければ申し立てを受理できません。この申し立ては、O5評議会が新入メンバーを承認したのちに受理されます。マクナマラ管理官は所定の書類に加え、以下の個人的な勧告書を提出しました。

我々が人間らしさを失ったのはいつでしょうか?

1度目の選別の時でしょうか? 2度目の時? それとも改修した時でしょうか? 効率を向上させた時? 挙げられる事例は本当に数え切れません。最初こそ理に適っていました。時にはより大きな善のために戦わねばならない。無理もない。必要なことだと。反対意見はあまりにも多く、当時あったものだけでは、ある程度までしか成し遂げられなかった。しかし、今はもう違います。

我々はやり過ぎました。貴方がたはやり過ぎました。収容のためならばこんな馬鹿げた真似もしますが、それは少なくとも正しい相手に向けられていました。今度は自分たちの部下にまで向けるとでも? 度を越しています。一体どうやって夜に眠っているのですか? 一般職員に危機的事態が起こっていると知っていながら、平然と座ったままでいるのは間違っています。罪悪感を抱かずには彼らの目をまともに直視できません。もうこれ以上は黙っていられないと決意しました。このままでは取り返しがつかなくなります。

このようなことは我々の前身者も望んでいないはずです。最高位サイト管理官としての権限を行使し、緊急指令アレフ-4の即時取り消しを要請します。手遅れになる前に、今こそこの狂気を止めるべきです。

補遺5882.2: マクナマラ管理官の申し立て記録

監督司令部人事兼保安員 (Overwatch Command Personnel and Security、OCPS-8) の申請により、以下の記録は簡潔化と関連する職員の匿名性保持のために編集されています。

記録はO5-8のオフィスの待合室で録られている。OCPS-8はオフィスのドアの左方にあるデスクに座っている。マクナマラ管理官が廊下からO5-8のドアを勢いよく開けて入室する。OCPS-8が軽く咳払いをする。

OCPS-8: 予約は取られていますか? 管理官様。

マクナマラ: 私が来ることは予想できているはずでしょう。

OCPS-8: 大変申し訳ありませんが、管理官様、スケジュールにご予約が入っておりません。

マクナマラ: ……新しく来られた方ですか? 一度もお見かけしていないのですが、えっと、ミス……

OCPS-8: 博士です。よろしければ、バーナデットとお呼びください。私はO5-8様の個人秘書です。

マクナマラ: なるほど。バーナデットさん。バーナとお呼びしても?

OCPS-8: バーナデットで結構です。

マクナマラ: 分かりました。とにかく、貴方はまだこの辺りに慣れていないのでしょうが、この場ではそうはいきません。そちらの上司に重要な話がありまして、過去最大級の頭痛の種を抱えているのです。なのでそこをどいていただければ……

OCPS-8: お言葉ですが管理官様、予約を取られていない方は通さないようにと言われております。O5-8様は大変お忙しいのです。誠に申し訳ありません。

マクナマラ管理官がため息を吐く。

マクナマラ: ああ。左様で。いつ頃お会いできるので?

OCPS-8: イントラネットで正式な予約申請書を提出する必要があります。よろしければ、ポータルサイトをご紹介しましょうか?

マクナマラ管理官が言葉を発しようとするが、途中でやめて目を細める。

マクナマラ: ああ。なるほどねぇ。どういう魂胆か分かりましたよ。

OCPS-8: はい?

マクナマラ: OK。いいですか、私はこれからオフィスに戻ります。ですが、ここでどんなくだらないゲームが繰り広げられているか分かりました。私の代わりに上司にこう伝えてください。次に私の申し立てを阻止したいのなら、7層もある官僚機構の壁の陰に隠れていないで、勇気を出して直接書類に署名しに来い。秘書を盾にすれば私と話さずに済むとでも? チキン野郎のやり口ね。今のを全て文書に書き留めてもらっても?

OCPS-8: ……管理官様、貴方の口調はややプロ意識に欠けるように思います。そんな言伝を預かるわけには —

マクナマラ: ああそうですか、バーナさん。では私の代わりに上司にこう書き残してください。お前は倫理委員会のメンバーじゃないだろ。私の訴えを退ける理由はない。職員に対するお前の所業はひどく倫理に欠けている。クソ喰らえって。

OCPS-8: 咳払い。 管理官 —

マクナマラ: はいはい。神のご加護ある素晴らしい一日を。ご自身にとって楽な形式でいいですよ、バーニーさん。私はオフィスに戻りますので。

マクナマラ管理官が振り返って退室しようとするが、OCPS-8の声を抑えた咳に足を止める。

OCPS-8: 申し訳ありません、管理官様。実は、O5-8が倫理委員長代理に就任した旨をお伝えするつもりでした。その理由もあり、貴方の申し立ては倫理委員会執行部の過半数の決定で正式に否決されました。

マクナマラ管理官がゆっくりとOCPS-8のデスクに向き直り、卓上に両手をつく。

マクナマラ: 一体、誰が、その執行部とやらに就いてるので?

OCPS-8: 現委員長に、主任委員、そしてO5様がお一人、ですかね。

マクナマラ: どのO5が投票を?

OCPS-8: O5-8様です。

マクナマラ: さっきO5-8は委員長代理だって言いませんでした?

OCPS-8: その通りです。

マクナマラ: じゃあ1人の人物がどうして同じ議題に2度も投票できるんです?

OCPS-8: ああ、それはですね、規定上、倫理委員会憲章には1人の人物が複数の役職に就任することを禁じる旨は記載されていません。よろしければ、ご案内を —

マクナマラ: ふざけんな。

マクナマラ管理官が急に立ち上がり、素早くオフィスを退室してドアを勢いよく閉める。

O5評議会は倫理委員会での被指名者であるチャールズ・レインハートの承認に関する投票を行いました。投票は賛成5、反対4、棄権2で決議されました。緊急指令‎アレフ-4の義務があるため、O5-8は投票に出席しませんでした。動議は不成立となりました。

次の記録。OCPS-8はオフィスのドアの左方にあるデスクに座っている。マクナマラ管理官が廊下から入室し、O5-8のいるドアへと歩くが、途中でOCPS-8に気付いて止まる。OCPS-8はマクナマラ管理官の入室と同時にその方向に目を向けている。

OCPS-8: 管理官様。何かご用でしょうか?

マクナマラ: いえ、私は話をつけに来ただけで…… えっと…… すみません。バーニーさんでしたか?

OCPS-8: バーナデットです。

マクナマラ: ああ、バーナデットさん。そうでしたね。新しく来られたのですよね? 何をされている方でしたか?

OCPS-8: 私はO5-8様の個人秘書です。現在は、先日の投票に対する貴方の異議申し立ての書類手続きを行っています。書類のコピーをそちらのオフィスにファックスで郵送するところでした。

マクナマラ: 異議申し立て。ええ。実を言いますと、それが理由でここに来ました。

OCPS-8: 書類を確認しにですか?

マクナマラ: いえ、そちらの上司のケツに蹴りでも入れてやろうかと思いましてね。そうすれば票が変わると思いますか?

OCPS-8: 管理官様、それが適切とは全く思えな —

マクナマラ: なら今回のはどういうわけなんですかね? バーナデットさん。

OCPS-8: そうですね。遺憾ながら、レインハート様を倫理委員長に昇格させる投票では、任命の承認に必要な基準である3分の2を上回る投票は得られませんでした。加えて、裁定を下す常任委員長がご不在ですので、貴方の申し立てを受理する者もおりません。恐縮ですが、異議申し立てはメンバーが確定してからでなければなりません。

マクナマラ: つまり、承認投票に対する異議申し立ては、また別の承認投票が終わるまで待たなければならないと? 最初の承認投票の意味も、それに対する異議申し立ての意味も無くすような投票が終わるまで? そう言いたいんですか?

OCPS-8: 少々興奮されているようですが、残念ながら、この規定に関してはどうしようも —

マクナマラ: 何だか…… このままでは埒が明かない気がします。そちらの上司は、財団の基底を根本から変えかねない投票に出席しなくてもいいのですか? そのために眠れない日々を過ごせと?

OCPS-8: O5-8様は細心の注意を要する用件を数多く抱えておられます。全ての投票の優先度が懸念度の高い事項と等しいわけでは —

マクナマラ: ああそうですか、もう結構です。分かりました。これからオフィスに戻って仮眠をとろうと思います。書類を送ってもらえれば机の上の山にでも放り込んでおきますよ。ではまた。

OCPS-8: お会いできて光栄でした、管理官様。良い一日を。

倫理委員会はチャールズ・レインハートの承認投票を6対3で決議しました。倫理委員長代理のO5-8は投票結果の認定に出席しませんでした。動議は不成立となりました。

次の記録。OCPS-8はオフィスのドアの左方にあるデスクに座っている。マクナマラ管理官が廊下から入室し、部屋の中ほどに立つ。マクナマラ管理官がしばらく周囲を見渡す。

マクナマラ: あの…… えっと…… すみません。ここに来た理由がどうも思い出せなくて。以前どこかでお会いしましたか?

OCPS-8: ごきげんよう、管理官様。私のことはバーナデットとお呼びください。私はO5-8様の個人秘書です。何かお手伝いできることはありますか?

マクナマラ: そちらの上司に話があったはずなのですが…… えっと…… お恥ずかしい限りです。何だったかすっかり忘れてしまいました。どうしたんでしょうね、私。

OCPS-8: そうですか、何かお力添えできることがあればお申し付けください。いつでも喜んで手を貸します。

マクナマラ: あー…… ありがとうございます。これからオフィスに戻ろうと思いますが…… 本当にすみません、もう一度お名前を伺っても?

OCPS-8: バーナデットです。お気になさらず。

倫理委員会はチャールズ・レインハートの承認投票を9対0で決議しました。O5-8は緊急指令アレフに基づく執行権限を行使し、この案に反対しました。動議は不成立となりました。

次の記録。OCPS-8はオフィスのドアの左方にあるデスクに座っている。マクナマラ管理官が段ボール箱を抱えたまま廊下から入室する。マクナマラ管理官がOCPS-8のデスクへと一直線に歩を進める。

OCPS-8: こんにちは、管理官様。何か —

マクナマラ: 黙れ。

マクナマラ管理官が箱を開き、走り書きされた1枚の紙を取り出す。

マクナマラ: (読み上げて): 「投票は不成立となった。賛成票が足りなかった。個人秘書のバーナに会った。良い人だとは思うけど、O5-8には完全に逃げられた。」ふうん、おかしなメモが書いてある。

マクナマラ管理官がさらに2枚の紙を続けて取り出す。

マクナマラ: (読み上げて): 「投票は不成立となった。O5-8が出席しなかったから採決が取れなかった。個人秘書のバーナに会った。非常に良い人ではあった。全く役に立たなかったにせよ。」もう1枚。「投票は不成立となった。O5-8が出席しなかったから投票結果を認定できなかった。個人秘書のバーナに会った。良い人だけど、私の手助けはできなかった。」

マクナマラ管理官が箱を下ろし、OCPS-8の目を真っ直ぐに見る。

マクナマラ: 私が日記をつけていたなんて知ってた? 私は知らなかった。ファイルキャビネットに埋もれたこの箱を見つけるまでは。過去のメモで一杯だった。私のしたこと、食べたもの、そしてもちろん、会った人についても。だから教えなさい、バーナデット……

マクナマラ管理官が箱をデスクの上に倒すと、中からほぼ同じ内容が書かれた紙が大量に出てくる。

マクナマラ: ……私が貴方に会ったのはこれで何回目?

OCPS-8: 今回で346回目です。この件について話し合う回数であれば、今回を含めると14回です。

マクナマラ管理官が身震いし始め、手を挙げてOCPS-8の顔を殴打する。OCPS-8は顔の傷から出血してもなお反応を返さない。

マクナマラ: 一体…… 何がどうなってるの?

OCPS-8: ただの標準規定ですよ、管理官様。

マクナマラ: 何かがおかしいと感づいたのはいつだと思う? 私の机には写真が何枚か飾ってある。私と家族の写真。今日それを見て何を思ったか分かる?「あれっ、最後に会ったのはいつだったっけ? この写真は何年前に撮ったんだろう?」答えは思い出せなかった。それどころか、家族のことも、一緒に過ごした時間も、名前すらも思い出せないと気付いた。ただ一つ思い出せるのは、あの人たちが私の家族だって…… 家族だと思うってことだけ。

声が震え始め、マクナマラが身震いしたまま沈黙する。

マクナマラ: そもそもあの人たちは実在するの?

OCPS-8: 彼らは貴方の家族です。

マクナマラ: 周りにあるもの全てが嘘偽りかもしれないと気付いた時の気持ちが分かる? 私はオフィスでパニック発作を起こした。色々見渡すと、何から何までおかしいと気付いた。壁には学位証明書が飾ってある、でも勉強した覚えはない。デスクにはトロフィーがある、でも獲った覚えはない。ファイルキャビネットは今まで取り組んできたらしき案件でぎっしり…… でも解決した覚えはない。覚えているのは次の仕事が何だったかだけ。もういつから寝ていないのかも分からない。私…… どうしてこうなったの? 貴方は一体何者?

OCPS-8: 私はO5-8様の個人秘書です。

マクナマラ: (静かに。) 嘘つかないで。貴方はただの秘書じゃない。

OCPS-8: 私はO5-8様が重要と見なした案件を援助します。それには人事管理も含まれます。申し訳ありません、管理官様。SCP-5882の影響を受けた副作用で、業務面で深刻なストレスを抱えておられるようですね。アシスタントを何名か呼んでそちらのオフィスまで送り届け、その上で標準の投薬療法を実施しましょう。一刻も早い回復を願っております、管理官様。

マクナマラ管理官がOCPS-8のデスクの前ですすり泣き始め、そのまま30分後に職員が到着し、彼女を部屋の外へと連行する。

補遺5882.3、████/██/██:管理官再編成

エリー・マクナマラ管理官は職務に適さないと判断され、のちに解任されました。バーナデット・███████管理官代理は管理上の懸念を理由に、係属中の異議申し立てを取り消しました。

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。