SCP-729-JP
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アイテム番号: SCP-729-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-729-JPは現在、██県██町に存在する財団フロント企業経営の中華料理店”██飯店”に収容されています。当該店舗の営業時間中は常に1名以上のエージェントを店内にて待機させて下さい。イベントの発生が確認されたら直ちに待機エージェントはプロトコル”大根役者”に基づく方法でイベントを中断させて下さい。何らかの理由によりイベントが完遂されてしまった場合は、直ちに近隣の飲食店へエージェントを派遣し、SCP-729-JPの出現店舗を特定します。

説明: SCP-729-JPは、中華料理を供する飲食店に出現する、椅子の形をした実体です。出現ごとに形状の差異はありますが、材質は必ず木製かつ、床に固定されていないタイプのものです。
SCP-729-JPは、所謂中華料理店において店舗に置かれた既存の椅子と入れ替わる形で出現します。その際、入れ替わったSCP-729-JPは元の椅子を完璧に模倣するため、後述するイベントの発生以外に判別する方法はありません。

SCP-729-JPの持つ異常性は、SCP-729-JP及びその隣の椅子に成人男性が同時に座った際に一連の”イベント”を発生させることにあります。椅子にかけるタイミングは厳密には問われず、単に並んで座ることがあれば条件として成立します。イベントの詳細は以下のようなものです。

まず、SCP-729-JP及び隣の椅子に座って食事をしていた2人の人物の間で、『肘が何度もぶつかった』、『食事の際に立てる音がうるさい』など、毎回異なる理由での軽い口論が始まります。その口論は徐々にエスカレートし、互いに突き飛ばしたり、小突いたりといった軽度の暴力的手段を経て、やがて席を立っての殴り合いの喧嘩へと発展します。しかしこの際、両者の本来の身体能力に関係なく、正拳や突き、手刀、蹴りといった格闘術を用いての、非常に高速かつ高度な攻防が繰り広げられます。争いの最中、SCP-729-JPに座っていた方の人物(SCP-729-JP-1)はやがて、自身の座っていた椅子(SCP-729-JP)を、盾にして相手の攻撃を防いだり、振り回して武器にしたり、蹴り飛ばして相手の足を払ったり等、争いの道具として用いるようになります。

そして一連の闘争は例外なく、SCP-729-JP-1の勝利という形で決着が付きます。敗北した側の人物は、SCP-729-JP-1の最後の攻撃で異常なまでに大きく吹き飛びます。この際、激しい錐揉み回転を伴ったり、店内に積まれた椅子や小物などがあれば、そこへ思い切り突っ込んで派手に崩したりといった結果を伴うこともあります。また、フィニッシュとなる攻撃の武器として使われたり、攻撃を防ぐ盾として使われることで、決着の瞬間あるいはその前にSCP-729-JPは大破します。敗北した人物はそのまま失神し、SCP-729-JP-1は自身及び相手の分の食事代をカウンターに置き、足早に店を去ります。それと同時に大破したSCP-729-JPが消滅し、それを以てイベントが終了します。

また、一連のイベントが起こる最中、客や従業員といった店舗内の人間には認識障害が発生します。立って歩く、誰かに声を掛ける等、ある程度自由な行動は可能ですが、店外へ出る、警察などの助けを呼ぶといった手段を一切思い付くことが出来なくなる上、争う両者を仲裁することを思い付いたり、当人達へ宥めるような言葉を掛けることは出来ても、実際に激しく争う両者を前にすると『巻き込まれたら非常に危ない』、『自分の手に負える相手ではない』と強く感じることで仲裁の実行までは至らず、いずれの人物もただ目の前の争いを見届けることに終始します。この認識障害は上記イベントの終了、即ちSCP-729-JP-1が店外へと出た時点で消失しますが、それと同時に別の認識障害によって上書きされ、今し方目の前で発生した激しい争いを、然程異常なものではないと認識し、店内にいたどの人物も警察や救急への通報を行いません。また、SCP-729-JP-1との争いに敗れた人物はSCP-729-JP-1の退出と同時に目を覚ましますが、これまで発生した全てのケースにおいて、非常に派手な吹き飛び方をしたにも関わらず無傷、或いはごく軽い擦り傷程度しか負っていません。更に、SCP-729-JP-1及びその相手となった人物は当該の争いを実際のものより非常に過小なものとして記憶しており、店内で軽い口論になった、程度の認識しかしていないことも確認されています。1

一連のイベントが完遂されると、SCP-729-JPは前述の通り大破したまま消滅しますが、その後、当該店舗の近隣にある別の中華料理店へと転移し再出現します。転移する具体的な対象範囲は不明ですが、半径3kmより遠い店舗に転移したケースはこれまで確認されていません。消滅するタイミングがイベント完遂と同時であるため、転移を防ぐにはイベントの発生、または完遂を阻止する必要がありますが、店内にいる人間は全て認識障害を被るため店外にイベント阻止のための応援を求めることは不可能であり、更に本人の仲裁や争いに割って入るような行動も実行には移せないため、一度イベントが発生してしまうと阻止は困難を極めます。現在、イベントを阻止する方法を模索中であり、そのためのアイディアを広く募集しています。 20██/██/██のイベント発生事例における、エージェント・██の行動によって、有効と思われる対策方法が発見されました(後述)。

SCP-729-JPは20██年█月頃、██県██町にて発見されました。当初、近隣に存在するサイト-81██に勤務していた██博士が、同僚である███博士に『昨日の昼食時、たまたま入ったラーメン屋で妙に激しいアクションの喧嘩が起こった。お互い格闘技の経験者だったのだろうか、珍しいものを見られた』と話をしたことが、財団が最初に関知したSCP-729-JPの例でしたが、当時は異常存在としての認識はされていませんでした。しかしその後、同地域のフィールドエージェントより、██町の住民の間で、██博士の報告と非常に酷似した『ラーメン屋での妙に激しい喧嘩』の目撃例が相次いでいるという報告があり、急遽調査が開始されました。██博士にインタビューを行った後、██町の飲食店にエージェントを派遣し調査したところ、複数のエージェントから██博士と同様の報告がされました。これらのエージェントの報告は、『報告者本人がこの喧嘩騒動を特に異常な出来事ではないと認識している』という点でも██博士の目撃例と一致しており、認識災害の一種を伴うものであるという予測が立てられました。詳細な異常性を探るためDクラス職員や有志のエージェントを派遣しての追加調査が複数回行われましたが、店内にいる人物への認識障害によって異常性を深く探ることが難しく、度重なる調査の末にようやくイベントの詳細な流れや、異常性の源が椅子であることなどが突き止められ、正式にオブジェクトとして認定されました。

イベントの発生は、店外からでも観察可能です。しかし、店内に足を踏み入れる、窓の外から内部に何かを投げ込むなど、明確に干渉しようとすると店内にいる人物と同様の認識障害に晒されるため、店外からの妨害も非常に困難です。これはたまたま喧嘩を目撃した一般人のみならず、明確にオブジェクトの異常性を認識している場合であっても矛盾せずに両立されます。Dクラス職員に対して『仲裁しなければ処罰の対象となる』と言い含めた上でイベント発生中の店内へ向かわせた場合でも、『処罰なんかよりずっと恐ろしい目に遭いそうだった』といった理由で仲裁の実行には至りませんでした。

補遺1: 20██/██/██、財団フロント企業経営の中華料理店”██飯店”にSCP-729-JPが出現し、一般客の間でイベントが発生、小競り合いが始まりました。この際、店内にいたエージェント・██はイベント阻止を試みるべく、大声で仲裁するような言葉を掛けながら争う両者へと近付いたところ、たまたま店内の床に水が零れており、イベント阻止に集中するあまりそれに気付かなかったエージェントは足を滑らせて派手に転倒しました。するとその瞬間、店内にいた全ての客や従業員、そして争いあっていた両者までもが一斉に大声で笑い出し、店内は爆笑に包まれました。その後エージェントは争っていた両者に笑いながら助け起こされ、店内の客や従業員は一斉に食事、または業務に戻り、イベントの対象者であった両名も互いに笑いつつ、食事に戻りました。その後、両者はそのまま食事を終え、通常通りに店外へ退出していき、同日中のイベント再発生もありませんでした。

翌日、同店舗にて再びイベントが発生し、客同士の諍いが起こりましたが、同エージェントが再び大声で仲裁の言葉を投げつつ両者へ近付き、わざと派手に転んで見せたところ、またしても店内は爆笑に包まれ、イベントはそこで中断されました。この報告を受け、研究チームと同エージェントによってイベント中断の条件が精査され、

  • イベントの渦中にある両者へ関わろうとした際、転倒する、足を引っかける、テーブルや椅子にぶつかるなど、スムーズな移動に失敗する
  • 同様の場合において、両者へ掛けようとした言葉を途中で言い間違える、発音などが不明瞭になる(所謂”噛む”)、言葉を忘れたかのように口ごもり、間が空くなど、発言に失敗する
  • 『店内で起こった喧嘩の見物人』としては、明らかに異常、または目立ちすぎる行動をとる(いきなり踊り出す等)

などの行為によって、爆笑を以てイベントを中断させることが可能であることが判明しました。イベントが中断された段階で認識障害は発生しますが、一般客や従業員には『店内で転んだ人がいた(またはそれを助けた)』といった程度の記憶しか残らないことがインタビューによって判明しています2。一連の行動は、故意に起こしたものであっても効果がある他、イベントが中断されるとSCP-729-JPの転移も発生せず、同日中はイベントの再発生が起こらないことも確認されました。これらの結果をもとにSCP-729-JPのイベント阻止プロトコル”大根役者”が制定され、今日まで同店舗内からの転移を防ぎつつ、イベントの発生阻止に成功し続けています。

補遺2: SCP-729-JPと、██町内にかつて住んでいた人物である、██ ███氏との関連性が指摘されています。██氏はアクション映画、とりわけカンフー映画の大の愛好家であり、カンフー映画のポスターやフィルムといった、非常に多彩なコレクションを所持していることで同町内では有名な人物であり、『カンフー映画の素晴らしさを後世に伝えていきたい』と個人的な普及活動も行っていました。しかし、200█年█月に発生した地震によって、倒れてきた家具によって頭部を強打したことで亡くなっています。この際、██氏はコレクションを所蔵していた倉庫にて、倒れてきた棚から何かを体の下に庇うような姿勢のまま亡くなっていましたが、彼の体の下には何もありませんでした。また、この地震に伴い、██氏が日頃より最も大事だと自慢していた、有名アクション俳優である█████・███氏が撮影に実際に用いたという木製の椅子が消失しています。██氏の自宅や倉庫、近隣地域の捜索も行われましたが、現在まで発見に至っていません。

確かにカンフー映画にNG集は付き物ですけど、いささか不本意です。  ――エージェント・██

少なくとも我々は、君が名俳優であることを知っているぞ。  ――██博士

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