対象:SCP-619-JP-A
探査者:D-18925
担当者:千賀博士
日時:2013/06/██
付記: D-18925にはビデオカメラを所持させ、映像・音声をリアルタイムに視聴させる。担当者の指示は通信機により行われ、映像・音声データは探査担当班に常時送信される。
<記録開始>
D-18925: おい、電源入れたぞ。どうすりゃいいの、これ。
千賀博士: カメラを構えて記録を開始してください。
D-18925: あいよ…って、…は?なんだこれ。真っ暗じゃねえか。しかも奥にボロ屋がある。どうなってんだよ。
(D-18925はカメラと風景を繰り返し交互に眺める)
千賀博士: そのまま撮影を続けてください。
D-18925: …なんか誰かいるぞ。映像の方。ちっこい婆さんが歩いて…あ、家の戸が開いて爺さんが出てきた。ああ、向こうにも少し歩いてる。おっさんっぽいのと、小さい子供が一人だけ。なんだこりゃ、村か何かか?
千賀博士: もっと彼らに近づけますか?
D-18925: やってみる…はいいとして、ややこしいな。映像じゃ砂利道が写ってるけど、実際足元は倒木と雑草と岩だらけじゃん。転びそうだよ。
D-18925: ついたぞ。建物がいっぱい…て程でもないけど、何軒か続いてる。"██酒店"、奥のは"金具屋██"て、看板とこボヤけてるが書いてあるな。小さいけど商店街みたいな感じか。電柱とか家に長いコードで電球がぶら下がってる。祭りで提灯代わりにぶら下がってるようなのだな。周りは…何人か歩いてるな。爺さん婆さんばっかりだけど。気味が悪ぃ。
千賀博士: 彼らはあなたに何らかの反応を見せていますか?
D-18925: いや何にも。てか、この映像そっちで見てんなら分かるだろ。声掛けてみるか?
千賀博士: まだ結構です。そのまま道に沿って建物や周囲の様子を撮影してください。
D-18925: はいはい…商店街の後ろ、奥の方にもいくつか平屋?があるな。ど田舎の農家が住んでるようなの。畑や…多分田んぼもある。建物は電気が点いてるのが多いな。そっちもちらほら人がいる。
千賀博士: 何か気になる事はありますか?
D-18925: そうだな…道とか屋根とかに雪が残ってるな。歩いてる奴らもみんな着込んでる。こいつらの世界は冬なのか?
千賀博士: 興味深いです。
D-18925: あ、ハカセ、なんか広場みたいなのがある。真ん中に鉄パイプのステージがあって、その周りにかなり人がいる。話してたり、座ってボーっとしてたり。"███村公民館"て奥の建物に書いてあるな。壁の時計は…11時50分。その下の掛け看板は…「ようこそ2000年」「新生███村に関する公表会」…あと、あちこちに「あけましておめでとう」って書いてある。辰の置物に、門松まであら。なんだありゃ。
千賀博士: 周辺のものを、できるかぎり鮮明に撮影してください。
(D-18925は周囲を撮影しつつ、ステージ横のテントに近づく)
D-18925: …なんか机に資料みたいなのが置いてあるな。さわ…れねぇ。手がカメラには映るけど通り抜けちまう。1枚目だけだけど、見えるか?
千賀博士: 少しそのままお待ちください…ありがとうございます(※記録資料619-JP-β-21を参照)
D-18925: で、どうすればいい?目に映るもんは粗方撮ったぞ。
千賀博士: では、SCP-619-JP-1との接触に入ってください。誰でもいいので、映像に映る人物に話しかけてみてください。
D-18925: じゃあ…おい、婆さん。
(D-18925は映像内近辺に存在したSCP-619-JP-1実体に接近する)
SCP-619-JP-1: ええ?あぁ、おめでとうございますぅ。
D-18925: は?あ、ああ、おめでとう。
SCP-619-JP-1: 見覚えないけど、麓の若いのかや?
D-18925: ええっと…どうすりゃいい。
千賀博士: 会話を続けてください。
D-18925: えっとな、近くの人間じゃないんだけど、ちょっと用があって来てるんだ。
SCP-619-JP-1: まぁまぁ、こんな何も無い村にそんな寒い姿ではるばると…せっかくの大晦日なんだから、公民館で酒でも飲んでゆっくり暖まっていってくださいな。もうすぐ、村長さんがそこの舞台でお話しくださるの。
D-18925: 村長?
SCP-619-JP-1: ほら、そこの白い上着の色男。ちょっと頭が寒いけど。アヒャヒャ…
D-18925: …どうする?
千賀博士: 接触を行ってください。
(D-18925は指された先の実体に接近する)
D-18925: おい、あなたが村長さん?
SCP-619-JP-1: …え、ああ!すみません、ちょっと原稿読んでたもので…
D-18925: …何か、話すんでしたっけ?
SCP-619-JP-1: ええ、あと10分、12時ちょうどに大発表ですよ…ところで、あなたは?
D-18925: あ、ちょっと用があって立ち寄ったって言うか。
SCP-619-JP-1: そりゃいい!公民館で酒と年越し蕎麦を配ってるんで、どうぞゆっくりなさってください。せっかくの大晦日、最後の1900年代なんですもの、楽しみましょう!
D-18925: え…まあいいけど。ところで、何の大発表があるんです?
SCP-619-JP-1: こんな寂れた村で名所もなく、若者はみんな麓や都会に行っちゃいました。もうすぐここも廃村か、という所で助けてくれた方々がいるんです。「███村を永遠に残る思い出の場所へ!」って再興計画を立てて頂いたんですよ。しかもボランティア!もういらっしゃるはずなんですが…
D-18925: 姿が見えない?
SCP-619-JP-1: まぁあと10分ありますし、ギリギリでいらっしゃるでしょう。
D-18925: …気になってたんだけど、さっきからずっとあの壁の時計"11時50分"のまんまだよ。壊れてんじゃないの。
SCP-619-JP-1: まさか!あれはこの村で一番新しい電波時計ですよ。それにほら、私の腕時計だって。
D-18925: …その時計、秒針が同じ所を行ったり来たりしてるぞ。
(対象が口ごもる。千賀博士以下の担当職員はこの異変を察知しコンタクトへの介入を協議する)
D-18925:そもそも今2013年だし。おたくらいつの人間?
千賀博士: 会話内容を自重してください。
D-18925: え、ああ。じゃあ、そのボランティアの人たちって、どんなひと?
SCP-619-JP-1: …。
D-18925: おい。
SCP-619-JP-1: 20…13年。
D-18925: は?
SCP-619-JP-1: そうだ。…ずっと…昨日も。一昨日も。13年。何度も待ってた。
D-18925: どうした、急に、
SCP-619-JP-1: あの人たちは…来なかった。あと10分で、10分経っても、いや経たなかった。忘れてた。私は…ずっとスピーチ台の前で…
D-18925: おい
SCP-619-JP-1: 忘れてた。みんな、忘れてた。あまりにも長すぎた。気づけなかった。いや気づいていた。わからなくなっていた。
(映像内周辺にSCP-619-JP-1が集まって来ている事にD-18925が気づく)
SCP-619-JP-1: 永遠だった。ここは永遠だ、そういう事か。再興なんかじゃない。こういう事だったんだ。わからなかった。あいつらは、
D-18925: おい!何だよおっさん、あ、え、さっきの婆さん なんでみんなこっちに来るんだよ!…何で見てるんだよ!
SCP-619-JP-1: あんたは違う。私たちが違う。消えている。あんたの身体、私たちには、たすけてくれ、つれてってくれ、ここは違う、この村は、もう、ない、わたしたちも
(硬直するD-18925の持つ映像画面にSCP-619-JP-1が張り付く)
SCP-619-JP-1: ここから出してくれ。
<記録終了>
終了報告書: D-18925は映像機器を放棄して逃走。間もなく確保されました。検査の結果身体的異常は見られませんでしたが、精神面に本件が起因と思われる錯乱と一種のパラノイアと考えられる症状が見られました。記録のためD-18925の様子を機器により撮影したところ、歪な姿をした存在がその身体に「抱きつくように」半ば溶け込んで映し出されました。未知のミーム的影響を考慮し、D-18925は閉鎖空間での短期間の追加試験の後終了されました。放棄された映像機器には、逃亡するD-18925を凝視するSCP-619-JP-1群が機器が回収されるまでの間記録されていました。