SCP-900-JP
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███氏宅より回収したSCP-900-JP周辺写真。撮影方法は不明

アイテム番号: SCP-900-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-900-JP発生の可能性がある地域一帯は、現在エリア-8190に指定されています。エリア-8190周辺からの住民の退去または移住は既に完了していますが、エリア内への如何なる人員の進入も未然に防ぐため、エリア-8190は警戒レベル5の防護塀によって封鎖されています。
これら防護塀を含んだエリア-8190の存在は、記録の抹消、記憶処理を含んだ措置によって厳重に秘匿されます。その実現のために、エリア-8190周辺には最低四部隊の機動部隊を配置し、迅速な対応を心がけてください。
エリア-8190は広範囲に渡ってエリア指定がされており、情報の機密性を保つため、これ以上の機動部隊の増員または管理区域の設定は行われません。エリア-8190に於けるセキュリティ違反事例に対する予防措置について、現在議論と実験が継続中です。

SCP-900-JP発生期間は、現行の予報技術によって76%の確率で予想を的中させることが可能です。SCP-900-JPの発生が確認された場合、全ての人員はエリア-8190外に退避し、人工衛星"バアト"による観測と同時に電磁波測定、各種放射線測定、言語化プログラムを含んだ8.21kHz〜11.72kHzの光周波傍受装置の起動、目視による観測を継続してください。
SCP-900-JP現象終了後は、得られたデータの精査と報告の他、元素電位測定装置によってSCP-900-JP影響により消失した元素の内訳を調査してください。

エリア-8190セキュリティ違反に繋がるような精神的徴候を示していると思われる人物を発見した際は、ただちに近辺の保安部隊によって拘束後、睡眠時の夢に重点を置いた精神鑑定を実施してください。これによってエリア-8190セキュリティ違反を発生させ得る人物である事が判明した場合、隔離観察を施してください。
隔離観察によって、SCP-900-JP周辺地域へ移動したいという衝動の異常な高まりと、それを実現しようとする長時間の暴力的行動が見られた場合、対象を終了してください。

SCP-900-JP-1内部の探査もしくは立ち入りは現在禁止されています。

説明: SCP-900-JPは███[削除済]の[削除済]岳一帯で濃霧が発生した際に発生する複数の現象です。SCP-900-JP現象の一環である対象の濃霧はSCP-900-JP-1へと分類されます。
SCP-900-JP発生後、SCP-900-JP-1に覆われている物体は原子・分子レベルで少量の表面物質が剥離し、SCP-900-JP-1中心地点へと吸引されます。剥離した物質はSCP-900-JP-1中心地点への到達後消失します。
表面物質の剥離は、10分毎に対象物を構成する物質総量の0.12%を奪います。その際、剥離の必要の無い物質1もSCP-900-JP-1中心地点へと吸引されます。
剥離した物質は極微小であり、微量であるため、殆どの場合で剥離した物質を目視する事は出来ません。

生物が物質の剥離に曝された場合、物質の剥離が神経の破壊または生命の危機に及ぶほど進行しているにも関わらず、対象は苦痛や危機感を一切抱きません。報告では、この間対象には極端な判断能力の低下と行動力の鈍化が見られ、レム睡眠の徴候を示す脳波が検出されています。
この時に対象をSCP-900-JP-1から回収するか、SCP-900-JP現象が終了する事によって、対象は平常時の感覚を取り戻します。

SCP-900-JP-1中心地点である、約11㎥の空間はSCP-900-JP-1aに分類されます。人間(以下被験者)がSCP-900-JP-1aに進入した際、被験者は即座に消失します。その後SCP-900-JP現象が終了するまで、SCP-900-JP-1aは断続的に複数のパターンの可視光を照射し続けます。

SCP-900-JP現象は気象的要因による濃霧の消滅によって終了します。これまでSCP-900-JPによって消失した物質が再出現した例はありません。

補遺1: SCP-900-JP-1aにて人間が消失した際の可視光が、光無線通信のパターンを一部利用した、可視光による信号である事が判明しました。直ちに従来の光無線通信技術を応用した言語化プログラムの研究が行われました。
これによって、SCP-900-JP-1aからの光は、直前に消失した人物の情報を利用したメッセージである事が判明しました。
以下は、これによって言語化された一部のメッセージです。

直前に消失した被験者: █氏 日本人男性 43歳 一般人 エリア-8190セキュリティ違反事例-19によって進入

メッセージ内容: 私は█ ███。43歳、日本人だ。███証券会社に19年間勤め、3年前妻と離婚した。15歳の息子と7歳の娘は妻が引き取り、私はアパートに引っ越して一人で暮らしていた。妻の名は██、息子の名は█、娘の名は██だ。6ヶ月前気管支炎に罹った際、初めて会社を休んだ。
夢を見たのは、その時が最初だった。霧の向こうに、世界があった。私がいる世界だった。今私が立っている世界だった。
そこは、私が以前住んでいたのと全く同じ地区だった。同じ家が建ち、同じ人々とすれ違い、同じコンクリートが打たれていた。感触があり、呼吸があり、音があり、光があり、空気があった。
そして私は、妻と子供といた。かつて変わる筈が無いと思っていたもの。既に失われてしまった世界があった。
その世界は、もうここにある。ここで、私はそうしている。霧の中に世界がある。
夢や幻ではない。本物の世界だ。私が、本当に生きていた世界。私が現実だと信じた世界。あの四畳一間こそが夢だったのだと信じさせてくれる世界。
私はここにいる。世界の果ては、ここにある。

メモ: 調査の結果█氏の実在を確認。同氏は離婚後鬱状態が続き、エリア-8190セキュリティ違反事例-19の2日前に行方不明となっていた。元妻や子供らの無事が確認されたため、メッセージの内容は虚偽のものである可能性がある。人相の照合により、█氏はおよそ92%の確率で、エリア-8190セキュリティ違反事例-19に於ける侵入者と同一人物であるとの結果が出ている。

直前に消失した被験者: ██女史 日本人女性 21歳 一般人 エリア-8190セキュリティ違反事例-26によって進入

メッセージ内容: 私は██ ██。21歳、日本人です。高校を卒業してからフリーターで、2年前アルバイト仲間の男の人と付き合い始めました。彼は私の父親と同じように、私に暴力を振るいながら犯しました。私は今日まで2ヶ月間軟禁状態にありました。彼の名前は██ ███です。
夢を見たのは、軟禁の初日が最初でした。霧の向こうに、世界がありました。私がいる世界でした。今私が立っている世界でした。
そこは、どこまでも広がる草原と青空の世界でした。空にはチョコレートケーキとメイプルシロップの雲が浮かんでいて、私はいつでも、望んだ時にそれを本物にして食べる事が出来ました。私はいつでも好きな服装に着替える事が出来、傷を負う事も無くどこまでも好きに走って行けました。
見渡す限りどこにも人はいませんでした。それでも、私が会いたいと思った人は即座に私の目の前に現れ、私が満足するまで私と共に、その人そのものの状態で居てくれました。
その世界は、もうここにあります。ここで、私はそうしています。霧の中に世界があるのです。
夢や幻ではありません。本物の世界なのです。私が、本当に生きている世界。私が自由だと信じられる世界。あの父親も彼もただの夢だったのだと信じさせてくれる世界。
私はここにいる。世界の果ては、ここにある。

メモ: 侵入者によるセキュリティ違反事例の計画性が明らかに高まっている。現状の態勢では、空からの侵入には対処し切れない。SCP-900-JPの持つミーム的特性の調査と併せて、封じ込め態勢の見直しを検討されたい。

追記: 本事例に於いては、被験者が自宅より失踪する4日前に母親へ以下の文のメールを送信していた事が明らかとなっています。被験者が何らかの形でSCP-900-JPの不明な影響を受けていたかどうか、そうであるならばどのようにして影響に曝されたかについて議論と調査が進行しています。

メール本文: お母さん、夢の場所がわかったよ。行き方も教えてくれた。さようなら。でもまた会えるよ

SCP-900-JPが遠隔地の一般人に対して何らかのミーム効果を発揮している可能性について、調査と実験が継続されています。

補遺2: エリア-8190セキュリティ違反事例-31に於ける侵入者である███氏の自宅を捜索したところ、SCP-900-JP-1へ侵入する███氏を写したSCP-900-JP周辺写真が発見されました。写真には日付は無く、またエリア-8190セキュリティ違反事例-31時点での同氏の状況と侵入方法から考えて明らかに不自然な写真であった事から、SCP-900-JPの持つ未知のミーム効果解明に繋がる研究対象に分類されました。

補遺3: SCP-900-JP-1aからの可視光信号をリアルタイムで言語化し、同時に任意の信号パターンを送信する事で、リアルタイムでのコミュニケーションを図る実験が行われました。
以下は、その実験の通信記録ログです。

直前に消失した被験者: D-88374 日本人男性 31歳 左腕部に"238"と書かれたタグを装着

<記録開始>

SCP-900-JP-1a信号: 俺は█ ██。31歳、日本人だ。中学を出てからマグロ漁船で──

送信信号: こちら ほんぶ おうとう ねがう

SCP-900-JP-1a信号: 聞こえるな。何か聞こえる。ああ、そうだ、実験なんだった。よく聞こえる。あんたの声が聞こえるぞ。

送信信号: たぐ の かくにん

SCP-900-JP-1a信号: ああ、確認出来る。238だ。これで俺があんたらにとってD-88374だって分かったかい?

送信信号: じょうきょう もとむ

SCP-900-JP-1a信号: 町だ。漫画みたいな、面白い形の建物がずらりと並んで、なんだか、こう、色々と動いている。知ってる町じゃない。でも、なんだか楽しげだ。メインストリートみたいな所で・・・人も沢山行き交ってる。まるでカートゥーンみたい人々がそこら中にいる。

送信信号: はなし かけろ

SCP-900-JP-1a信号: 意味ねぇよ。

送信信号: なぜ

SCP-900-JP-1a信号: ここが、俺が本当に生きていた世界だからさ。やっと夢から覚めたんだ。ここが、俺そのものなんだ。だから俺が応えてる以上の事なんざ、あの連中からは聞けやしねえよ。

送信信号: どういう ことか

SCP-900-JP-1a信号: あんたらはここを夢か幻の世界だと思ってるみたいだが、ここにはちゃんと物質がある。その物質全部は、俺によって作られてんだ。世界は俺で、俺は世界なんだ。そしてそうやって作られている世界は、ここにゃもっともっと沢山ある。そのどれもが現実で、真実なんだよ。夢なんかじゃねぇ。俺に合わせて形を変える現実さ。

送信信号: どうやって それ しった

SCP-900-JP-1a信号: 霧が教えてくれたのさ。頭の中にある霧が、ここの事を全部教えてくれるんだ。

送信信号: きり とは

SCP-900-JP-1a信号: 霧は、現実を覆う影そのものさ。あらゆるものがそれに覆われてる。俺たちはその霧を通した向こう側を見ようとしていた、いつもそうしていた。でも間違いだったんだ。俺たちが見るべきだったのは霧の向こうじゃなくて、霧そのものだったんだ。
ああ、もう行くよ。霧が誘ってるんだ。俺が、本当に生きている世界へ。俺が楽しいと信じられる世界へ。あんたらには感謝してるよ。俺のクソみたいな夢が、ただの夢だったと信じられる世界へ送ってくれたんだからな。
俺はここにいる。世界の果ては、ここにある。

SCP-900-JP現象が、SCP-900-JP-1の消滅によって終了。SCP-900-JP-1a信号も停止した。

<記録終了>

補遺4: D-88374を使用した実験以後、SCP-900-JP現象発生の際およそ45%の確率頻度でSCP-900-JP-1aが人間の消失無しで可視光信号を発するようになりました。信号は常に以下の文言を繰り返し発信し続けています。

野に伏す 霧は 我が身命
まことは ゆめの 素材なり
世界の果ては ここにある

このメッセージが発されている間、エリア-8190セキュリティ違反事例に於いて侵入を試みた者の内、確保された全ての被験者の脳活動がレム睡眠の徴候を示していました。
また、このメッセージの発信開始以降、財団職員によるエリア-8190セキュリティ違反事例の発生が報告され始めました。彼らの多くがセキュリティ違反事例の数日前から、鬱に似た症状を発露させていました。

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