SCP-5902

アイテム番号: 5902
レベル3
収容クラス:
keter
副次クラス:
none
撹乱クラス:
ekhi
リスククラス:
notice


特別収容プロトコル: 財団の諜報員は労働災害、異常または不合理な取引の変化、5902-Aの可能性がある実体の目撃証言、説明不十分な文脈上での“管理部門”へのあらゆる言及を調査します。SCP-5902感染が疑われる場合、分散型機動部隊プサイ-2 (“解雇通知”)の1部隊が問題の場所に動員され、確証されたならば雇用及び/または生命活動の終了が許可されます。終了対象が確かに5902-Aであり、職場で異常行動を示す普通の民間人ではないことを確実にするため、財団職員は高リスク身分証明セルフチェックを行います。SCP-5902が容易に排除できないほど進行している場合、財団フロント組織による企業買収が試みられ、5902-Aはその後プロトコルに従って統合、処理されます(“収容の歴史と状況”の欄を参照)。

SCP-5902の感染率が高い地域(文書5902-Kを参照)では、最低1ヶ所の滑らかな縦穴(直径~2m、深さ>3m)をアクセスが容易な場所、好ましくは財団が所有する倉庫か廃棄物処理場に設けます。この縦穴の底の調査は、秘密裏に対象地域のあらゆる雇用者の法的要求事項に、雇用義務の構成要素となるような形式で組み込まれます。これらの縦穴の底に蓄積される5902-A個体群は毎月終了されます。

説明: SCP-5902は既存の組織内に出現して寄生し、対処されなければ自然消滅するまで通常業務を阻害し続ける、再発性の物流的・官僚的現象です。SCP-5902は予測可能な出現と伝染のパターンを伴ないながら、全世界の民間企業、学校、公的機関、政府組織に出現しています。

SCP-5902の個々の実例、または“支部”の出現は識別可能なパターンに沿って発生し、明確な段階を経て進行します。

第1段階: 文書記録化

ある組織のSCP-5902感染を示す最初の兆候は、その症状がごく一般的であり、事務処理上のミスや犯罪行為などの平凡な原因に帰するのが容易であるため、即座に気付かれることは滅多にありません。宿主組織の管理する記録には、出荷報告書から賃金台帳に至るまでのあらゆるレベルで齟齬が生じ始めます。これらは概して数学的な性質の、出入力の数値が予測と一致しないエラーです。気付かれずに放置されると、これらのエラーは伝播し、より異様な干渉や捏造へと発展します — 例として、内部データベースのセクション全体の変更、実在しない部門への資金流用、意味不明な資材発注1などが挙げられます。混乱を招き、作業工数がかかるものの、これらの変更は気付かれれば差し戻し可能です。適時にこれらのエラーを修正すると、それ以上のSCP-5902支部の発展は阻止され、数週間以内に消失します2

エラーが対処されずに伝播し続けると、最終的に宿主組織の記録は、それまで存在しなかった分課、通称“管理部門”への直接参照を含むように改変されます。この名称は全ての発生事例で一貫しています。宿主組織の記録の何処かにこの名前が表出した場合、それはSCP-5902感染が第2段階に進行したことを示しています。

第2段階: 雇用

感染から約45-60日後、宿主組織には感染以前から所属していた記録が無い、新しい“従業員”が出現し始めます。5902-Aと指定されるこれらの新しい従業員は、極めて識別しやすい特徴を共有しているため、宿主組織の実際の従業員からは非常に容易に発見されます。以下は5902-Aの特徴の要約リストです。

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5902-Aが携帯する全てのIDカードの内容。

  • 容姿: 全ての5902-A個体は外見的に人間であり、宿主組織の社会的背景とは無関係に、様々な性別・人種・体格を組み合わせた姿で出現します。
  • 服装: 全ての5902-Aはフォーマルなビジネスウェア(スラックス、ネクタイ、ジャケット、パンツスーツ、スカート等)を着用しており、それらは概ね単色です。5902-Aが着用する全てのシャツは白で、ジャケットは灰色または黒であり、模様や生地に目立った特徴はありません。5902-Aのネクタイは色付きの場合もありますが、通常シンプルであり、模様の無い単色です。ネックレスやイヤリングなどの宝飾品を身に着けることもありますが、服装全体でみると控えめです。また、全ての5902-Aはランダムながらも控えめなデザインの、目が十分隠れる程度に着色されたサングラスをかけます。これらの標準化されたドレスコードは、海洋石油掘削施設の重機の修理、炭鉱の搬出装置オペレーター、精肉店の食肉取扱者などの勤務地や職務とは一切関係なく、全ての5902-Aに共通します。
  • 態度: 5902-Aは平静で、自らの意見に固執せず、プロ意識を持って、礼儀正しく振る舞います。これらの特徴は時折、宿主組織の真の従業員が不可避的に5902-Aへの反感または不安を感じるまでの短期間、5902-Aが気付かれずに“職場”環境に居座る原因になります。5902-Aは、単純でほぼ内容の無い発言(天候や周囲の職場の状況に関するものなど)を除いては、カジュアルな会話を行う能力を持たないようです。彼らの顔の表情の変化や、個人的感情/政治/スポーツ/人気のあるメディア/表向き職場で占めているとされる地位の詳細について発言する様子は一度も観察されていません。
  • 無能: 今日まで、観察された5902-A個体はいずれも“雇用”の地位について表層的かつ一時的な知識以上の情報を示しておらず、大多数は自ら主張する職務に全く精通していません。質問された場合、5902-Aは常に宿主組織に正当に雇用されていると主張しますが、給与明細、企業のIDカード、組織のコンピュータシステムに登録された口座などの証拠を提示することができず、さらには現在雇用されていると主張する組織の名称すら把握していません3。部下の立場である場合、5902-Aは必ず上司の指示に従おうと試みますが、例外なく失敗に終わり、幾つかの事例では莫大な出費や人命損失を伴なう労働災害をもたらす類の大惨事を起こします。

この非常に人目を引く特徴の組み合わせのため、少なからぬ数の5902-A個体は、発見された直後に宿主組織の敷地内から追い払われます。“雇用”の場から引き離されると、5902-Aは単純に消失します。消失現象は通常5902-Aが民間人から観察されていない時に発生しますが、時には公衆の面前でも発生するため、俗に言う“メン・イン・ブラック”や“Gメン”にまつわる噂や都市伝説の永続に繋がっています。

5902-Aが発見される可能性は、感染した組織の規模に反比例します — 数千人規模の従業員を抱える非常に巨大な建造物では、5902-Aは気付かれずに“増殖”する場合があります。現時点では不明なプロセスを経て、組織内に残っている1体の5902-Aはより多くの個体の出現を招きます。この文脈での“出現”とは文字通りの意味です — 5902-Aの除去後の監視カメラ映像の見直しでは、しばしば5902-Aが(通常は勤務時間終了後の夜間に)無人のトイレから現れる、換気シャフトから這い出す、或いはカメラの目の前の何も無い空間から出現する様子が示されます。

全ての5902-Aが宿主組織から除去され、尚且つ“管理部門”4への全ての言及が組織の記録から削除されると、SCP-5902感染は寛解し、やがては上述したように消失します。5902-Aの集団が宿主組織に2~3ヶ月間存在を認められた場合、彼らは最終的に自らの法的な存在を証明し、宿主組織内での法的権限を疑う余地なく付与する書類を異常な手段で取得します。この時点でSCP-5902感染は第3段階に入ります。

第3段階: 合併

異常に偽造された法的存在と雇用の証明書を所持するようになると、5902-Aは宿主組織内で自らの権限を行使し始めます。これ以降出現する5902-A個体はより高位の管理職の地位を主張し、それを裏付ける実際の知識やスキルが無い場合でも、その地位を占めていると証明することが可能になります。組織内で下位の地位にある5902-Aは、上位の5902-Aが宿主組織本来の非異常な従業員を解雇するのを切欠として、突然昇進します。これらの解雇処分5はしばしば訴訟などの法的問題を喚起しますが、大抵の場合、精査はSCP-5902感染の転移の防止に間に合いません。

このプロセスは宿主組織の当初の従業員が残らなくなるまで続き、組織のあらゆる書類と免許は経営者の変化を反映して法的に変更されます。経営者が1人しかいない小規模ホストの場合、投資資本家を装った外部の5902-A団体による敵対的買収、もしくは政府関係者を装った1体以上の5902-Aによる差し押さえによって、経営者は排除されます。具体的な手段は様々ですが、いずれの戦略にも、SCP-5902感染を進行させるのに十分な合法性を確保できる裏付け書類が伴います。

この段階でも、5902-Aはまだ法的工作6や肉体的強制によって排除可能であり、全ての個体が排除された時点でSCP-5902感染は上述したように逆転します。宿主組織全体が“管理部門”に所有、運営される状況に陥った場合、SCP-5902は第4段階へと進行します。

第4段階: 決裂と拡大

5902-Aは取得した資産の管理に必要とされる経験、知識、知性を欠き、一見したところ運営する意欲さえも持たないために、5902-Aが単独運営する組織は即座に破産します。5902-A個体群は自分たちの管理下にある組織の表向きの目的を持続させようと試みますが、全般的な無能さと重大な過失を積み重ねて最終的には失敗し、時には製油所爆発、工場火災、船舶沈没などの極めて衆目を集めやすい事故を引き起こします。

権力掌握から崩壊までの間、“管理部門”が所有する組織内で5902-Aの個体数は増加し続けます。上位の5902-Aは何らかのアウトリーチ活動が関わる指示を部下の5902-Aに下し始めます — これには広告やダイレクトメールの他、様々な目的で一般家庭や他の企業に5902-Aが派遣される場合もあり、ほとんどの活動は大雑把に審査されることすらありません。これらのアウトリーチ活動がSCP-5902の拡散媒介です。“管理部門”の利益に言及する感染組織からの手紙を受け取った、または5902-Aが住居に立ち入るのを許可した場合、ミームまたは官僚災害の一種の伝染と推定されるプロセスを経て、そこに新しいSCP-5902支部が発生します。このような試みの一例を以下に示します。

日付: 2019年9月9日
映像元: ニューメキシコ州アルバカーキの退職した夫婦、マテオ及びマーガレット・マルケスの家から押収された家庭用防犯カメラの映像。




(監視カメラの視点はマルケス夫妻宅の玄関の右上隅からのもの。2人の男性が歩道からマルケス夫妻宅の玄関に近付く。片方、以下“アルファ”は筋肉質、禿頭、中背であり、紫色のネクタイとイヤリングを身に着けている。もう片方の“ベータ”は非常に長身かつ肥満体で、髪は短く、長い髭を生やし、青いネクタイを身に着けている。)

(2人の男性が玄関前の階段を上がり、手を伸ばして、マルケス夫妻宅のドアを同一のリズムで同時にノックする。短い合間の後、マルケス夫人が画面外でドアを開ける。)

マルケス夫人: あ-あら! どうもこんにちは。どうかなさいました、あなた達?

アルファ: おはようございます7、奥様。私の名前はテオドア・タフト・フーヴァー、こちらは同僚のコンドリーザ・ワシントンでございます。私は武器を携帯しておりません。私の同僚もまた武器を携帯しておりません。我々は管理部門を代表する者でございます。我々は今回の即興の検査についてあなた様に事前にお電話差し上げませんでした。これは即興です。そしてまた、我々はあなた様の電話番号を存じ上げません。

(沈黙。)

マルケス夫人: ええと… ごめんなさい、どちらの代表ですって? 何部門と仰いました?

アルファとベータ: (同時に) 管理部門でございます。

マルケス夫人: すいませんけど、もう少し待ってくださいね。具体的には何を管理してらっしゃるの? 市役所の人?

(アルファとベータが軽く視線を交わす。)

アルファ: はい。我々は市役所の者でございます。これは定期検査です。

マルケス夫人: 何の検査なの? 随分と変わったやり方じゃないですか、普通だったら点検の人が何か見に来る時は事前に電話がありますよ。

ベータ: 疑ってらっしゃいますね、奥様。

マルケス夫人: (鼻を鳴らす) ええ、当然疑いますとも!

(アルファとベータはジャケットのポケットに手を入れ、押開き蓋付きのIDケースを取り出す。彼らはマルケス夫人の前にカードをかざす。どちらも同一の、文章が付随しない、黒字に白い四角が描かれたカードである。)

ベータ: もはや疑いを差し挟む余地はありませんね、市民。印章をご覧ください。その偉大なエネルギーを感じてください。我々は今… 公務中なのです。

(一筋の涙がベータの左目から落ち、頬を流れて髭にしたたる。ベータの表情は変化しない。アルファは少しの間ベータを見つめてから、マルケス夫人に向き直る。)

アルファ: これで全て明確になったはずです。混乱を招いたことをお詫び申し上げます。この謝罪があなた様に当て嵌まらない場合は、無視してください。

(アルファとベータはIDカードをポケットにしまう。沈黙。)

マルケス夫人: …冗談のつもり? 近頃の若い子たちは暇を持て余すとこんな事をやってるのかしら? お二人とも、私にはこんな事に付き合ってる時間は無いの。他所に行ってちょうだい。

アルファ: これは定期検査です、奥様。我々をあなた様の家に入れていただくことが不可欠なのです。

ベータ: 統合の日が間もなく訪れます。無限の空位時代にあなた様一人きりで直面するのがお望みならば、話はまた別ですが。

(アルファは再びベータを見つめるが、何も言わない。)

マルケス夫人: 随分と大きく出たわね、坊やたち。まぁ… あの男ほど大風呂敷を広げてはいないけど、結構なはったりじゃない。警察を呼ぶ前にさっさと帰って。

(ドアが閉まる。アルファとベータは少しの間お互いを見つめる。アルファは背を向けて歩道を歩き始める。ベータは屈み、マルケス夫妻宅の玄関マットを丸め、それをジャケットのポケットに押し込もうと試みながら歩き去る。)

この事件から間もなく、ハイ・メサ電力会社8の5902-Aが変電所の主要配線の絶縁体をハムに置き換えようと試みた結果、全ての地域の変電所で壊滅的な火災が発生した。

収容の歴史と状況: 財団はおよそ150年前からSCP-5902に感染しており、最初に汚染されたのは1869年頃、ロンドンの織物工場跡地の地下に位置する、財団の地域職員派遣センターだったと推測されています。財団は地球上のどのような団体と比較しても最大規模の連続性を有する組織の1つであるため、SCP-5902感染/再発の対策は非常に高価であると判断されました。代案として、SCP-5902の収容プロトコルは、5902-Aが制御可能な規模で財団の組織構造内に存在できるように再構成されました。

財団の活動規模が拡張するにつれて、SCP-5902の詳細な特性研究とコスト削減のために、5902-AをDクラス職員として実験に用いる試みが幾度か実施されました。事前に予測されていたものの、これらの試みはいずれも失敗に終わりました — 5902-Aは概して単純な指示さえも順守できず、ごく僅かでも心理的活動や知性を必要とする実験の全てにおいて、科学的に許容不可能な結果をもたらしました。

現在、単一のSCP-5902支部がワイオミング州にある職員徴用所の一部として存在しますが、この施設の運営方針はSCP-5902の存在に鑑みて若干変更されています。この施設は5902-Aが財団内にこれ以上拡散するのを防止し9、現在も進行中であるSCP-5902の研究と収容を行うためのプラットフォームとして存在します。職員徴用本部99(PIC99)に所属する5902-Aの“従業員”は、用務員などのスキルを必要としない雑務を行うことを認められており10、時には栄養分として人肉を必要とする異常存在が収容されたサイトに派遣され、また人間の犠牲を必要とする収容作戦の要員としても展開されます11

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存命である“管理部門”の最古の代表者、5902-プライム。

財団内のSCP-5902支部の初期感染媒介は現在も存命であり12、本稿執筆時点で財団に約150年間収容されています。5902-A個体はSCP-5902支部内に留まり続けるにつれて、より権威ある称号と外的性格を取得するので、この特定の個体は現時点で“サー・エドマンド・ジュリアス・ノニウス・リヴィングストン・デ・オムニモンド無限大宇宙総督卿”、もしくは単純に“リヴィングストン卿”を自称しています。文書化を容易にするため、この個体は5902-プライムに指定されています。5902-プライム(最初の記録上では“エドマンド・リヴィングストン”)は発見当初、ライバル組織のスパイだと考えられていましたが、その後の尋問によってSCP-5902現象そのものが特定されました。他の5902-Aは5902-プライムを“管理者”と呼称しており、財団の研究者は5902-プライムが施設内の雑務をこなす際に他の5902-Aの小集団を主導することを認めています。この配慮は5902-Aの協力姿勢と士気に良い影響を及ぼしているようです。

SCP-5902は過去複数回、職員徴用本部99から収容違反していますが、SCP-5902汚染の要素は全て容易に特定/無力化できるため、財団は現在SCP-5902の影響によって内部構造を改変される危険に晒されてはいません。また、PIC99からの収容違反は、一般社会でのSCP-5902支部に見られる感染率よりも格段に発生頻度が低く、収容措置も比較的安価に済んでいます。これは、5902-Aが刺激的な“暇つぶし仕事”に取り組むのを認める現在の収容ガイドラインと、5902-プライムの安心感を与える、権威を帯びた、厳然たる存在によるものと考えられます。

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