SCP-798-JP
評価: +144+x
blank.png
Actinocyclus_normannii.jpeg

SCP-798-JP。直径約10μm

アイテム番号: SCP-798-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-798-JPの個体数と分布範囲の規模、自然界においてSCP-798-JPが励起される事例の特異性、財団の予算と隠蔽工作の上限を鑑み、SCP-798-JPの全個体無条件画一収容は実施されません。SCP-798-JPによる被害を低減するため、財団は各国政府および世界オカルト連合(GOC)と連携してアクリル樹脂をはじめとする非ケイ酸ガラスの開発・普及プロジェクトを運用します。SCP-798-JPの活性化を防ぐため、SCP-798-JPの加熱処理は禁止されます。

SCP-798-JPによるインシデントは警察組織等との連携を介して検出されます。回収に際してケイ酸ガラス製品の使用は固く禁じられ、酸化型大気への接触もアルゴンガスを用いて最小限にすることが義務付けられます。回収されたSCP-798-JPおよび犠牲者のサンプルは液体窒素気相を用いて-150℃で冷凍保存されます。

SCP-798-JPによる犠牲者はカバーストーリー「孤独死」または「自殺」が適用され、財団管理下の特殊清掃担当班により処理されます。



説明: SCP-798-JPは、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とする被殻を有する、アクチノキクルス属の未定種(Actinocyclus sp.)に分類される中心珪藻です1。SCP-798-JPは低確率でありながら休眠状態での珪砂への混入が汎世界的に認められ、具体的には開放的な地表水が存在する地球上の全ての陸地で確認されており、グリーンランド氷床下の陸成層および海成層からも微化石が報告されています。陸成層からの産出より、珪砂への混入は大陸地殻を形成する花崗岩等岩石の浸食・運搬時に生じたと推測されます。

SCP-798-JPは強い高温耐性を持ち、石英を主とする珪砂に混入したままケイ酸ガラスの製造過程を通過します。原料の加熱・熔融過程において励起されたSCP-798-JPは生命活動を再開、周囲の熱エネルギーを化学エネルギーに変換・貯蔵します2。原料の冷却後にも残存する化学エネルギーを用い、SCP-798-JPはガラスの架橋酸素の珪素-酸素間結合を切断、SiO4四面体の連鎖的交換作用を発生、球形被殻を維持しながらガラスを透過可能と推測されます。すなわち、SCP-798-JPはケイ酸塩物質に浸透します。

SCP-798-JPはケイ酸ガラスに潜伏した状態でヒト(Homo sapiens)をはじめとする哺乳類を対象とし、対象との強制的な細胞内共生関係を構築します。宿主の死亡やSCP-798-JPの爆発的な増殖が見られることから、当該関係は完全には成立しておらず、途上段階にあると推測されます。

細胞内共生過程

1200px-Fpls-02-00050-g001.png

各藻類系統の祖先は光合成生物の細胞を独立に取り込んだ。珪藻類はHeterokontophyta(最上部右から3番)に属し、一次植物の紅藻類と二次共生の関係にある。

1. 侵入
対象がSCP-798-JPの潜伏するガラスと接触した際、SCP-798-JPは宿主に向かってガラス内を流動します。ガラスから脱出したSCP-798-JPは先述の化学エネルギーを用い、角質を穿孔して生細胞へ十分に接近、被殻上に生体膜を合成して標的細胞の細胞膜と融合、体細胞への侵入を完了します。

この過程を繰り返し、SCP-798-JPは生殖細胞を含め対象のほぼ全ての細胞に侵入します3。またこの時、カルボン酸による神経細胞の溶脱が認められています。

2. 依存
細胞内に侵入したSCP-798-JPは、物質の能動輸送に関連する輸送体を色素体包膜上に獲得します。これはSCP-798-JPによる外部からの物質の取り込みを意味し、生命活動の維持に関して宿主細胞へのある程度の依存を示唆します4

その一方、SCP-798-JPには完全に共生した色素体であれば消失するミトコンドリアが保有されており、宿主の細胞内での独立した活動も示唆されます。このため、SCP-798-JPは細胞内共生のうち三次共生の途中段階にあると推測されます5

3. 増殖と無酸素化
SCP-798-JPは脊椎動物の細胞内で爆発的に増殖し、膨圧の増大や酸素欠乏を誘発します。増殖はSCP-798-JPの宿主への依存性が低く、宿主が増殖を抑制できないことが要因と推測されます。増殖したSCP-798-JPは宿主の細胞質基質を充填し、隣接する細胞へ移動を開始するため、宿主には全身の膨張、ならびに光合成色素による黄土色への変色が見られます6

増殖したSCP-798-JPはミトコンドリアを介した好気呼吸を継続するため、宿主の全細胞において酸素は二酸化炭素に置換されます。やがて血液が動脈血・静脈血を問わず還元され、全身が強い嫌気環境に達するため、宿主は共生の開始から数分で酸素欠乏症により死亡します。

4. 宿主の死後
SCP-798-JPはクエン酸に代表される各種カルボン酸7を分泌し、非異常の過程で宿主の肉体を分解します。ただし、分解速度が小さく、また宿主の遺骸は還元的環境にあるため、多くの場合当該の過程で仮死状態となります。仮死状態はSCP-798-JPが好気環境下に置かれるまで継続します。

上述の過程を経て、SCP-798-JPはガラス形成時に受容した化学エネルギーを消費すると推測されます。エネルギーを喪失したSCP-798-JPは、生命活動再開後も再び熱エネルギーによる励起を受けるまで非異常のアクチノキクルスとして振舞うことが確認されています。


SCP-798-JPによる被害は主として人口密集地の屋内から報告されています。厳密な発生条件は未特定ですが、犠牲者の健康状態・室内の通気性の高低・および気象条件との相関は認められません。
1200px-FrostedGlassWindow.jpg

SCP-798-JPと関連する窓の例

現在確認されている被害のうち約97.5%では、凹凸の発生をはじめとする微小な変形およびそれに伴う光の透過率の低下が窓ガラスで観察されています。また、ガラス表面より採取された埃からは、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)により、エーテル結合を持つ特異的な不飽和長鎖ケトンが検出された事例が報告されています8

SCP-798-JPの事例の大部分では共生イベントの発生直前における窓からの異音の発生が報告されており、20世紀以降の録音技術の普及により実証されています。当該音の発生の機序としては、ケイ酸ガラスの構成原子の授受およびそれに伴う浸透が考えられています。当該音は結果として対象の好奇心・警戒心等を刺激して窓へ誘引する役割を果たしますが、SCP-798-JPに聴覚機能が確認されないことから、当該音は単なる副次的事象あるいは意図の介在しない適応的事象と推測されます。

31AE6421-861C-4A36-A401-5F4EB4A50E62.jpeg

トルコ共和国クルシェヒル県、カマン・カレホユック遺跡。後期鉄器時代の層準のガラスからSCP-798-JPが検出された。

歴史: SCP-798-JPの微化石は南極大陸を除く全大陸および大部分の島嶼の新第三系の地層から産出しています。近縁種A. ingensの微化石はオーストラリア連邦・日本国・スリランカ民主社会主義共和国・アメリカ合衆国をはじめとする広範囲の地域に分布しており、また当該種の産出レンジに相当する化石帯は下部中新統が指定されています。このためSCP-798-JPは約2,000万年前頃に種分化を遂げ9、既に氷床の存在した南極大陸を除いて汎世界的に分布を拡大したと推測されます。

ケイ酸構造物からSCP-798-JPが産出した最古の記録は、約70万年前のホモ・エレクトゥス(Homo erectus)のものと推測される、ケニア共和国南西部の黒曜石製石器中に保存された微化石まで遡ります。この他、日本国の高原山黒曜石原産地遺跡群をはじめ複数の採掘坑遺跡の黒曜石でSCP-798-JPが検出されるものの、SCP-798-JPを含有する黒曜石の割合は微々たるものです。これは天然ガラスやケイ酸塩鉱物の形成に要求される熱エネルギーをもたらす噴火の頻度・範囲が乏しく、SCP-798-JPの分布域との重複が小さかったためと推測されます。

SCP-798-JPの検出例は、熱を利用したガラス加工技術の獲得以降の層準において増加します。ペルシャ・メソポタミア・エジプトの近隣地域においてガラス生産量が増大するにつれ、励起状態のSCP-798-JPは個体数を増加し、ガラス加工技術の発達普及と共に勢力を拡大したと推測されます。12~13世紀の十字軍遠征とヴェネツィア共和国でのガラス同業組合の結成、19~20世紀の板ガラスの登場とその連続的大量生産を経て、SCP-798-JPによる被害は爆発的に急増しました。

過去に製造されたガラス製品の蓄積、また近年のSDGsの社会的普及に伴うガラスリサイクル率の向上を経て、SCP-798-JPの個体数は依然として増加傾向にあります。2032年現在、地域による差異が認められるものの、SCP-798-JPによる潜伏は窓ガラスの約█%での発生が推定されます。以下は直近200件分のSCP-798-JPによる被害記録の一覧(2032/06/13更新; 注記の無い限り日付時刻はUTC)です。完全な記録はアーカイブを参照ください。

No. 日時・場所 状況
01 2031/05/24
日 愛知県
県立高等学校での授業に際し、藤田 崇 氏(17歳・男性)が酸素欠乏症を発症。氏の救助に参加した生徒を含め4名が死亡。教室の生徒および教員より異音の発生が示唆されており、「ガラスを引っ掻くような音がした」と証言された。
02 2031/05/29
英 ランカシャー
地下鉄に乗車していたジョディ・マッコイ氏(29歳・女性)が突如として体調不良を訴え、酸素欠乏症により急死。肌の著しい変色のため、他の乗客による接触は無かった。乗客からは「カリカリという音がしていた」と証言された。
03 2031/06/01
馬 ペナン州
プールを訪れていたユスリ・アディブ氏(8歳・男性)が水死。司法解剖の結果、水を飲んだ事実は確認できず、また異常な嫌気化およびSCP-798-JPの検出により異常現象として認定。交友関係のある女児より「ガラスがキリキリ言ってた」と証言された。


199 2032/06/09
韓 京畿道
ショッピングモールの夜警を担当した 全 教安 氏(チョン・ギョアン、37歳・男性)が酸素欠乏症を発症し、同僚の 崔 潽善 氏(チェ・ボソン、42歳・男性)が救助に向かい、共に死亡。崔氏のボイスレコーダーにはショーウィンドウの軋む音が録音されていた。
200 2032/06/13
日 千葉県
回収されたハンディカメラの映像によると、佐桑 彩乃 氏(5歳・女性)の誕生日パーティにて、遮光カーテン越しに連続したノック音が発生。ノック音は徐々に単調増加し、興味を抱いた 佐桑 将樹 氏(8歳・男性)がカーテンを捲りガラスと接触、酸素欠乏症を発症。以降、カメラが落下したため映像での確認は不可能であるが、音声からは 将樹 氏を起点に佐桑家の住人にSCP-798-JPが感染し、救急隊の到着以前に死亡したことが示唆される。

なお、本件は異音の発生機序が異なる可能性が指摘されている。今後の議事での審議を予定。

既にケイ酸ガラスが人類社会に深く定着している点を踏まえ、財団はアクリルあるいはポリカーボネートガラスへの置換をはじめ、各国政府・GOC等と連携した対応を協議中です。

今後の関連会議

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。