SCP-807-JP
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アイテム番号: SCP-807-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-807-JPはサイト81██の低脅威度物品保管庫に収容されます。実験等を目的として使用する場合、担当職員に申請してください。

財団外で発生したSCP-807-JP-2が発見された場合、速やかに収容してください。経過観察の後に記憶処理が施され、解放されます。

説明: SCP-807-JPは自殺防止ポスター████枚です。回収時、日本各地に無許可で貼られていました。特に、SCP-807-JPの回収が多い地点は自殺の発生件数が多いことが判明しています。SCP-807-JPは特定の条件を満たした人物に黒い蛇型実体(以下、SCP-807-JP-1)を認識させます。

SCP-807-JP-1を認識する人物(以下、SCP-807-JP-2)はその多くが自殺を試みた、もしくは試みようと考えています。しかし、自殺を試みようとした経験がある人物や自殺を考えていると主張する人物にSCP-807-JPを見せた場合、必ずしもSCP-807-JP-1を認識できるわけではありません。この理由は現在調査中です。

SCP-807-JP-1は先述の通り、黒い蛇の姿をした実体です。SCP-807-JP-2の報告1では、基本的には全ての人間に1体ずつSCP-807-JP-1が取り付いており、その姿は個体ごとに異なります。SCP-807-JP-1は自身が取り付く人間の身体上を自由に移動します。現在までに周囲の物品に触れる等の行動は報告されているものの、完全に身体から離れたという報告はなされていません。SCP-807-JP-1の体は物体を透過するため、通常SCP-807-JP-1に対し危害を加えることはできません。SCP-807-JP-1は自身が取り付く人間に関して理解があるような振る舞いを見せます。実験では、取り付いている人間と常に行動をしていたとしか思えないような結果も複数残されています。SCP-807-JP-1は基本的に自身が取り付く人間に対して危害を加えませんが、死の直前に噛みついたという報告がいくつもなされています。噛みついたSCP-807-JP-1は消失が確認されています。

長期間認識し続けたSCP-807-JP-2の多くが自身に取り付くSCP-807-JP-1を『自身の死』であると認識しています。しかし、そのように考える理由に明確な根拠はありません。また、自身の死であると認識しているにもかかわらず、SCP-807-JP-1に対して恐怖を感じていません。全てのSCP-807-JP-1は最終的にSCP-807-JP-2から認識されなくなります。原因は不明です。

補遺1: 以下は財団で雇用するSCP-807-JP-2を用いたSCP-807-JP-1の観察において特筆すべき点をまとめたものです。

補遺2: 以下はSCP-807-JP-2に行われたインタビュー記録です。
インタビュー記録807-JP

対象: 糸識氏

インタビュアー: 星博士

付記: 糸識氏は財団がSCP-807-JPの収容初期に偶然発見したSCP-807-JP-2です。糸識氏を除いて現在までに財団外で発生したSCP-807-JP-2は収容されていません。この理由はSCP-807-JPの特異性に起因していると考えられています。

<録音開始>
(SCP-807-JPに関する簡単な確認のため省略)

星博士: ……では、お願いします。

糸識氏: はい。……あのときの私は、……死ぬつもりでした。

(糸識氏は星博士に視線を移す)

星博士: ……話しにくい事でしょう。構わず続けてください。

糸識氏: 助かります。私は……、首を吊ろうとしていたんです。彼、あなたたちの言う黒い蛇を最初に見たのはその時でした。あの時は驚いたせいもあって、叫んでしまいました。それで、近くにいた人に見つかったんです。

星博士: その方にはSCP-807-JP-1のことを話しましたか?

糸識氏: もちろんです。でも、すぐに見えていないことはわかりました。むしろ、後ろにかけられたロープの方に注意を向けているようでした。

糸識氏: 私は詮索される前に逃げました。逃げてる間にも何回か死のうとしましたが、その度に彼が邪魔をしてきました。体を通り抜けるせいで取ることもできず、気づけば家の前でした。その日はそのまま寝たのを覚えています。

糸識氏: 夜中に一度目を覚ましたとき、彼は見張るように私を見ていました。それにどことなく心配しているようにも見えました。なんとなく、『今日はもうしない』と言ったら、安心したのか眠り始めました。

糸識氏: 私は嘘をつきました。風呂桶に水をためてから台所に行って、包丁を手にしました。

糸識氏: でも、また彼が邪魔をしてきた。

糸識氏: 彼は包丁をもった手と逆の手首に巻き付いてきました。そして、顔は私の方を向いていました。私は彼が『止めろ』と言っているように感じました。……それに、震えてもいました。目には涙を浮かべて。包丁で刺されても平気なのは知っているはずなのに。

星博士: もしかして、それが自殺を止めた理由ですか。

糸識氏: いえ。その日の自殺はやめましたが、その後で何回かやろうとしました。どうせいつか諦めると思ったんです。でも……。でも、彼は……。

(糸識氏は右腕に視線を向ける)

糸識氏: ……彼はいつまでも邪魔をしてきた。

(数分間の沈黙)

糸識氏: 博士、黒い蛇が各個体で違うことについて話しましたよね。

星博士: ……ええ。

糸識氏: 私が自殺を止めたのは……。彼の体についている傷が、私の体についているものと同じだと気づいたからなんです。たぶん、私が大怪我をすれば彼の体にも同じような跡ができると思ったんです。実際、自殺に失敗して大けがを負ったことがあります。

糸識氏: でも、彼は最後まで私を責めなかった。きっと、『この傷はお前のせいだ』と責めていてくれたら楽だったんでしょう。でも――。

糸識氏: でも、彼はその傷も含めて私を肯定してくれていた。こんな私をです。こんな、私ですら見捨てた私を最後まで見捨てようとしなかった。

糸識氏: ずっと、あの時から、今でも私を肯定してくれている。私を自慢に思ってくれている。

糸識氏: そんな彼を私は失望させたくない。彼がどこかに行ってしまいそうで。……今はそれが一番怖い。

星博士: 糸識さん、一度落ち着きましょう。

糸識氏: す、すいません。

(糸識氏は水を飲んで興奮を落ち着けているようだった。数分後、インタビューを再開する)

糸識氏: すいませんでした。もう、大丈夫です。

星博士: 気にしないでください。きっと、それだけ大切な存在なんでしょう。私だってそういうことはありますから。

糸識氏: ありがとうございます。

星博士: では、話を変えましょうか。糸識さんは黒い蛇、つまりあなたが彼と呼ぶ存在は何だと思いますか?

糸識氏: 彼はそう……、『私自身の死』だと思います。言外に、ではありますが、そう感じています。

星博士: 怖くはないんですか?

糸識氏: 彼は死であって、死神じゃない。死神だったら、きっと自殺を止めなかったでしょうし。間違っても四六時中私が死なないか見守るなんてことはしないでしょう。

糸識氏: ……自殺を止めてから、彼の仲間をたくさん見てきました。

糸識氏: 自殺する人間の蛇は泣き叫んでいて、死ぬ直前までその人が死なないように足掻いているように見えました。他の蛇たちに助けを求めていて、他の蛇たちも助けようとしていて。死ぬ直前は……。私は……、私は……、あと少しで彼をあんな風に……。

(数分間の沈黙)

糸識氏: ……1番記憶に残っているのは、死んだ祖母の蛇です。祖母が亡くなる直前、今まで見たどの蛇よりも胸を張っていたように見えたんです。誰よりも祖母の生き方を誇っている。そう感じました。

糸識氏: 彼にも、同じように胸を張ってもらいたい。間違ったこともあるが、自慢の相棒だと。最後まで私が生きたことを誇りにしてほしい。だから私はもう死ねません。最後まで、生きていきます。何より――。

星博士: 何より?

糸識氏: 私を見張っていたせいで彼は寝不足ですからね。安心して、眠って欲しい。

<録音終了>

追記1: インタビューを行った半年後、糸識氏は『SCP-807-JP-1が見えなくなり始めた』と報告してきました。この2週間後、糸識氏はSCP-807-JP-1を完全に認識できなくなりました。見えなくなった当初の糸識氏は取り乱した様子でしたが、すぐに現状を受け入れたようでした。財団は糸識氏がSCP-807-JP-1を認識できなくなった1か月後に記憶処理を行い、解放しました。現在、糸識氏は財団フロント企業に勤務しています。

追記2: 他のSCP-807-JP-2に糸識氏のSCP-807-JP-1の様子を報告してもらいました。結果、SCP-807-JP-1に不審な点は見当たらず、昼寝をしている時間が増えた以外に変化は確認されませんでした。

補遺3: SCP-807-JP-1の存在を証明するために行われた実験です。
実験記録807-JP

参加者: D-807-JP-1及びD-807-JP-2。

実験責任者: 星博士。

付記: 今回参加したD-807-JP-1はSCP-807-JP-2だが、D-807-JP-2はランダムに選ばれた通常のDクラス職員である。また、D-807-JP-1とD-807-JP-2には面識がないのは事前の調査で確認済みである。

実験内容: D-807-JP-1にD-807-JP-2のSCP-807-JP-1を観測してもらいながら、D-807-JP-2に質問を行う。D-807-JP-2とSCP-807-JP-1が別々に回答してもらい、結果を比較する。D-807-JP-1にはSCP-807-JP-1の答えを書き留めてもらう。

SCP-807-JP-1には回答ができるように平仮名と数字、そして「はい」と「いいえ」が書かれた紙を与え、指し示してもらう。なお、虚偽がないよう、近くには2名のSCP-807-JP-2が監視している。

<録音開始>

星博士: では実験を始めます。

D-807-JP-2: こっちは大丈夫だ。……本当にこのこっくりさんの紙みたいなやつは関係ないんだな?

星博士: あなたには関係ありません。D-807-JP-1は大丈夫ですね?

D-807-JP-1: はい。蛇の方も準備できています。

D-807-JP-2: 蛇って、本当にいるのかねえ。

星博士: D-807-JP-2、それを確かめるための実験です。

D-807-JP-2: 了解です、博士。

星博士: じゃあ、まずD-807-JP-2の誕生日は?

(両方とも紙に「8月24日」と書く)

星博士: 両方とも正解です。

D-807-JP-2: 博士、簡単すぎるだろ。もっと別のやつにしようぜ。

星博士: では、初恋の相手は?

D-807-JP-2: いいね。それ。

(両方の解答が異なる。星博士がD-807-JP-1の回答をD-807-JP-2に見せる。なお、この時D-807-JP-1は解答用紙に何かを書いている)

D-807-JP-2: ……嘘だろ?

星博士: その反応、こちらが正解なようですね

D-807-JP-2: 博士、俺が悪かった。何かのトリックだと思ったんだ。

星博士: 今回は見逃しましょう。ただし、次は今、D-807-JP-1が書いている失恋までの顛末を読み上げます。

(D-807-JP-2にその解答用紙を見せる)

D-807-JP-2: ……あってるから、本当にそれはやめてくれ。本当に。

星博士: では、次にいきましょう。そうですね……。そうだ。あなたがここで働き初めてどれくらい経っていますか?

D-807-JP-2: それでいいのか?

星博士: 構いません。

(両方の解答は異なっていた。D-807-JP-2は「5日」と解答。一方、D-807-JP-1は「3ヶ月」と解答した)

星博士: ……両方とも正解です。

D-807-JP-2: だから、簡単すぎるって。

星博士: D-807-JP-1、蛇は本当にそう答えたんですね。

D-807-JP-1: はい。そのまま書きました。

星博士: わかりました。実験は以上です。協力ありがとうございました。

D-807-JP-1: 待ってください。蛇が何かを言いたいみたいです。

星博士: 見せてください。

(D-807-JP-1から紙を受け取った星博士の様子が変化する)

<録音終了>

終了報告1: 今回の実験によりSCP-807-JP-1が存在しているのはほぼ確実となりました。しかし、SCP-807-JP-1が記憶処理を行う前のD-807-JP-2の記憶も有していた点は危惧すべきものです。SCP-807-JPは全て回収しましたが、SCP-807-JP-2は全員収容できていない可能性があります。

終了報告2: 今回の実験参加者は問題なく全員終了しました。

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