SCP-834-JP
評価: +13+x

アイテム番号: SCP-834-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-834-JPはクッション性の壁に囲まれた小型生物オブジェクト用の収容室に収容されます。SCP-834-JPとの接触はできる限り避け、部屋の清掃はDクラス職員を用いて行ってください。SCP-834-JPと接触した職員は本人の意思にかかわらず記憶処理を受けなければなりません。収容室からSCP-834-JPが壁に体を打ち付ける音が聞こえることがありますが、保安上の問題はありません。

説明: SCP-834-JPはウサギを簡略に模した、体長約5 cmの雪像です。検査により、SCP-834-JPを構成する雪には主成分である水の他に、微量のアルコールが含まれていることが判明しています。

usagi.jpg

SCP-834-JP

SCP-834-JPは人間に対して友好的で、人間を発見すると小さく飛び跳ねながら接近し、積極的に交流1を図ります。SCP-834-JPはウサギ類に類似した鳴き声を有し、主にこの鳴き声を通して人に対し感情の伝達を試みます2。また、感情の伝達方法には鳴き声以外にも、大きく飛び跳ねる、涙を流す、甘噛みをするなどがあります。

人間がいない環境下にあるSCP-834-JPは落ち着きを失い、収容室内を走り回る、壁に体を打ち付けて収容環境下からの脱出を試みるなどの行動を起こします。SCP-834-JPの非力さゆえ、この行為は収容設備の破損をもたらしませんが、SCP-834-JP自身の損傷を伴います。

SCP-834-JPとの接触は、接触者の精神状況の好転をもたらします。Dクラス職員を用いた実験においては、1週間の連続的な接触により鬱症状の改善が見られました。またSCP-834-JPからの隔離後も、効果は失われませんでした。ただしSCP-834-JPとの接触後長期間(強い個人差があります)が経過すると、接触者の精神状況は悪化します。SCP-834-JPとの長期かつ密接な接触は、悪化を早めます。この悪化はSCP-834-JPとの接触に関する記憶を処理することにより防ぐことができますが、これは同時にSCP-834-JPの精神治療効果を無効にする行為です。

SCP-834-JPは民間の心理カウンセラーである鈴木氏の自室で発見されました。以下の文書群はSCP-834-JPの確保時発見されたものです。

お元気ですか?
突然押しかけてびっくりさせてしまいましたね、ごめんなさい。
でも、今そこにいるその子はとっても優しい子です。
ときどき失敗する不器用なところもありますが、一生懸命あなたのために頑張ってくれるはずです。
ですから、どうかこの子が帰り道を思い出すまで、一緒にいてあげてください。
最初は少し大変かもしれませんが、少し経てばきっとあなたもこの子のことを好きになってくれると思います。そして、もしその子が道を思い出したときは、その子と一緒にぜひこちらを訪れてくださいね。

酩酊街より、愛を込めて。

メモ帳の記述


・突然現れた兎? なにこれ?
・クライアント3さんが反応を示したので貸し出すことに。
・鬱の改善に効果あり? アニマルセラピー的な?
・今持っているクライアントさんたちにアニマルセラピーとして実験に協力してもらう。⇒方法は貸し出しが一番効果がありそう。
・同業者に知られないように情報管理しっかり!

臨床実験記録(抜粋)


被験者 病状 貸与期間 結果
須田さん 軽度の鬱病 10日 完治
神田さん 心的外傷後ストレス障害 13日 寛解
仁科さん 全般性不安障害 12日 完治
木戸さん 重度の躁鬱病 29日 完治
前田さん 解離性健忘 11日 完治

メールデータ


日付: 2015/09/05
FROM: ████4
TO: 鈴木陽介


臨床実験の結果、拝見しました。結論から申し上げますと、この試みが実際に行われているのならば、それは中止すべきです。
確かに、治療の結果は常に素晴らしいものであるように見えます。私は未だにこれを信じることができていません。しかし、それこそが第一の問題です。
我々のカウンセリングという仕事は、クライアントに対し様々なアプローチをとらなければなりません。一口に心の病であるといっても、その種類は多種多様です。体の病がインフルエンザや肝硬変など多様であるのと同じで、そして肝硬変にタミフルは効きません。ですから、逆にここまでの成果は"異常"です。
第二の問題ですが、被験者の問診票に学習性無力感に近い傾向が若干見られます。現在はそれほど大きな影響のあるものではありませんが、これは熟慮すべき傾向です。

最後にもう一度、しつこいようですが、この試みの中止を提案します。目先の利益に惑わされぬよう、深くお考え下さい。

- ████

日付: 2015/09/07
FROM: 鈴木陽介
TO: ████


ご忠言ありがとうございます。
せっかくのご意見ですが、私はこの治療法を止めるつもりはありません。
先生は聡明な方でした。常に新しいことを求め、過去のくだらない束縛にとらわれることはありませんでした。
しかし、残念ながらそれはもはや過去のことのようです。先生ならばこのあらたな治療法に賛同し、協力してくださると思っていましたが、それは私の勝手な期待でした。
目先のことにとらわれるなといいますが、私は未来を見ているのです。もしこの治療法が確立されれば様々な病を治すことができるのです。それこそ、心理学の発展ではありませんか。
私に手出しはしないでください。私も独立した事業者です。そして、やっていることはあくまでアニマルセラピーです。あなたが業務を妨害するというのなら、法は私の味方です。

- 鈴木陽介

実地運用記録(最新5件)


被験者 病状 貸与期間 結果
金田さん 対人恐怖症 10日 完治
小野さん 心的外傷後ストレス障害 14日 完治
佐藤さん 不安障害 16日 完治
西田さん 強迫性神経症 13日 完治
木戸さん 重度の鬱病 19日 自死

音声記録


<録音開始>

(咳払い) あー、録音できているかな? よし、大丈夫。うん、あー、こんにちは、鈴木です。

私は相談室を閉めて、これからあの兎と一緒に生活を始めます。これからは、この実験が終わるまで他の人に会うこともないでしょう。

とにかく、まず私は失敗しました。今になってみれば、あの忠言を聞いていたほうがよかったと思います。(沈黙) まあ、今更言ってもどうにもならないですが。

この兎は確かに悪意のかけらも持っていないし、人の心を癒します。それは間違ってません。ただ、やり方がまずいようです。

「もう頑張らなくてもいいんだよ、無理して進む必要はないんだ。」

(咳払い) 兎はこうやって優しい言葉をかけ続けます。もちろん、実際に言葉にしているわけではありませんが。
確かに最初は効果があります。すべてを捨てていけば、楽になれるのは本当です。ただ、一通り捨て終えてしまうと (沈黙) 限界が来ます。

私たちは変化し続けるこの世界に生きる以上、どんな方向にであれ進み続けなければならなりません。兎が諭す理想の生き方は、この世界では不可能です。それなら最後に捨てなければいけないものは (沈黙、続いて小さな笑い) 自明ですね。

自分勝手な優しさは残酷です。私が予約の時間に訪れなかった木戸さんの自宅を訪れたあの日、兎は、天井からぶら下がった木戸さんに向かって心配そうに鳴き続けていました。自分が彼をそうさせたのにも関わらずです! あの光景を見れば、誰もが私の言いたいことを理解できるでしょう。私は今まで治療を施してきた何人ものクライアントさんに時限爆弾を仕掛けたわけです。私はただ、助けたかっただけなのに、その方法を誤ったせいでこのざまですよ。本当に、笑えない。ああ、もう。

だから私はこの身を捧げます。爆弾の解除コードを探すために。そして、まだ助かるクライアントさんを幸せにするために。この問題を解決するにはこの兎がクライアントさんに与える影響に対する主観的理解とそれなりの専門知識が必要ですから、私が直接被験者になるしかないんです。もちろん、家族や知人は反対すると思います。だから、このことは誰にも言っていません。この音声記録は私にもしものことがあったときのために残すものであり、同時に私がこの覚悟を忘れず、進み続けるためのものです。ああ、安心するんだ私。必ず、無事に全てを解き明かして、誰もが幸せな結末を迎えよう。

それじゃあ、録音はここで止めます。また、諦めそうになったらこれを再生するんだよ、きっとあなた、そう、私はやれる。大丈夫。じゃあ、また。

<録音終了>

isyo.jpg

鈴木氏の遺書とみられるメモ

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。