アイテム番号: SCP-732-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-732-JPはサイト-81UO地下階層の防霊収容庫に収容されます。3つの収容庫はそれぞれ15m以上離れた別エリアに分けて設置し、移送の際は標準危険物取扱指示書に基づいた手順で必ず1枚ずつ運搬を行ってください。SCP-732-JP実例同士を接近させる、あるいは重ねる行為は予期しない異常な反応を発生させる場合があります。
またサイト-81UOの限られた施設面積内に多数のSCP-732-JP実例を保管する状態は、後述する超心霊放射の相乗増幅現象を発生しかねないため、最低限のサンプル3枚を残して余剰なSCP-732-JP実例は応用秘儀セクション1による秘教技術的な強制祓除処理が行われています。
説明: SCP-732-JPはNx-54("四十八町")2内にて不特定多数の流通が確認されている、異常な十円硬貨です。SCP-732-JPと日本国政府によって貨幣として発行されている通常の十円硬貨との外見上の差異は確認されず、計量・研磨などのテストの結果も標準的な範囲の数値にとどまります。
全てのSCP-732-JPは毎秒0.03ミリホフマンの超心霊的エネルギー放射(Paraspectral Energy Emissions)を発しています。精神工学サイオニクスにおいて超心霊放射は、主にヒトの集中思念から誘発される超感覚的知覚(ESP)、念動力(PK)などの超常現象を説明するものとして発見され、現代では霊的実体の作用力、特に騒霊現象(ポルターガイスト)と呼ばれる物体の遠隔操作能力の発生源としても深く関連付けられているエネルギーです。
それぞれのSCP-732-JP実例が発する超心霊放射は微弱であり、単体では目に見える作用を及ぼしません。しかしながら各SCP-732-JP実例がそれぞれの半径15m円内に複数存在する場合、各SCP-732-JPの超心霊放射作用は乗算される形で増幅されます。
この超心霊放射の相乗増幅現象によって発生する事象は「コイントスに使用された際に裏を出す確率が異常に上昇する」や「直接触れている部分の筋肉に不随意的な痙攣を引き起こす」「周囲の人物に対する不眠症の誘発」などといった軽微なものから、「斥力による反発や爆発に似た小規模な衝撃波の発生」「イヌ科の動物の鳴き声に似た幻聴の喚起」「表面温度の瞬間的な急上昇」「暗所において周囲に青白い球状発光体が確認される」といった、一般市民にとって明らかに異常な現象として認識されるものが含まれています。
SCP-732-JP実例の数に応じて超心霊放射は不安定かつ急激な増幅を見せ、特に実例同士が重ねられるように密着している状況では危険な反応を誘発します。この性質のため、SCP-732-JPの回収を行う際はそれぞれのSCP-732-JP実例を隔離し、標準危険物取扱手順に基づいて処理を行うよう定められました。
補遺: Nx-54の管理施設である財団サイト-81UOは、発見次第フロント企業の経済的活動を通してSCP-732-JPの回収及び非異常性の十円硬貨との交換を行っています。しかしSCP-732-JP実例の回収数・発見頻度はNx-54の経済規模と流動性に比して非常に高くなっており、関連事案の多発からヴェール・プロトコルに基づくアノマリー隠蔽措置の懸念材料となっていました。
以下は、サイト-81UO内で行われたSCP-732-JPに関する職員ディスカッションの記録です。
サイト-81UO — 職員間会議ログ 20██/██/██ — 10:03 am |
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Agt.八谷: 要するに、なんでこんな田舎で異常な十円玉が大量に発見されるんだよ!ふざけんな!ってことですよね。一枚ずつ運ばなきゃならないせいで回収がめんどくさすぎるぞ!って。 蔵元管理官: 八谷君の私怨が籠ってる気がするが、まあそういうことだ。昨日は例の十円玉が中通りの鶏鳴軒のレジスターを爆発させて騒ぎになった。現場からは13枚のSCP-732-JPが発見され、店主は怪我のために1週間ほど店を休むと宣言した。この町に2軒しかない貴重なラーメン屋だったのに。 稲生編纂官: 言っちゃあ悪いですけど、あそこの店を行きつけにしてたの蔵元管理官だけですよ。どういう出汁の取り方したらあんな獣臭いのに味が薄いスープ作れるのかね。 織戸博士: 麺も間違いなく茹で過ぎでしたね。……とは言え、根本的な対策を取らなければ昨日のような事件が繰り返されるのは明白です。原因究明には喫緊性を持って臨むべきでしょう。 Con.s.武内: ウチのセクションのことも忘れないでくださいよォ。モノの厄祓いって結構大変なんです。しかも硬貨って沢山の人の手を経てきてるので、いろいろな念がこびり付いててなかなか落ちないんですよ。 蔵元管理官: ご苦労様。強制祓除処理中に何か気づいたことは無かったのか? Con.s.武内: あー、強いて言うならァ……さっきのラーメン屋の話じゃないんですが、獣臭さみたいなものは少し感じましたかねェ。濡れた野良犬っぽい、酸っぱい感じの匂いです。 稲生編纂官: 引き起こされる異常現象の1つにも「イヌ科の動物の鳴き声に似た幻聴」と書いてあったな。何か関連性が……そう言えば、この"イヌ科"って何なんだ。シンプルにイヌじゃダメだったのか? 織戸博士: イヌだけではなくキツネやタヌキに似た鳴き声を聴いたという報告例があったので、それのことでしょう。どれもイヌ科の動物です。 稲生編纂官: おい! 話が全く変わってくるじゃねえか、みんながみんな動物の分類を覚えてると思うなよ。誰だ横着して記述をまとめた奴は。 Agt.八谷: 私も少し気になったことがあったんですけど、何でSCP-732-JPって十円玉だけなんですかね? 例えば四十八よそはちの霊的なエネルギーか何かに当てられて異常なコインになったんだとしたら、十円玉じゃなくて百円とか五十円だってそうなっていいはずですよね。 織戸博士: ふむ、素材の違いが影響しているのでしょうか。同じ青銅硬貨である五円がSCP-732-JP実例として回収された事例が確認されていないことから、銅が組成の90%以上を占めないと異常性が発現しない、もしくは極度にしにくいといった法則があるのかもしれません。 蔵元管理官: 製造年にも何か関連性があるかもしれないな。この記録資料を見てほしいんだが、どうも今まで回収されたSCP-732-JP実例は殆どが平成より前の年号が刻まれたもののようなんだ。特に昭和50年代以前のものは明確に多い。 Agt.八谷: あ、ホントだ。やたらと偏ってますね。武内さんが言ってたみたいにモノに籠った念がどうのこうのって話なんですかね? 古ければ古いほど悪霊が宿りやすくなるみたいな。 稲生編纂官: ちょっと待て、それは本当か? 資料をこっちにくれ。 Con.s.武内: 何か気づかれたんですかァ? 稲生編纂官: 昭和50年……1975年。十円玉……イヌ、キツネ、タヌキ……。[ため息] ……原因がなんとなく分かった。俺の予想が合ってるなら、かなり最悪だ。 蔵元管理官: とりあえず、辿り着いた真相について聞こうか。 稲生編纂官: では、まず前提として。ある年代に集中して行われた、イヌやキツネに関わっていて十円玉を使用する何か。3つの特徴から察するに、SCP-732-JPに関わっているのは"こっくりさん"ではないかと思われる。 Agt.八谷: というと、十円玉にみんなで指を乗せて「こっくりさんこっくりさんお出でください」とやったら勝手に十円玉が動き始めるってあれですか。 稲生編纂官: そうだな。五十音や数字と「はい」と「いいえ」を書いた紙を用意しておくことで、十円玉が動いて尋ねたことの答えを教えてくれるという一種の降霊術だ。この降ろす霊というのがイヌやキツネといった動物霊で、"狐狗狸"からこっくりさんという名がついたとも言われる。 ……これが1970年代に小中学生の間で大流行した。そして何件か実際に、参加者が体調を崩す、叫んだり窓から飛び降りるなど奇行に走る、失神する……といった事故が起きてしまった。ま、タイプ・ブルーでもない素人がやってるものなので成功率も低いし、殆どが思い込みのパニックだったわけだが。それでも全国の学校図書室はこっくりさんに関するおまじないやオカルト本を撤去し、教師はこぞって校内での禁止令を出した。 蔵元管理官: ああ、あれは初動の収容対応がマズかったな。ちょうど第一次オカルトブームが来てた影響もあって監視のみに回ったのが良くなかった。あとアレあんまり役に立たないんだよ。一時期情報収集に使用できるかと思って諜報課で研究されてたことがあったが、元が動物だって触れ込み通り大したことは知らないし。 稲生編纂官: その通り、俺たちが普段扱っているものに比べれば他愛のない種類のものであるのは確かだ。しかし、間違いなくそれが低レベルの超常的儀式であるのも確かだった。 織戸博士: 待ってください。つまりSCP-732-JPの発する超心霊放射は過去に"こっくりさん"で使用されたために発生した性質だと、稲生編纂官はそう言いたいわけですか。確かに70年代当時の財団機器では0.1mHoff/s以下のPSEを検出するのは困難でしたが……。 稲生編纂官: だから最悪なんだ。本来、こっくりさんで使用した十円玉と紙は神社や寺などに賽銭として入れて浄化することになっている。だが当然、ブームの最中にはその手順を飛ばす奴らも少なからず居たはずだ。 Con.s.武内: 神社はどうか知りませんけど、寺に関しちゃ別にいちいち賽銭を厄祓いなんかしませんよォ……。そもそもお祓いなんてほとんどの僧侶にとっては本業じゃないんです。何枚も集まってやっと異常があるってわかる程度なら猶更気づくわけ無いじゃないですかァ。 Agt.八谷: ということは何ですか。全国のこっくりさんで使われた十円玉はPSEが微弱だから異常と気づかれないまま流通していて、それが巡り巡ってこの四十八町に流れてきた結果、SCP-732-JPとして私たちに発見されたってことですか。 稲生編纂官: ただ偶然ここに流れてきたならいい。だがこの回収数と発見頻度を説明するにはまだ足りない。Nx-54に確認されている主な特性はなんだった? 蔵元管理官: 心霊現象の多発、霊的実体の出現。そして原因は不明ながら、それらの霊的実体の多くはNx-54及び周辺地域以外を起源としている。……幽霊を引き寄せる土地か。 稲生編纂官: その通り、実態は恐らくこうだ。かつてこっくりさんに使用された十円玉は、なぜか数十年をかけて日本列島の端であるこの青森県四十八町に集まってきている。小さな町に多くのSCP-732-JPが集まったからPSEは相乗増幅して高まり、それまで普通の十円だったものはクソ不味いラーメン屋を突然爆発させる。 Agt.八谷: なるほど、理屈が通りますね。でも何でこの真相が最悪なんですか? 織戸博士: エージェント・八谷のような若い方は知らないかもしれませんが、当時のオカルト流行はかなり激しいものだったのですよ。当時は今に比べると娯楽が少なく、全国のあらゆる学校で放課後はこっくりさんに限らず様々な"オカルトごっこ"が毎日のように行われていました。 稲生編纂官の仮説が正しければ、その残滓が今この町にすべて集まって来ていることになります。これまで回収されたSCP-732-JPは600枚弱。70年代に実行されたこっくりさんの総数がそれだけだとは、私には思えません。 Agt.八谷: ああ、理解しました。これは最悪。 Con.s.武内: 最悪だァ……。 蔵元管理官: 結論を出そう。俺たちがやることは変わらないが、その仕事量は増えるだろうな。この町には、まだ何千何万枚ものSCP-732-JPが霊的な不発弾として届き続けるかもしれない。 |