SCP-894-JP
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アイテム番号: SCP-894-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-894-JPはサイト-8181の専用保管ロッカーに筆記具と共に収容されます。SCP-894-JPの収容違反を防止する目的から、SCP-894-JPの付近には常にペンや鉛筆といった筆記具が配置されなければなりません。

SCP-894-JPを用いた実験にはレベル3以上の職員2名による承認が必要であり、Dクラス以外の職員がSCP-894-JPに筆記または描画を行う場合はレベル4以上の職員3名以上による承認が必要です。

説明: SCP-894-JPは、表紙に「あなたの夢は何でしたか?」と一般的な油性染料インクを用いた乱雑な文字で書かれている、███社から発売されているものと同一の外見のB5サイズの大学ノートです。外見以外の素材やページ数といった点に異常は確認されませんでした。

SCP-894-JPに行われた筆記または描画は、その終了と同時に即座に消失します1。その後、SCP-894-JPに筆記または描画を行った人物(以下、対象と表記)は、特定の職業に関する専門的な技術・技能や知識、そしてそれらの習得に対する意欲及びその職業自体への関心を喪失します。これまでの実験結果から、対象から技術・技能・知識・意欲・関心が喪失する職業について、対象が過去に最も就業を希望していたものであると推測されています。詳細は下記の実験記録を参照してください。

ある程度の期間中に何も筆記または描画が行われなかったSCP-894-JPは、その地点から最も近くに存在する筆記具の付近に転移することが判明しています。これまでに報告された転移までの期間は、最短で24時間、最長で168時間です。また、一度でもSCP-894-JPに筆記または描画したことのある人物は、筆記・描画によってSCP-894-JPの転移を阻止できないことが明らかになっています。

SCP-894-JPは、██県██市のアパートで自殺した大原 ██氏の自室の机上から、大量の原稿用紙やペンに埋もれた状態で発見されました。当初、アパートの管理人から通報を受けた警察は、大原氏の自室を捜査した際にSCP-894-JPを証拠品として押収していました。しかし、SCP-894-JPが証拠品袋から出された状態で証拠品保管庫内の筆記具の付近から発見される事例が相次いだため、警察内部に潜入していたエージェントによって財団に引き渡され、その後異常性が判明しました。なお、警察がSCP-894-JPを発見するまでの間、大原氏の自室にあった筆記具によってSCP-894-JPの室外への転移が阻害されていたと考えられています。

以下はSCP-894-JPに関する実験記録の抜粋です。

実験記録894-JP-4 - 20██/██/██

対象: D-894-2。事前の聞き取り調査では「サッカー選手になりたかった」と回答。

実施方法: 対象にSCP-894-JPへ「サッカー選手」と筆記させる。

結果: 対象はサッカーに関する専門的な技術・技能・知識及びそれらの習得に対する意欲とサッカー選手自体への関心を喪失した。なお、対象はサッカー選手に関する技術・技能・知識の習得を過去に行ったというエピソード記憶やサッカー選手への就業を希望するようになった動機等を実験後も保有していたものの、その中で具体的にどのような技術・技能・知識を獲得したかについては回答することができなかった。

考察: 基礎的な身体能力や認知機能等には影響せず、あくまで特定の職業に関する専門的な技能や知識のみが失われるものと思われます。また、その職業に関するエピソード記憶の一部及びその職業自体の存在や内容といった基本的な知識も同様に維持されるようです。 - ██博士

実験記録894-JP-5 - 20██/██/██

対象: D-894-2。

実施方法: 対象に再度「サッカー選手」とSCP-894-JPへ筆記させる。

結果: 実験前後で対象に変化は見られなかった。

考察: 一度SCP-894-JPの影響を受けた対象には再び影響を及ぼすことはないようです。 - ██博士

実験記録894-JP-6 - 20██/██/██

対象: D-894-2。

実施方法: SCP-894-JPの影響により喪失した、対象のサッカー選手に関する技術・技能や知識を再習得させる。

結果: 技術・技能習得の為の反復トレーニング及び知識習得の為の1対1の講義が行われたが、いずれも定着には成功しなかった。また、疑似記憶の植え付けも効果は現れなかった。

考察: SCP-894-JPによる技術・技能や知識の喪失は永続的かつ不可逆的であるものと思われます。実験894-JP-4の結果と併せて、恐らくエピソード記憶からの再習得も不可能でしょう。 - ██博士

実験記録894-JP-8 - 20██/██/██

対象: D-894-4。事前の聞き取り調査では「パイロットになりたかった」と回答。

実施方法: 対象に「教師」とSCP-894-JPへ筆記させる。

結果: 対象は航空機の操縦に関する専門的な技術・技能・知識及びそれらの習得に対する意欲とパイロット自体への関心を喪失した。

考察: SCP-894-JPは筆記される内容に関わらず対象に影響を及ぼすのかもしれません。更なる実験が必要です。 - ██博士

実験記録894-JP-9 - 20██/██/██

対象: D-894-5・D-894-6・D-894-7。事前の聞き取り調査ではそれぞれ「美容師・医師・看護師になりたかった」と回答。

実施方法: D-894-5には美容師という職業に対する自身の考えを、D-894-6及びD-894-7には「あいうえお」とそれぞれSCP-894-JPへ筆記させる。

結果: D-894-5はSCP-894-JPの全ページのおよそ半分を用いて、自身が美容師を志すようになった動機・美容師に就くための努力とその過程で起きた出来事や挫折・美容師という職業に対する自身の意見について記述した。その結果、D-894-5は美容師に、D-894-6は医師に、D-894-7は看護師に関する専門的な技術・技能・知識及びそれらの習得に対する意欲とそれぞれの職業自体への関心が喪失した。

考察: 仮説は正しかったようです。対象がSCP-894-JPにどのような記述を行ったとしても、SCP-894-JPはそれに左右されることなく対象の技術・技能・知識・意欲・関心を喪失させると見ていいでしょう。 - ██博士

実験記録894-JP-11 - 20██/██/██

対象: D-894-9。事前の聞き取り調査では「料理人になりたかった」と回答。なお、D-894-9は以前██県のレストランで調理師として勤務していた。

実施方法: 対象に「料理人」とSCP-894-JPへ筆記させる。

結果: 対象は調理に関する技術・技能・知識及びそれらの習得に対する意欲と調理師自体への関心を喪失した。

考察: 過去にその職業に就いた経験がある対象にも同様に影響を及ぼすようです。では、現在その職業に就いている対象には異常性を発現させるのでしょうか? - ██博士

実験記録894-JP-12 - 20██/██/██

対象: 新木研究助手2。事前の聞き取り調査では「研究者になりたかった」と回答。

実施方法: 対象に自身の職業に対する考えをSCP-894-JPへ筆記させる。

結果: 対象はSCP-894-JPの██ページを用いて、自身が研究者を志すようになった動機・研究者に就くための努力やその過程で起きた出来事・自身の研究者という職業に対する意見・研究者に就いてからの理想と現実のギャップについて記述した。その結果、実験後の検査では対象に変化は見られず、いかなる技術・技能・知識・意欲・関心の喪失も確認されなかった。

考察: SCP-894-JPは恐らくその時点で既に就業を希望していた職業に就いている対象に影響を及ぼすことはないものと思われます。しかし、念のため3ヶ月間の経過観察の実施を提案します。 - ██博士

実験記録894-JP-14 - 20██/██/██

対象: D-894-10。事前の聞き取り調査では「公務員になりたかった」と回答。

実施方法: 対象に簡単な図形やイラストをSCP-894-JPへ描画させる。

結果: 対象はSCP-894-JPの表紙を視認してから数秒後に落涙し始め、そのままSCP-894-JPを開き男性キャラクターのイラストを描画した。対象はイラストの描画を終えた後、放心した様子で椅子に座ったままの状態となり、実験スタッフの呼びかけにも応じなかった。その後実験の終了が宣言され、対象は警備スタッフにより実験チャンバーから退出された。なお、実験後の対象はイラストの描画能力を完全に喪失していた。

考察: 図形やイラストでもSCP-894-JPの異常性は発現することが確認されました。また、対象からイラストの描画能力が喪失した原因、そして対象が何故このような行動に至ったのかについての調査を行う必要があるでしょう。 - ██博士

インタビュー記録894-JP-2 - 20██/██/██

対象: D-894-10

インタビュアー: ██博士

<記録開始>

██博士: D-894-10。なぜあなたは実験中に我々の指示を無視してあのような行動を取ったのですか?

D-894-10: 許せなかったんですよ、あのノートが。俺、アンケートだと公務員になりたかったって答えたでしょう? でも、本当は漫画家になりたかったんです。

██博士: 虚偽の回答をしていたと?

D-894-10: 嘘をついていたというか、昔の話だからそう書かなかったってだけで。漫画家については、もう終わったことだと思いたかったので。

██博士: 終わったこと、ですか。

D-894-10: ええ。子供の頃から漫画が大好きで、高校を卒業した後はバイトをしつつ漫画を描いてたんですけど、賞にいくら応募しても、尽く鳴かず飛ばずで。当時は俺より下だと思っていた昔の友人が、俺より先に少年誌で売れてるのを知った時は、俺は今まで何をやってきたんだと思ったこともあったんです。あれだけ好きだった漫画が段々楽しめなくなってきて、他人の技術やセンスを吸収するより先に粗探しをするようになりました。

██博士: それで?

D-894-10: 歳を取って後が無くなったって時に、ようやく自分でも納得いく作品が描けたと思って、意気揚々と出版社に持って行ったんです。まあ、結局駄目だったんですけど。それで、出版社からの帰り道、赤信号だったことに気付かないくらいショックだったんでしょうね。車に撥ねられて、腕に障害が残ったんですよ。その頃にはもう何も思い浮かばなくなって、書店で漫画が並んでいるのを見るだけで悲しくなってきてしまいました。

██博士: それがどう実験中の行動に繋がるのですか? なぜあのような行動を取ったのかを教えてください。

D-894-10: すみません。まあ、実を言うと、こんな中途半端になるくらいだったら、いっそ全部捨ててしまいたいと思ったことは何度もあるんですよ。それでも結局、俺は諦められなかったんです。他に取り柄も無かったですし、あれは俺の全てだと思っていましたから。それなのに、あの時部屋に入って、あのノートの表紙を見たら、「あなたの夢はなんでしたか?」って。俺は自分の人生を、自分の何もかもを馬鹿にされたような気がして、死ぬほど悔しくて、俺の全てをぶつけるつもりで、あのノートに絵を描いてやったんですよ。

██博士: それが「簡単なイラスト」という指示を無視した理由ですか。

D-894-10: はい。あの時はそれどころではなかったので。それで、作品を描き終えたところ -

██博士: どうなりました?

D-894-10: 急に何もかもがどうでもよくなってしまいました。完成した作品の出来はゴミみたいなもんでしたが、後悔はしてません。

██博士: なるほど。ところで、実験の後、あなたはイラストの描画能力を完全に喪失しましたね。それについてどう思いますか?

D-894-10: さっきも言った通り後悔していませんし、それで良かったんだと思います。俺は逃げました。俺にはできませんでした。俺は自分の全てを自分で投げ出してしまった。あの絵を描き終えた瞬間、俺の人生は何もかも無駄になってしまったんです。というか最初からそうだったのかもしれません。でも、幾分か気が楽になったのは本当なんですよ。ただ -

██博士: ただ?

D-894-10: 気が楽になったのは確かなんですが、抜け殻になってしまったというか、重荷を降ろしたらそのまま何処かへ飛んで行きそうなくらい身体が軽くなったというか。生きているのがこんなに空しいものなのかと、生まれて初めてそう思いました。

<記録終了>

終了報告書: インタビュー後に行われたD-894-10に対する更なる調査の結果、D-894-10は漫画やイラストを始めとした創作活動に関する専門的な技術・技能・知識、そしてそれらの習得に対する意欲及び漫画家自体への関心を喪失していることが判明しました。


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