認証完了。文章「真のSCP-902-JP報告書」を開示します……
アイテム番号: SCP-902-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-902-JP本体には破壊措置命令が下されており、普段はサイト-81██の専用収容室に格納されています。破壊実験時以外は感圧センサー搭載のアラーム装置の上に常に安置し、本稿既読の職員が収容違反及び「王位継承イベント」の発生を速やかに認知・対応出来るよう配慮して下さい。
SCP-902-JPの暴露効果は、現在SCP-902-JP-1と指定されているサイト-81██所属のD-902-1に顕現しています。D-902-JP-1とその取り巻きであるSCP-902-JP-2群は月例解雇免除の上他のDクラス職員から隔離し、所定の職務のみを与えて下さい。現在のSCP-902-JP-2は3名のDクラス職員D-902-2、-3、-4であり、サイト-81██第4倉庫を一時的に雑居房として改装、SCP-902-JP-1と共に収容しています。SCP-902-JP-1には簡易心電計を取り付け、電気パルスの異常を常に把握出来るようにして下さい。
SCP-902-JP-1との未遂を含む直接の接触及び、SCP-902-JP-1が「裸に見える」旨の疑問ないしは確信を口に出す行為は、「王位継承イベント」の発生を招くため堅く禁止されています。「王位継承イベント」発生の原因となった接触行為(未遂含む)・発言をした人間は、特定次第Bクラス記憶処理を実施して下さい。また、本稿を閲覧の上記憶処理を行わなかった職員は別途データベースにリストアップされ、リストは常に自動更新されています。「王位継承イベント」発生時は、リストアップ済みの職員は当該データベースにアクセスの上、新たなSCP-902-JP-1の可及的速やかな特定に努めて下さい。
説明: SCP-902-JPは製造元不明の木製ハンガーです。フック根本部分に"Andersen"と刻印された銀製の輪が嵌め込まれている事以外、その組成・外見共に特異な点は見られません。しかしながら、SCP-902-JPは衝撃・加圧・切断・燃焼・腐食等の物理的な破壊行為に対して異常な耐性を持ちます。現在も収容チームによって破壊の試みは続けられていますが、それらの全ては失敗に終わっています。
SCP-902-JP-1、-2の特性は上記の偽装報告書内の説明と概ね変わりません。ただし、SCP-902-JP-1は「誰にも見えない透明な服に触れ、それを身に付けた人間」ではなく、「SCP-902-JPを目視した故の異常性に直接晒されている人間」を指します。SCP-902-JPが目視による暴露を引き起こすのはSCP-902-JP-1が存在しない条件下のみに限られ、以降の暴露者SCP-902-JP-2は、SCP-902-JP-1の共同体メンバーがSCP-902-JP-1を直接・間接を問わず目視する事によって発生します。
SCP-902-JPの異常性は、その目視によってSCP-902-JPに掛かる「不可視の服」の概念と存在(以下、SCP-902-JP-3)を認識させ、「着用」を促す点に端を発します。SCP-902-JP-3は、周囲の人間の「SCP-902-JP-3は存在する」といった内容の嘘や思い込みによってその存在を確立していると考えられており、SCP-902-JP-1及び-2は「SCP-902-JP-3存在の為に、SCP-902-JPによって無理矢理作り出された」という見方が現在なされています。
ひとたびSCP-902-JP影響下にない人間が「不可視の服」に触れようとするか、SCP-902-JP-1が「裸に見える」旨の発言、つまりSCP-902-JP-3の存在を疑問視ないしは否定する発言をすると、SCP-902-JP-3は即座に消失します。この時の行動や発言の感知可能範囲は不明ですが、感知能力を有するのはSCP-902-JP-3並びにSCP-902-1ではなく、あくまでSCP-902-JP本体であると推測されています。SCP-902-JP-3消失後、SCP-902-JP-1、-2は断片的な記憶を保持したまま変異前の状態に戻りますが、SCP-902-JP本体はSCP-902-JP-3消失と同時に、前述の行動者・発言者を含めた「自らの正体を知る別の人間」1人の元へと瞬間的に転位します。転位先に選ばれる人間は概ねランダムですが、元のSCP-902-JP-1よりも権威や立場がより上位の人間が選ばれる傾向にあります。
これらをSCP-902-JPがどのように知覚・判断しているかは不明ですが、その理由については「SCP-902-JP-3の存在を信じないより強く大きな共同体の、強制的な精神支配のため」ではないかと考えられています。SCP-902-JP-3消失からSCP-902-JP転位を経ての新たなSCP-902-JP-1発生までの一連の現象は「王位継承イベント」と呼称され、SCP-902-JP-1の終了によっても引き起こされる事が判明しています。
補遺3: 「王位継承イベント」は、今までで唯一SCP-902-JPの回収時に生じています。SCP-902-JPは、19██/██/██、要注意団体との関連が疑われた静岡県██市内の廃屋にて発見されました。当時突入・捜索任務に当たったのは5名からなる機動部隊でしたが、内1名がSCP-902-JPを発見・暴露しました。その後同隊部隊長であったエージェント・██に「王位継承イベント」が生じ、エージェント・██がSCP-902-JP-1に、同隊隊員のすべてがSCP-902-JP-2へと変異しました。しかし、この時点でSCP-902-JP-1、-2の「共同体としての職務や義務に対して真摯に取り組む」「共同体の王であるSCP-902-JP-1の命に従う」という特性が生じた結果、エージェント・██はその場に留まった上でSCP-902-JPの性質予測・実験・特定と本部への報告を優先、結果最小限の被害でこれを収容する事に成功しました。この結果は、SCP-902-JPの持つ強力な認識と精神への支配力と、その内容である当機動部隊が真摯に取り組むべき職務が「SCPオブジェクトの可及的安全な収容」であった点が、自己矛盾を起こした末に生じたものと推測されています。また上記偽装報告書の一部並びに当報告書は、潜入当時の音声記録やエージェント・██の報告、SCP-902-JP-2となった機動部隊員を通したインタビューから判明した事象を元に記述されています。
尚、任務に当たったエージェント・██並びに機動部隊員は、当インシデントにおける唯一の犠牲者です(暴露者4名、死者1名。死者はSCP-902-JP-1終了による「王位継承イベント」発生確認のための犠牲)。生存者らは本人達の意向もあり、部隊解散の上表向きは財団フロント企業への転属の記録を残し、月例解雇免除のDクラス職員として再雇用されました。現在、エージェント・██はD-902-1、機動部隊員であった3名はそれぞれD-902-2、-3、-4として、各人「サイト-81██第4倉庫清掃班」の共同体名の下同室に収容されています。
補遺4: ██博士の所見
ここまで目を通した諸君ならば、この報告書が何故研究に携わる者を除いて、一部のセキュリティクリアランスレベル3を持つ職員のみに開示されているか理解出来るだろう。レベル4であるサイト管理者や日本支部理事達、レベル5を持つO5評議会員らが真実を知っている場合の危険性は言わずもがなだが、低レベルセキュリティクリアランスの職員達、つまり財団施設外でも活発に活動を行う者に「王位継承」が生じる事態も避けねばならないのだ。
SCP-902-JPによって生じる「王」は裸である上、殆どの場合周囲に多くの「お供」を引き連れる。故に発見は容易いが、何も知らない人間が「王」を見て「奴は裸だ」と発言する事もまた容易いだろう。加えて、繰り返しになるが、SCP-902-JPによる一連の影響を受けた人間は皆職務に真摯に取り組む。それが例え財団外部の、民間人の目に留まる可能性のある場所での活動でもだ。それらを鑑みた上で考えて欲しい、もし財団施設外での仕事を主とするフィールドエージェントらがSCP-902-JPの正体を知った状態で、「王位継承イベント」が発生してしまったら?単純な話だが、SCP-902-JP本体が財団の把握外に転位してしまう可能性も跳ね上がり、その結果SCP-902-JPが敵対視する「不可視の服への不敬者」が、財団外部で爆発的に増加する事も想像に難くない。そして、一度そうなれば、SCP-902-JPはほぼ収容不可能だ。財団上層部や各国の首相・大統領が「王」になろうものならば、未曽有の大混乱と人的・文化的な被害は免れない。
そうだ、本来ならば誰も真実を知らない方が良いのかもしれないのだ。本来のSCP-902-JPは地下か海中のサイトにでも追いやって忘れ、すべての財団職員がSCP-902-JPを「王とお供を作り出す不可視の服」と認識し、王の崩御と共にどこへともなく消え去ったその服をNeutralized認定でもする方が、丸く済むのかもしれないのだ。しかし、それでは万が一「王位継承」に伴うSCP-902-JP収容違反が起きたとしても、誰一人気付けない。とは言え、真実を知る権利と義務をSCP-902-JP研究に携わる人間だけに限定すれば、サイト-81██丸々1つが「絶対王政化」されるような収容違反が生じた際に初動対応が遅れてしまう。真実を知るのがSCP-902-JP収容担当者に加え一部のセキュリティクリアランスレベル3の職員のみという対応は、考え抜かれた末の苦肉の策なのだ。
SCP-902-JPは、あるいはその製作者は、悪意を持っている。「不可視の服」を信じない人間に対する悪意を持っている。そして、それらの人間に対して服の存在を無理矢理信じさせる力までもを持ち合わせている。しかし幸いにして、SCP-902-JPそのものに人間の嘘を「嘘」と見抜く知性は無い。我々は愚かな「賢い民衆」の振りをし、裸の王が纏う「透明にして絢爛豪華な服」を誉めそやす事で、一時の収容を可能に出来ているのだ。
最後に。本稿閲覧申請の際、諸君は皆パスワードの記された承認証明書を受け取っただろう。そこに特筆次項の記述が無ければ、「真のSCP-902-JP報告書」に関する一切の記憶処理が許可されている。そして、私もそれを強く勧めよう。本稿の記憶保持を義務付けられているのは、私のようにSCP-902-JP収容に直接関わる数名の人間と、各サイト1人ずつ厳正に選任されたセキュリティクリアランスレベル3の職員だけだ。ひょっとしたら次代の「王」になるかもしれない人間は、かの勇敢な幻の機動部隊のように、一生を裸の王とそのお供としてオブジェクト収容に捧げねばならなくなるかもしれない人間は、なるべく少ない方がいいはずだ。