アイテム番号: SCP-854-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-854-JP-AとSCP-854-JP-Bは移動不可能であることから、その2つが所在する[編集済]神社を敷地ごと財団が買収し、一般人の立ち入りを禁止します。SCP-854-JP-Aの付近に監視カメラを設置し、SCP-854-JP現象を記録して下さい。SCP-854-JP-Bの付近にも複数の監視カメラを設置し、1週間ごとに破損状況をチェックして下さい。SCP-854-JP-A およびSCP-854-JP-Bの保全には十分注意を払い、著しい損耗が確認された場合はただちに研究チームに報告して下さい。
説明: SCP-854-JPはSCP-854-JP現象、SCP-854-JP-A、SCP-854-JP-Bの3つから構成されるSCPオブジェクトです。
SCP-854-JP現象は、自動販売機の直下、道路の側溝、マンホールなど、狭い開口部を備えた構造物に短時間発生する現象です。SCP-854-JP現象が発生すると、その周囲20m内の床面に落下した硬貨は、ほぼ100%の確率で側面部分を下にして着地します。硬貨はそのまま位置エネルギーを運動エネルギーに変換し、一見すると自然な軌道を描いてSCP-854-JP現象の発生している構造物の方向へ転がります。移動距離に比して運動エネルギーが明らかに過小だった、移動の途中で何らかの障害物にぶつかった等の理由で硬貨が途中で停止した場合、その硬貨は通常どおり床面で横倒しとなります。しかし硬貨がSCP-854-JP現象の発生している構造物の開口部に到達すると、硬貨はその時点で消失し、SCP-854-JP-Aの直上へと瞬間移動します。
SCP-854-JP-Aは賽銭箱です。大きさは幅1.5m、奥行0.75m、高さ0.85mです。汚れが著しく、複数の箇所が破損していますが、それ以外は外見的にも材質的にも一般的な神社で使われる賽銭箱と同じです。ただしSCP-854-JP-Aは最初に発見された場所に不明な方法で固着され、動かすことができません。SCP-854-JP現象によって瞬間移動してきた硬貨は、外部からの妨害がない限りはそのままSCP-854-JP-Aに向けて落下し、賽銭口を通じてSCP-854-JP-Aの内部に収まります。SCP-854-JP-Aの内部には日本国で製造された硬貨がおよそ6,000枚収納され、現在も増え続けています。
SCP-854-JP-Bは、首に赤い前掛けをつけた石像です。SCP-854-JP-Aと同じく最初に発見された場所に不明な方法で固着されています。赤い前掛けがある点や[編集済]村の元住人の証言から、SCP-854-JP-Bはいわゆる「稲荷像」であると推定されますが、全身が摩耗しており、特に頭部の損耗が著しく、鼻と口は完全に消失しています。また後頭部には多数のひび割れや破損がみられますが、高精度カメラによる観察により、この損傷はSCP-854-JP現象が起こるたびに少しずつ進行していることが確認されています。このため、SCP-854-JP現象を引き起こしている主体はSCP-854-JP-Bであると推定されています。
SCP-854-JP現象、SCP-854-JP-A、SCP-854-JP-Bは、200█年██月██日に発見されました。当時財団は発信機を仕込んだ硬貨を用いて要注意団体████の本拠地の特定を進めていましたが、そのうちの1枚が偶発的にSCP-854-JP現象に遭遇、[編集済]県[編集済]郡[編集済]村の山中へ転移しました。位置情報を確認した財団は調査部隊を派遣し、問題の硬貨が[編集済]神社の敷地内に設置されたSCP-854-JP-Aの内部にあることを確認。SCP-854-JP-AとSCP-854-JP-Bが移動不可能であることもこのとき判明し、収容に至りました。
[編集済]神社は現在、198█年██月██日に発生した土砂崩れで拝殿・本殿が埋まっています。SCP-854-JP-Aの汚損もこの土砂崩れが原因と推測されます。また、この土砂崩れにより神主が死亡したこと、その15年後までに付近の全住人が村外へ引っ越し、管理する人間が存在しなくなったことにより、現在[編集済]神社は実質的に破棄された状態となっています。
財団はSCP-854-JPの背景を探るため、かつて[編集済]神社の付近に居住していた人間を捜索し、インタビューを試みました。インタビューには現在までに4人が応じています。
対象: ███ 武志氏
インタビュアー: ██博士
付記: ███ 武志氏は最後まで[編集済]村に残っていた一人である。
<録音開始(200█/██/██)>
██博士: それでは███さん、貴方の生まれ故郷である[編集済]村と、その村の近くにあった[編集済]神社について教えていただけますか。
███氏: [編集済]村ですか。何の変哲もない山奥の寒村ですよ。一番近くのスーパーまで車で2時間。典型的な過疎の村でしたね。祖父の介護があったとは言え、俺もよくあんな村にずっと住んでたものだと思いますよ。[編集済]神社は、あんな田舎の割には境内が広くて、けっこう立派な神社でした。でも観光客なんて年に数人物好きが訪れるくらいで、無名の地味な神社ですよ。
██博士: [編集済]神社の神主さんはどんな方でしたか?
███氏: 俺が小さい頃に亡くなったんでよく覚えてませんが、まあ普通のおじいちゃんでしたよ。村のお爺やお婆が神社を集会所代わりに使っても、境内で子供が遊び回っても黙認してくれていたそうで、きっと優しい方だったんでしょうね。神社は神様の住まいだから、本当はそういうことするのは良くないそうなんですが。
██博士: これには見覚えはありますか?(SCP-854-JP-AとSCP-854-JP-Bを撮影した写真を見せる)
███氏: あー…[編集済]神社にあったやつでしたっけ? 覚えてないですね。
██博士: [編集済]村や[編集済]神社について、何か変わった体験や思い出はありませんか。
███氏: 変わったことねえ…さっきも言った通り[編集済]村なんて本当にただの過疎村ですし、[編集済]神社の境内は俺が小学生になる前に立入禁止になっちゃったからねえ、崩落の危険があるとかで。特に何も。
██博士: どんな些細なことでも構いません。
███氏: んー、そういえば村を出た1年くらい後、一度だけ[編集済]神社の夢を見ました。いや、あれって本当に[編集済]神社だったのかな。なんだか凄く曖昧な夢だったから。誰かが俺に話しかけてきたような気もするけど、ほとんど聞き取れなかったです。まあ、不思議な体験ではあったかな。
<録音終了>
このインタビューと並行して[編集済]神社の神主である██氏についても調査されましたが、経歴、死因に不審な点はありませんでした。要注意団体との繋がりも確認されていません。
対象: ██ 昭子氏
インタビュアー: ██博士
付記: ██ 昭子氏は32歳まで[編集済]村で暮らしていた。転職のため、土砂崩れの10年後に村外に引っ越している。
<録音開始(200█/██/██)>
(███ 武志氏と内容が重複する部分は省略)
██博士: これには見覚えはありますか?(SCP-854-JP-AとSCP-854-JP-Bを撮影した写真を見せる)
██氏: ああ、おさきさんね。それにこの賽銭箱。懐かしいわ。
██博士: おさきさん?
██氏: このお稲荷様のことよ。村の人は皆おさきさんって呼んでた。
██博士: オサキとはキツネの憑き物のことですね。神様の遣いであるお稲荷様に付ける名前としては不自然では?
██氏: そうねえ。言われてみれば、なぜあの像をそんな名前で呼んでたのかしら。よくわからないわ。
██博士: このおさきさんは、何か不思議な現象を起こしていたのでしょうか?
██氏: 不思議な現象? 怪談みたいな? さあ、私は見たことないわ。
██博士: では、こちらの賽銭箱はいかがでしょう。
██氏: 懐かしいわねえ。拝殿は全部埋まったって聞いてたけど、これは無事だったのね。…いえ、無事じゃないか。こんなに汚れちゃって。長いこと土砂をかぶってたのね。
██博士: こちらについてご存知のことを教えていただければ。なんでも構いません。
██氏: うーん、そうねえ…境内を使わせてもらう代わりに賽銭を入れてたことくらいかしら。
██博士: というと?
██氏: [編集済]神社は村の皆の集会場とか遊び場になってたんだけど、さすがに神様の場所を勝手に使わせてもらうのは失礼だろう、ということで、大人たちは神社に集まるときに必ず賽銭箱にお金を投げ入れていたの。で、それを見ていた子どもたちも真似しだしてね。神社で遊ぶときは必ず賽銭箱にお金を入れなくてはいけない、みたいな決まりになったのよ。後から変なルールもできたわ、小さい子は1円でいいけど、小学校に上がった子は5円、みたいな。
██博士: 神社に村の人たちが集まるときには必ず、賽銭箱にお金を入れていた、と?
██氏: ええ、そうよ。私も子供の頃にあそこで遊ぶときは5円入れていたし、大人になってからは境内を使わせてもらうときに10円か100円を賽銭箱に入れていたわ。
██博士: なるほど。では他に、[編集済]村や[編集済]神社について、何か変わった体験や思い出はありませんか。
██氏: えーと…そういえば、一度だけ[編集済]神社の夢を見たわ。村を出た1年後くらいだったと思うけど。
██博士: どんな夢ですか?
██氏: ぼんやりした夢だったわ。自分が[編集済]神社の中に居ることだけは判るけど、でも景色がなんだか曖昧で。音もよく聞こえなかったわね。誰かが私に「来て」って言ったのだけは覚えてるけど、でも来てって言われても、どこへ行けばいいのか意味不明よね。不思議な体験といえばそれくらいかしら。
<録音終了>
対象: ███ 聡氏
インタビュアー: ██博士
付記: ███ 聡氏は18歳まで[編集済]村で暮らしていた。土砂崩れの4年後、大学進学のために村外に引っ越している。
<録音開始(201█/██/██)>
(前述の二氏と内容が重複する部分は省略)
██博士: お稲荷さまの像をオサキと呼んでいたことについて、何か心当たりはありますか?
███氏: 神主さんに聞いたことがあります。大昔、あの村でオサキと呼ばれる妖怪が暴れていて皆が困っていたところ、通りがかりの空海上人が法力でその妖怪を懲らしめてくれた。反省した妖怪は神様の遣いとして村を守ることを誓い、不思議な力で田んぼを豊作にしたり、どこからともなくお金を取り寄せたり、みんなの夢の中に現れて台風が迫っていることを伝えたりしたので、村はいろいろな危機を無事に切り抜け、たいそう栄えた、と。
██博士: なるほど。つまりあの稲荷像は、実はオサキの石像だったということですか。オサキの石像は、村で何か不思議な現象を起こしていたのではありませんか?
███氏: 私が知る限り、おさきさんが不思議なことを起こしたという事例はありません。そもそも伝承と現実を混同するべきではないと思います。
██博士: そ、そうですか。失礼しました。
███氏: もし仮におさきさんが不思議な力を持っているとしても、石像があんなに摩耗していたのでは、もう力も消え失せているのではないでしょうか。
██博士: そうかも知れませんね。では貴方の記憶では、[編集済]村や[編集済]神社について、特に変わった体験や思い出はないのでしょうか。
███氏: もちろんありません…あ、いえ。一つだけありました。
██博士: というと?
███氏: 一度だけ[編集済]神社の夢を見ました。私が大学2年生になった直後のことです。その夢の中の私は、子供の頃のように[編集済]神社の境内で、木の幹に集まる昆虫を観察していました。カブトムシに手を伸ばしたところで誰かが私に話しかけてきたのを覚えています。「要らないから、来て」と言っていました。夢はそこで覚めました。
██博士: 「要らないから、来て」? 何が要らなくて、どこに来てほしかったんでしょうか。
███氏: 両方とも不明です。誰がそう言ったのかも覚えていません。でも、そう言われたことは、今でも鮮明に覚えています。
<録音終了>
対象: ██ 宮子氏
インタビュアー: ██博士
付記: ██ 宮子氏は22歳まで[編集済]村で暮らしていた。土砂崩れの翌年、結婚のために村外に引っ越している。
<録音開始(201█/██/██)>
(前述の三氏と内容が重複する部分は省略)
██博士: [編集済]神社が土砂崩れに遭った後、[編集済]村に事故が相次いだり、田んぼが不作だったりはしていなかったでしょうか?
██氏: 別にそんなことはなかったわね。たまに村に帰省したときも誰も事故や不作なんて口にしてなかったし。でも、あの神社がなくなった影響はあったと思うわ。帰省するたびに村の皆の心がだんだんバラバラになって行っているように感じたもの。きっとみんなで集まれる場所がなくなったせいね。神社が健在なら、あの村も廃村にならずに済んだかもしれないわ。
██博士: なるほど。それともう一つお聞きしたいのですが、今までに[編集済]神社の夢を見たことはありませんか?
███氏: 夢? ああ、そういえば見たわね。引っ越しの翌年だったわ。20年以上も前のことなのに今でも鮮明に覚えてる。
██博士: どのような夢ですか?
███氏: 子供の頃の私が、夏の青い空と入道雲の下を友達と一緒に歩いてる夢だったわ。私たちは[編集済]神社に辿り着くと、いつものようにポケットから5円玉を取り出して賽銭箱に入れようとしたの。すると、誰かが…それが誰かということだけは覚えてないんだけれど、誰かが私にこう言ったの。「賽銭はいらない。ボクが代わりに入れるよ。賽銭はいらないから、だから」って。…意味はよく判らなかったけれど、とても切実な声だったわ。
<録音終了>
インタビューに応じた4人がすべて、引越の約1年後に[編集済]神社に関する夢を見ていたこと、夢の中で不明な誰かから話しかけられたと証言していることは特筆すべき共通点です。しかしながらこの夢とSCP-854-JPの関係性については立証できておらず、研究が急がれます。
201█年現在もSCP-854-JP現象は続いていますが、発見当時は月に5度以上の頻度だった発生回数は少しずつ減り、今は月に2度前後です。そのためSCP-854-JP-Bの後頭部の損傷の進行も遅くなっていますが、研究チームの計算によると、SCP-854-JP現象が完全に終息するより前にSCP-854-JP-Bの頭部が破壊される可能性は50%弱とのことです。財団の倫理委員会は今後の対応について、特別収容プロトコルの改定も含めて協議中です。