アイテム番号: SCP-609-JP
オブジェクトクラス: Safe Euclid
特別収容プロトコル: SCP-609-JPは一般からの買い上げにより現在財団の管理下にあり、完全に一般市民の侵入を防いでいます。決まった日程に発生する「ライブイベント」時に出現する機材を用いて、SCP-609-JP内302号室(以下SCP-609-JP-1と呼称)にて演奏を行います。ギターに1名、ベースに1名、ドラムに1名、場合によりキーボードに1名の、演奏チーム[Sacrifice Curse Prayer]によってプロトコル[デッドエンド]が実行され、「ライブイベント」を成功に導きます。楽曲は、SCP-609-JP-2の提供する曲目リストから選択されますが、「ライブイベント」中にSCP-609-JP-2がランダムに曲目を決定する点に注意し、ライブ終了まで演奏を続けてください。どんな理由であれ、この「ライブイベント」を停止することは許可されていません。
説明: SCP-609-JPは、東京都渋谷区██に存在するライブハウス「ブロークン」です。SCP-609-JPは一般的なライブハウスと一切変わりませんが、定期的に発生する「ライブイベント」時に限り、SCP-609-JP内、302号室(以下SCP-609-JP-1と呼称)が特異性を発揮します。SCP-609-JP-1は平時において通常の防音室と変わらない構造ですが、「ライブイベント」が発生すると、SCP-609-JP-1内がSCP-609-JPの外観上サイズを遥かに超えた巨大なライブホールに姿を変えます。これらはほぼ毎回、出現する機材、照明等が変化し、決まった形状や構造、デザインは現れませんが、観客が存在していない、あるいは不可視であるという点のみどの顕現時においても一貫しています。
「ライブイベント」発生時、SCP-609-JP-1内マイク前に、凹みだらけのギターアンプから乱雑にギターのネックが生え揃った頭部を持つ、白いジャンプスーツの男性が一人必ず出現します。これをSCP-609-JP-2と呼称します。SCP-609-JP-2に発声器官の存在は確認されていませんが、アンプの奥からディストーションを掛けたように酷く歪んだ声を出し、人間に対して一方的なコミュニケーションを行います。
「ライブイベント」は決まって月末、16:00より必ず発生し、リハーサルを挟んでから19:00に演奏が開始され、アンコール等が発生した場合は遅くとも22:00に終了します。これらはSCP-609-JP-2の行動によって多少の差異がありますが、タイムラインはおおよそ上記の通りです。
「ライブイベント」が完全に終了すると、SCP-609-JP-1内に居た人間は自然とSCP-609-JPへと転送されます。転送先は定まっていませんが、大抵の場合SCP-609-JP-1近辺、及びSCP-609-JP-1内に出現する場合が多いようです。転送された者は、「ライブホールがフェードアウトするように消えていく」と証言していますが、これらを映像に収めようとすると、極端な映像ノイズが発生し記録することが出来ません。
20██/██/██のインタビュー以後、「ライブイベント」が何らかの理由で中止、失敗した場合、内部に存在していたあらゆる存在の取り込みが発生するようになりました。現在までに██名の職員が行方不明となっています。これに加え、周囲██kmに存在する全ての音楽に関わる物品が瞬間的に演奏不可能な形に破壊されます。これらは軽音楽器に限らず、どのような楽器であれ影響が出ると判明しています。下記は影響の出た物品の抜粋です。
破損した楽器の一例
- 内部に取り出し不能なほど大量の消音器が詰め込まれたバイオリン。消音器は割れており使用出来ない。
- 未使用、未開封にも関わらず消耗し切った弦。弦を張る過程で切れる(弦楽器全般)。
- 熱で曲げられたかのようにネックが歪曲したギター。弦は全て破断している。
- 吹き口から縦に裂かれ、花弁のような形状にされたフルート。
- 鍵盤の消失した電気笛。これらの鍵盤は見つかっていない。
- 異常な電圧で接続先のアンプを破壊してしまうエフェクター。
- アンプに繋いだ瞬間、過電流によりマイクヘッドが爆発するマイク。
- PC上、携帯端末上における音楽アプリケーションの破損、及び起動不可能な状態。
これらはほんの一例であり、その他にも致命的な破壊を受けた楽器類が█████████以上存在しています。全ての事象が一瞬かつ同時に発生しているため、破損の瞬間は一切確認出来ていません。
これらの破壊の起こる範囲は正確には不明ですが、二度の意図せぬ失敗により同区内を超え、████区全土にまで影響が及んだことから、「ライブイベント」の停止は人類の文化活動の一側面に致命的な影響をもたらす可能性が危惧されています。以下は現在の特異性を発現する直前に行われたインタビュー記録です。
SCP-609-JP-2へのインタビュー記録
エージェント・西塔: SCP-609-JP-2。
SCP-609-JP-2: (ステージ上に登り声を掛けた瞬間、15秒間に渡る歪み切った絶叫)
エージェント・西塔: (耳を塞いでいる)
SCP-609-JP-2: 上がった。上がった上がった上がった上がった上がった上がったアァァァァァ!!
エージェント・西塔: (苦悶しながら)な、何を言って。
SCP-609-JP-2: (ステージ上から大袈裟な身振り)見ェねェのかッ!? このッ! 熱気に包まれたッ! 大観衆たちがッ!?
エージェント・西塔: (ライブ会場を見渡す。映像に観客が映っている様子は見られない)あの、誰も居ないように見えるんですが。
SCP-609-JP-2: ハッ!? ハッ!! ハーハハハハァ!! 誰もいない!? いない!? このカワイコチャンにはお前らが見えてないようだァ!! ディスってみなァ!!
(10秒間前後、凄まじい歓声が上がっていたと見られる。録音された音声はほぼ完全に割れていた)
エージェント・西塔: み、耳が。
SCP-609-JP-2: オイ、オイオイオイオイ!! エェ? お嬢ちゃん。ステージに上がってきたってこたァ、覚悟があるってことだ。 ア? 違うか? なァ!? なアァァ!?
(再び歓声。先ほどに比べ短いが、音声の割れ様は同様)
エージェント・西塔: っ、か、覚悟とは?
SCP-609-JP-2: (勿体ぶるような挙動の後、五秒間の沈黙)ギターは弾いたことあるかい、お嬢ちゃん。
エージェント・西塔: え、えー、まあ、少しなら。
SCP-609-JP-2: ██████████だ! 嬢ちゃんもそれくらいなら知ってるだろ? まずはテストだ、弾いてみな。
エージェント・西塔: (五秒ほどの沈黙)わかりました。(十秒間の演奏)
(凄まじいブーイングの嵐)
エージェント・西塔: さ、最近練習してないんだよ。
SCP-609-JP-2: (指を振る動作)ンンーッ、そうかそうか。嬢ちゃん。そいつァダメだ。全っ然、ダメだ。よしよしよし。わかった。俺も我慢の出来ねェガキじゃねェ。こうしようぜ。
エージェント・西塔: はぁ。
SCP-609-JP-2: 一ヶ月! 一ヶ月だ! そんだけ時間をくれてやる。それ以上は待たねェぞ。また会えるのを楽しみにしてるぜ、レディ。
〈ログ終了〉
インタビューの直後、SCP-609-JP-2は消失し、SCP-609-JP-1は実験以前と同様の防音室に戻った。エージェント・西塔は事象終了後に問題なく帰還しており、帰還と同時にSCP-609-JP-1内に「曲目リスト」が出現した。
インタビュー後出現した曲目リストには、SCP-609-JP-2が作曲したと思われる楽曲が表記されていました。これらは全ての曲目において音楽に対する嫌悪や憎悪の込められた歌詞が含まれていますが、音楽のジャンルにおいて言うなら、「ロック」というジャンルからは決して外れず、整った出来の楽曲が記載されています。また、このリストは「ライブイベント」が終了する度にSCP-609-JP-1内に内容を変えて出現しています。
なお、この曲目リストには全ページに渡り「次のライブにはお前らも必ず参加してくれよな!」というSCP-609-JP-2の直筆と思われる表記がありました。
「ライブイベント」の記録
記録日時 |
会場概要 |
演奏曲目 |
結果 |
20██/██/██ |
[編集済]に酷似した会場 |
████████ |
意図せず無視する形。中継機器からの映像が途絶え、SCP-609-JP-1は防音室に戻った。その後、同区内の楽器店における全ての商品が一斉に破損した。これにより特異性が判明、「ライブイベント」への参加がプロトコルに組み込まれた。カバーストーリー[波長実験]と記憶処理等により収束済。 |
20██/██/██ |
██館に酷似した会場 |
████████ |
演奏は成功。演奏技術において一定の基準にあると見なされたDクラス職員4名により演奏が行われた。アンコールまでを演奏し終え、SCP-609-JP-2は観客の声援に応えながら消失し、SCP-609-JP-1は問題なく防音室に戻った。 |
20██/██/██ |
██メッセに酷似した会場 |
████████ |
上同の職員により演奏は成功。SCP-609-JP-2から、演奏に参加していたDクラス職員達に対し労いの言葉が送られた。直後、SCP-609-JP-1は問題なく防音室へと戻っている。 |
20██/██/██ |
[編集済]に酷似した会場 |
████████ |
上同の職員により演奏は成功。SCP-609-JP-2が奏者全員を抱きしめて回り、観客からは盛大な拍手が巻き起こった。拍手が静まるのに合わせ、SCP-609-JP-1は問題なく防音室に戻っている。 |
20██/██/██ |
██ドームステージに酷似した会場 |
████████ |
演奏は失敗。上同の職員により演奏中、SCP-609-JP-2からマイクを奪い取ったDクラス職員が、不可視の観客と思われる存在により[削除済]。大乱闘の中、SCP-609-JP-1は防音室に戻った。奏者全員の行方は、生死を含めて不明。██区まで楽器の破損現象が起こっていることが確認され、カバーストーリー[伝説のロッカー]により収束された。この事案から、職務に忠実な奏者の選出を行うべきと判断された。 |
これらの実験の後、プロトコル[デッドエンド]が策定され、演奏技術に優れた職員及びエージェントによる対SCP-609-JP用演奏チーム、[Sacrifice Curse Prayer]が結成された。
一連の記録を鑑みるに、これらの「ライブイベント」失敗による文化的危険性は非常に高いと思われます。担当職員は、「ライブイベント」に向けての研鑽を怠らず、可能な限り技量の向上に努めてください。 ―― 前原博士
補遺:「ライブイベント」の無視が行われた後、防音室に戻ったSCP-609-JP-1に、メッセージの刻まれたギターが出現しました。メッセージは以下の通りです。
一度ステージに上がっちまったら、途中で降りるなんてこたぁ許されねェのさ [解読不能な文字列]