アイテム番号: SCP-758-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: 現在SCP-758-JP-B地点は車両止め/フェンスゲートにより一般道路と分断され、民間人向けに「私有地につき立入禁止」という虚偽の掲示がされています。SCP-758-JP内外及びSCP-758-JP-B地点には複数の定点カメラを配置し、これにより民間人含む許可無き立ち入りを常時監視し防いでください。侵入者には通常の警備スタッフが対処を行い、拘束の後 立ち入り経路など各種要項についての調書が取られます。侵入者が内部の異常空間に接触した際は、上記の手順に加え 適宜関係者への記憶処理を行ってください。
説明: SCP-758-JPは、SCP-758-JP-Aと識別される建築物を中心とした空間です。SCP-758-JP-Aの周囲は四方が木々に囲まれた芝生の広場となっており、SCP-758-JP-Aから伸びる歩道の先にのみ、唯一エリア外部の一般道路へと繋がる通路が続いています。便宜上、この通路と外部一般道路との合流地点はSCP-758-JP-Bと区分されます。
SCP-758-JP-Bは現在三重県亀山市の鈴鹿峠付近、国道1号線から分岐する脇道として存在しているのが確認されていますが、当該地点は前述の国道を通行する人物にのみ認識され、上空から また他のルートからの侵入といった形ではSCP-758-JP-B地点及びSCP-758-JP区域を発見する事は出来ません。SCP-758-JP内ではGPS/通信機器が正常に作動しない事、内部からの調査では SCP-758-JP空間周囲から先は一切起伏の無い無制限の森林であるように観測された事なども考慮し、SCP-758-JPは一種の別空間に存在すると推測されています。
SCP-758-JP-Aは3階建て、直径30mの円筒形状をした木造建築物です。側面部には一切窓が設置されておらず、上部にのみガラス張りの明かり取りが塡め込まれています。敷地の歩道と接する面にはエントランスが設けられ、未施錠のドアより難なく進入を行う事が可能です。1階はソファやテーブルなどが設置された多目的スペースとなっており、中心部は3階までが吹き抜けています。左右に沿うように配置された階段からは上階へと移動する事が可能です。
SCP-758-JP-Aの2階・3階部には、中心の吹き抜けをリング状に取り囲むようにそれぞれ18ずつのドアが配置されており、その一つ一つに「████のへや」という形式で個別の男女の人名が彫り込まれた木板が取り付けられています。これはこれら36のドア全てに存在し、記載された名前の重複、また空白のプレート等の存在は確認されていません。ドアはいわゆるユニバーサルデザイン、特に子供の利用を意識したとみられる意匠で設計されており、弱い力であっても容易に開閉する事が可能です。これらの扉、またその奥に存在する空間を総称してSCP-758-JP-Cと区分します。
SCP-758-JP-Cは本来、個別の部屋としては当建築物の構造上ごく小規模の空間しか持ち得ないはずですが、SCP-758-JP-Cはそれぞれが明らかに施設の直径や隣接する部屋の存在を無視した広大な内部空間を保持しています。個々の空間は構成要素から規模に至るまで様相が異なっており、一貫性は見られません。SCP-758-JP-Cは一つの大空間とは限らず、廊下やドア等で区切られた個々の部屋が内部に存在する例、主観上では屋外の様に見える空間、さらには実在する別エリアと酷似した空間へと繋がっている例も確認されます。加えて、空間内には状況に応じた実在・非実在含む未知の人型存在及び動植物種等が多く確認されています。生物的・非生物的実体共に、こちらからの破壊的行為は一切通用しません。
以下の表にSCP-758-JP-Cについての概略を部分的に略記します。識別番号C-1からC-36までの詳細な記録は別紙758-JP-C総覧を参照してください。
識別番号 |
木板の刻字/内部空間の様相 |
C-5 |
刻字:やまざき ゆうや のへや
様相:イタリアのスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァの選手控室に酷似する空間。"YAMAZAKI"表記のロッカーとユニフォームが用意されており、着用することで外部グラウンドへの進入が可能となる。スタジアムの観客席は歓声を上げて熱狂する未特定の観客で満たされており、グラウンドでは2013年時点のインテルナツィオナーレ・ミラノと無作為の欧州サッカーチームとみられる人型実体が待機している。進入者は前者チームのDFとして既存選手1名と交代し試合に参加。進入者の経験や知識・技量によらず、当該人物の活躍によりインテル・ミラノ側の勝利で試合は幕を閉じる。 |
C-14 |
刻字:たなか みお のへや
様相:西洋バロック建築の劇場と思われる空間。馬蹄型の観客席は正装した人型実体によりほぼ満員となっており、舞台ではクラシック・バレエの上演がされている。その内容は非常に高い質であると評価され、上演は盛大な歓声とスタンディングオベーションとともに終幕する。演者及び観客の顔触れは進入した回ごとに入れ替わるが、主役級とみられるダンサーのみ常に同一のアジア系女性が担当している事、観客席センターブロックに常時同一のアジア系の家族とみられるグループと、一人分の空席が存在する事が確認されている。 |
C-22 |
刻字:おかやま たいが のへや
様相:中生代と推測される環境が再現された空間。758-JP-C群の中では最も広大な空間を保持している。行動を遮るような物理的障壁は存在しないものの、一定区域より先へは不可視の何らかの作用により進行困難となる。内部には当該時代の生物群 特に恐竜に分類される大型爬虫類の姿をとった実体が多数存在し、おそらくそれらが最も自然であろう形で活動を行っている。進入者はこれらの実体との接触が可能であり、また進入者に対してこれらの存在も反応を示す。ただし、実体との接触/襲撃 またその関連事象により進入者がダメージを受ける事例は現状確認されていない。 |
C-29 |
刻字:かいどう ちひろ のへや
様相:ごく一般的な戸建て住宅の子供部屋に見える空間。ドアや部屋から出た廊下等随所にクリスマスを思わせる装飾がされており、さらにダイニングキッチンには大型のクリスマスツリーが立てられている。同室内には推定30代の男女に見える人型実体が存在し、進入者を"まるで自分達の娘のように"歓待する。当該人物が人型実体から差し出された料理を完食すると、続いて丁寧に包装された平箱を手渡される。内容は画材と子供向けのファッションデザイン書籍であり、問題なく外部に持ち出す事が可能である。 |
C-36 |
刻字:くらた けい のへや
様相:インタビューログ_758-JP_002を参照。 |
SCP-758-JPは20██/11/25、亀山市内の交番に市内在住の倉田 ██氏から"長男が失踪した"という旨の通報が入った事により発見に至りました。当初、現場に居た倉田夫妻の証言から当事案は誘拐事件として扱われたものの、間もなくオブジェクト内の空間異常が発覚、追って財団の調査管轄へと移されました。倉田夫妻は"大竹"と自称する詳細不明の人物によりSCP-758-JPへ招かれたと主張しており、警察側での事前の聴取では当該人物について以下のような情報が得られています。
- ロングコートと中折れ帽を着用した、長身痩躯の高齢男性である。
- 倉田家の所在地周辺に日常的に出没しており、倉田夫妻からは"近隣に住む顔馴染みの知人"として好意的に認識されていた。
- 口調や動作等から、その気質は温和かつ上品であるように見えた。
以下は上記人物によりSCP-758-JPへ招かれた経緯についての、倉田 ██氏へのインタビューに関する記録です。
対象: 倉田 ██氏
インタビュアー: 坂上研究員
<録音開始>
[前略]
倉田氏: それから家族で近くのスーパーのフードコートで昼食取ってた時、偶然そこに大竹が来たんです。俺はもともと顔見知りだし、嫁も さっき話した通り既に面識があったので、いつも通りそのまま雑談などをしていました。息子に対しても、何というか そいつは自分の孫みたいに話したりしていたように見えました。
坂上研究員: 具体的には、どのような会話をされたのですか?
倉田氏: 俺は まあ、いつも通り、といったところでしょうか。会社だとか、家であった事についてとか、新聞とかテレビのニュースで見た色々について、とか。嫁も似たような話でしたね。俺の会話に混じったり、あとはどんな仕事をしているかとか、家族はいるのかとか。あとは、息子がひたすらに宇宙の話をそいつに語っていました。
坂上研究員: 宇宙?
倉田氏: ええ、息子は……息子は、宇宙が何よりも大好きでした。「将来の夢は宇宙飛行士です」って、時間があれば、買ってやった図鑑や宇宙の本をひたすら読んでたり、家のパソコンで そういうページだとか動画とかを1日中でも巡っていました。欲しがるDVDとかもみんな"宇宙のふしぎ"とか"銀河の大ぼうけん"とか、あとは宇宙モノのSF映画ばっかりで。この前も、家族で尾鷲の科学館に行ったりとか、以前の連休は種子島の宇宙センターまで足を運んで、その前も、……[数秒間の沈黙と小さな嗚咽]
坂上研究員: 大丈夫でしょうか?
倉田氏: ……はい、失礼しました。それでその、そんな話をそいつにもしました。息子は宇宙が大好きで、将来は宇宙ステーションに住みたいなんて言ってるんです、と。それなら、と、そいつが1枚チラシみたいなのを出したんです。「自分は建築関連の会社で役員をやっていて、ちょうど今、息子さんくらいの年代の子供を対象にした企画のモデルを探している」と。
坂上研究員: その企画というのは?
倉田氏: まだ計画段階という話でしたが、公園の中に子供のための隠れ家を作る、みたいな話です。アパートみたいにそれぞれ部屋を借りられて、そこをその子だけの為の夢の場所にするのだと。今は試験的に1棟作って、モデルも兼ねて子供達に無償で提供していると。既にほぼ満室にまで埋まっていて、その最後の1室をうちの息子にどうだろうか、という話でした。まさかそんな、すごい話が来るとも思わなかったので、俺と嫁は少し戸惑っていましたが……息子は、身体を乗り出して、目も声も輝かせて、僕も自分の部屋が欲しいと大興奮していました。「宇宙ステーションみたいな部屋もできるか?」とか、「窓から地球とか土星とかが見えるような部屋もできるか?」とかそいつに詰め寄っていて、そいつは息子が夢見るものならなんでも形にすると豪語していました。それにまた息子は飛び跳ねて喜んで……そんなのを見ていたら、どうにも断りづらく、二人して同意してしまいました。ちょうど、来月にはクリスマスだから 息子には良いプレゼントになるんじゃないかって。ほんとうに、迂闊でした。
坂上研究員: そして、先日25日に至る といった形でしょうかね。
倉田氏: はい、あとは細かな契約内容について念を入れて確認したり、マップが描かれたチラシと名刺を受け取って、25日に現地集合と。
坂上研究員: その集合場所というのは、こちらで合っていますでしょうか?[SCP-758-JP-B地点の地図を示す]
倉田氏: えーっと……ああ、そうですね、確かここから入った先と書かれていました。国道の途中に 初めて見る脇道が急に出てくるので、試験的なものとはいえ不思議な場所に作ったものだと思いましたね。
坂上研究員: ありがとうございます。先ほどの続きになりますが、倉田さんがSCP-758-JP あの開けた空間に着いた所からの流れも教えていただけますか?
倉田氏: はい。車で入った先に、そいつが一人で立っていました。車から降りた後はいつも通りの雑談や ここの説明なんかをされながら、中心の建物に案内されました。中は明るい感じで、みんなで小さなホテルみたいだ、なんて話していました。2階の一番奥の扉まで来てそいつは ここに息子の部屋を仕立てるから、30分ほど下のソファで待っていてほしいと言ってきました。息子と何か内装の相談でもするのかと、俺たちはそれに従いました。……その、息子を連れてそいつが部屋に入り、俺と嫁は、下の広間に降りました。大体30分とかした頃に、上からそいつに呼ばれました。部屋が出来たので来て欲しいと。行ってみると、いつの間にかちゃんと息子の名前を彫り込んだ看板まで出来ていて、そいつは俺らに披露するようにドアを開けました。そしたら……びっくりするくらいの広い空間が、まさに 息子が夢見ていた宇宙ステーションのような光景で ドアの先に広がってたんです。よく息子が自由帳とかに描いて俺に見せていた、それにそっくりそのままの。大きな窓からは星空とか、地球とかが見えて……どう考えたってほんの数十分で用意できるもんじゃないし、以前話したところから予め急ピッチに仕込んでたって、あんな凄いものはできないでしょう……なんかのTVのドッキリとか、もしくは丸々俺の変な夢かなにかかと思いましたが、中に進んだ時の空気感とか、靴裏に感じる床の硬さはどうやっても本物にしか感じられませんでした。……[以下十数秒の沈黙]
坂上研究員: どうしましたか?
倉田氏: ……あの、今俺が見て考えてるこれ自体全部夢か何かなんじゃないですかね、変な爺さんにおかしな公園のおかしな建物に案内されて、どう考えたって作れないような部屋見せられて、こんなヘンテコな場所でインタビュー受けてて、あの、もう、こんなのありえないっていうか、俺頭おかしくなって長くてリアルな夢でも呑気に見てるんじゃないかってもうずっと訳がわかんなくて……
坂上研究員: この変な夢から覚めるためにも、今はどうか落ち着いて あなたの経験した出来事を教えてください。あなたの覚えていることは、私達がこの出来事を解決するための重要な糸口になるかもしれないのです。そのためにも、どうか。
倉田氏: [小さな嗚咽]……どこにも、見えなくて。
坂上研究員: 何がですか?
倉田氏: その部屋は、まさに息子が夢見ていた空間そのものでした。でも……それなのに、見渡すどこにも息子の姿はありませんでした。どこかに隠れているような気配も、全く。嫁は息子の名前を呼んでいましたが、やっぱり返事もありませんでした。それで、後ろで立ってた大竹に息子はどこかと聞いたんです。あたりをあちこち見ながら、振り返らず。
坂上研究員: そうしたら、何と?
倉田氏: [沈黙]……小さく笑って、たった一言。「いま、あなた方の目の前に居るでしょう?」と。
坂上研究員: それは……
倉田氏: えっ と振り返った時、ドアの前には誰もいませんでした。慌てて外に飛び出しても何処にもあいつの姿が無くて……背後にほんの1か2m位しか間がなかったはずなのに、まるでその場で消えたように、足音どころか動いた音すら感じませんでした。嫁と二人で、狂ったように息子を探して……息子の宇宙ステーションを走り回って[息を荒げる]窓の外の宇宙とか、体が浮いたりとか、どう考えたって何かがおかしくて……建物の中も、外も、片っ端から飛び込んだ他の部屋も何処にもあいつや息子の姿は無くて、[嗚咽]電波も電話も通じず、外に飛び出して、嫁をそこに待たせて俺は元来た細道を全力で駆け戻って、そこでやっと携帯が通じて、すぐに近場の交番に連絡を……それで……それで、警察が来て、案内して……あとは恐らく、あなた方の知るところなのではと。
坂上研究員: ありがとうございます。
倉田氏: あの、
坂上研究員: 何でしょうか?
倉田氏: [数秒の沈黙]息子は……慶は、見つかりますよね。こんなたくさんの人たちが探してるんですから、それにあいつの人相も会社も名前も分かってて……ぜったい、無事で帰ってきますよね。
坂上研究員: 全力を尽くします。それと、一つだけ最後にお伺いしてもよろしいでしょうか。
倉田氏: 何でしょうか?
坂上研究員: "大竹"が最後の発言を投げかけた時、あなた方は何を見ていましたか?
倉田氏: ええと……多分、特に何かを絞って見てはいないですね。俺は、部屋の右の空間の方を、嫁は多分、正面あたりをまっすぐ。
坂上研究員: ありがとうございます。これでインタビューを終了します。お疲れさまでした。
<録音終了>
付記: 倉田夫妻はオブジェクトの根幹に関わる人物と接触した重要人物として、現在財団管轄下の施設に保護されています。近隣住民には疾病治療のための転居という虚偽の情報が流布されました。消息不明の倉田家長男については現在も調査が続けられています。
補遺1: 上記の証言により、SCP-758-JPと同種のオブジェクトが他に存在 あるいは今後出現する可能性が指摘されています。加えて SCP-758-JP-Cに記載された人名 またその内部の様相についての追調査を行ったところ、その過半数が過去数年間に発生している日本国内の行方不明児童と一致を示しました。これにより発覚に至る以前のSCP-758-JP-B地点が県内外の他の地域にも存在していたとの推論がなされ、担当チームが調査を続けています。オブジェクトクラスの変更は現在議論中であり、未定です。
補遺2:インタビュー終了の際、倉田氏は"大竹"から受け取った名刺とリーフレットをまだ所持しているとして、これを担当職員に提出しました。しかし、提示された用紙は共に白紙であり、何らかが印字されていた形跡は一切確認できませんでした。倉田氏が記憶していた紙面の内容についても、インタビュー以上の情報は得られていません。