SCP-642-JP
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SCP-642-JP(2016年)

アイテム番号: SCP-642-JP

オブジェクトクラス: Euclid Keter

特別収容プロトコル: フィリピン共和国ルソン島に設置されたサイト-6302は熱帯多雨林の一部区画を自然保護区として指定し、民間人の立ち入りを規制します。SCP-642-JPから基底世界にSCP-642-JP-α~-γ個体が流入した場合、サイト-6302は当該個体を生物収容セルに収容します。

ロシア連邦および日本国に残留・生息するSCP-642-JP-β個体に関してはロシア連邦軍および陸上自衛隊と共同で捕獲作戦が展開されます。作戦の進捗および成果はロシア天然資源・環境省および日本環境省と共有されます。SCP-642-JPの収容に際し、飼育方法はそれぞれ非異常のフィリピンオオコウモリ(Acerodon jubatus)、ピューマ(Puma concolor)、シロサイ(Ceratotherium simum)のものが参照されます。

追記: SCP-642-JP-δは未収容であり、処遇は審議中です。SCP-642-JP-δが確認された場合、本件に関しO5評議会が緊急招集されます。なおこれに関連し、放棄された旧サイト-6301は常時封鎖を維持されます。



説明: SCP-642-JPは、ルソン島マヨン山麓(北緯13度14分9秒、東経123度39分20秒)に約█km2の範囲で分布する時空間異常領域です。SCP-642-JPと基底世界の関係は確定されていませんが、SCP-1796-JPの文献記録に未記載であること、および生息する動物群に適用された分子時計から、接続先は現代から約7,600万年後の未来と推定されています。ただし、SCP-642-JP内は基底世界との経過時間の不整合が認められることから、異なる時空間同士の緩衝による非線形作用が時間軸に影響していることが推測されます。

SCP-642-JPは熱帯多雨林の内部に位置しますが、領域内は温暖湿潤気候であり、植物食性動物による下層植生の撹乱を伴う落葉広葉樹林が広がります。領域内は非異常の霧が常時立ち込めており、本稿執筆時点で観測された最大視度は約500mです。視界不良および生息する野生動物のため、深部の構造および環境は不明です。

過去のSCP-642-JP探査において、調査チームは翼手目の未確認系統群に属する複数の生物と遭遇しています。当該生物の骨格形態は既知の翼手目の哺乳類から乖離する一方、分子系統解析からはチスイコウモリモドキ(Vampyrum spectrum)との近縁性が示唆されます。現生のチスイコウモリモドキは準絶滅危惧種ですが、翼手目は齧歯目に次いで繁栄する哺乳類であり、氷河期が続く恒温動物優位の世界において個体数を回復し適応放散を遂げたと推測されます。当該生物は本稿執筆時点でSCP-642-JP-α~-γとして指定される全3種が確認されています。

SCP-642-JPは遅くとも14世紀には発生していたと推測されており、以降ルソン島の住民はSCP-642-JPを認識し、宗教的あるいは政治的目的の下に内部を訪れていました。具体的には、歴史時代以前からSCP-642-JP-α、20世紀以降からSCP-642-JP-β, -γと人間との遭遇が記録されています。以下はSCP-642-JP-α~-γの詳細です。

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保護されたSCP-642-JP-α(1945年)

生物学的詳細: SCP-642-JP-αは、フィリピンオオコウモリ(Acerodon jubatus)に収斂する飛翔性動物です。SCP-642-JP-αは小型のイヌ科動物に類似する頭蓋骨および歯列を有しますが、主な食物は果実および花蜜であり、イチジクを好む傾向が確認されています。翼をはじめとするボディプランは現生の翼手目と共通します。

SCP-642-JPは虹彩から青色および赤色の光を放出します1。光度は片目あたり最大約2.0×104cdであり、明瞭な視界の確保、発光パターンを用いた外部環境の情報伝達・異性の誘引・天敵の防除に使用されます。当該の特性は反射ではなく発光に起因しており、視細胞におけるルシフェリン-ルシフェラーゼ反応を経て触媒されたルシフェリンが発光します。酵素反応で約2.0×104cdもの光度の光を放射可能な理由、光刺激および反応熱から視細胞およびロドプシンを保護する機序、発光中の視覚維持の過程は不明です。

SCP-642-JP-αは最大で数万個体からなる群集を形成するため、飛来時には日照量の有意な低下および轟音が認められます。集団行動時の低照度環境においてSCP-642-JP-αが光を放出する様子が確認されています。

歴史: SCP-642-JP-αは現地マレー人の間で口伝が残されており、暗闇の中でSCP-642-JP-αが発する光を観賞する文化的風習の存在が示唆されます。当時の中華王朝の古文書によると、14世紀後半から伝来したイスラム教に合わせSCP-642-JP-αは天使として認識され、以降16世紀に西洋勢力が波及するまで神聖な生物として重宝されました。

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スペイン植民地時代に設置された網。30個体以上のSCP-642-JP-αを一度に捕殺可能とされる(1829年)。

1570年、ミゲル・ロペス・デ・レガスピ率いるスペイン帝国のコンキスタドールがSCP-642-JP-αと遭遇し、これを記録しています。カトリック信者で構成される帝国勢力の間では、翼と黒色の体表は悪魔の形態形質の1つ、また虹彩の光は人間を誘惑して堕落させる邪な魔術として認識され、SCP-642-JP-αはサタンの下僕として解釈されました。以降、スペイン帝国の支配下に置かれた同地ではHMFSCPによる介入まで駆除が実施されました。

狩猟者の視点ではSCP-642-JP-αは生物発光の特性ゆえに発見が容易であり、夥しい個体群が定期的に捕獲されました。具体的な捕獲法としては、霞網に代表される捕獲装置の設置、エタノールに浸したイチジクを用いた酩酊状態の誘発、捕獲済みの衰弱個体・高齢個体を囮とする誘引、幼獣の生息する巣穴の焼き討ち等が挙げられます。捕獲された個体は囮に流用するものを除いて大多数がその場で撲殺され、遺骸は樽に詰め込まれた上で焼却処分されました。当時の文書にはSCP-642-JP-αを集積した樽による政府直轄保管庫の逼迫が記録されています。

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帝国陸軍と交戦中のアメリカ合衆国陸軍第25歩兵師団(1945年)

1898年にアメリカ合衆国がフィリピンを統治下に置いた後、太平洋戦争において大日本帝国陸軍は1942年5月に同国を占領して軍政を敷き、米国との癒着の懸念から当時存在した財団サイトを解体しました。帝国陸軍はSCP-642-JPに侵入してSCP-642-JP-αを再発見し、高い視力による夜間の索敵、および無線機器故障の際の代替手段としての利用を期待し、軍用動物に転用しました。

1944年以降の米軍によるフィリピン奪還において、SCP-642-JP-αは光信号による敵対勢力の撹乱・誘導の役割を担い、多数の個体が米軍に射殺されました。最末期のルソン島の戦いではSCP-642-JP-αは焼夷剤を伴って米軍に向け投下され、帝国陸軍の全面降伏に至るまで動物兵器として消費されました。米軍側の記録では、燃え盛るSCP-642-JP-αの群れが夜空を赤く彩った様子が記載されています。

ルソン島奪還後、財団は施設を再建しサイト-6301を設置しました。



事案642-JP: 2025年9月、未確認のSCP-642-JP関連生物(以下、SCP-642-JP-δ)の基底世界侵入およびそれに関連する複数の収容違反が認められました。インシデントに際しサイト-6301は封鎖され、SCP-642-JPおよび自然保護区の管理はルソン島西部に位置するサイト-6302へ移管されました。当該インシデントは現在も進行中であり、IK-クラス:世界文明崩壊シナリオ発生宣言、Tiamatクラスへの再分類を含め、事態急変の可能性があることに留意してください。

以下は関連するタイムラインです(最終更新:2025/09/09 02:22 (UTC))。

事案642-JPタイムライン

09/07 07:32 (PST): 自然保護区の防護柵より、内部から突破された形跡が報告される。柵は縦3m横2mに亘って歪曲し開放されており、付近の地面には鉤爪を伴う趾行性の二足歩行動物の足跡が確認される。足痕は翼手目のものと同定され、トラックメーカー4は未確認のSCP-642-JP関連生物と認定される。

09/07 07:45 (PST): サイト-6301直属の機動部隊による周辺地域の調査および収容違反個体の回収が開始される。SCP-642-JP-βとの複数回の交戦を経て4名の隊員が死傷。トラックメーカーは未発見。

09/07 19:00 (PST): 昼間作戦の終了に伴い、トラックメーカーをSCP-642-JP-δに指定。


09/08 10:19 (PST): サイト-6301の外壁が爆破され、融解を開始する。開放部より防毒マスクを装備した複数体の未確認人型実体が侵入。応戦する機動部隊に対し未確認の爆発物および化学兵器を投入し、サイト内に侵攻する。機動部隊員は激痛と水疱を伴う皮膚炎を発症。

09/08 10:22 (PST): 監視カメラの映像より、人型実体をSCP-642-JP-δとして同定。SCP-642-JP-δが知的生命体として確認される。サイト-6302より応援部隊を派遣。

09/08 10:42 (PST): SCP-642-JP-δがサイトを占領。脱出に失敗した職員に対する生体解剖、蔵書およびデータベースへの侵入を開始する。

09/08 11:07 (PST): SCP-642-JP-δが生物収容施設に対する破壊工作を開始。収容下にあったSCP-642-JP関連動物群の大規模収容違反が発生。事態悪化を鑑み、サイト-6302およびその他4ヶ所の収容サイトより追加の応援部隊を派遣。

09/08 18:26 (PST): 作戦終了。SCP-642-JP関連動物群の鎮圧・確保に成功するも、SCP-642-JP-δをロストする。サイトの損害のためSCP-642-JP-δの捜索は一時凍結され、動物群は再収容のためサイト-6302へ移送。

09/08 19:38 (PST): サイト内に散布されたエアロゾルの成分検査の結果、バイカルハナウド(Heracleum mantegazzianum)やマンチニール(Hippomane mancinella)のものに類似する有毒植物の樹液として同定される。当該の樹液は組成が異なる一方、化学的な調整は施されていないことが示唆される。


09/09 06:32 (PST): ルソン島近傍に位置するカタンドゥアネス島およびマスバテ島からSCP-642-JP-δ様実体が報告される。遭遇した農夫が上記のエアロゾル散布の被害を受ける。

09/09 07:00 (PST): 機動部隊による捜索を開始。作戦中にSCP-1437-JPの繁殖が複数検出される5。これはSCP-642-JP-δが意図的に設置したものと判断される。

09/09 09:15 (PST): ピンカートン・スミス協定に基づき、イングランドのサイト-44でのSCP-2945-JPとの緊急対談の実施が決定される6

09/09 09:57 (PST): O5評議会の命令を受け、南北アメリカ大陸に駐在する財団機動部隊がチスイコウモリモドキ掃討に向け臨戦態勢に突入。

09/09 10:20 (PST): サイト-6301を除くフィリピン国内の全財団サイトより、SCP-642-JP-δに向けた音波による交信の試みを開始。応答なし。


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