アイテム番号: SCP-931-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-931-JPは現在、専用の防音加工が施された、危険生物収容室に収容されています。SCP-931-JPの収容室は二重構造になっており、SCP-931-JPが収容されている第一収容室は、遮音材を用いた厚さ1mの壁に囲われています。内部には等間隔で吸音材としてグラスウールを使用した柱が建てられています。第一収容室の外側に作られた第二収容室には騒音計が等間隔で配置され、内部からの音漏れが無いかを24時間計測しています。
SCP-931-JPの担当職員は、防音対策を徹底することが求められます。勤務中は防音性ヘッドギアを装着し、収容室内にいる間はコミュニケーションには手話を用いて、外部の音を完全に遮断してください。第二収容室では毎日2回、計器の点検を行い、故障が発見された場合は、直ちに交換を行ってください。騒音計によって音漏れが確認された場合、直ちに補修工事が行われます。
SCP-931-JPが新たに発見された場合は機動部隊お-13("無音")を派遣し、発見された全ての個体を焼却処理してください。都市部に発生し、人間に対して被害が発生した場合はカバーストーリー「カルト組織の無差別テロ」或いは「都市部への猛獣の脱走」を適用し、事態を鎮静化に導いてください。
説明: SCP-931-JPは鳴き声で生物に幻覚を見せるスズムシの仲間です。体長は40~45mm、短翅型で一般的なスズムシとは異なり、数匹から数十匹の群れで行動します。寿命は3年と一般の種より長く、冬の間は倒木や家屋の軒下などで冬眠を行います。
SCP-931-JPは、自然音、人工音の区別なく音を覚え、本物と区別がつかないほど精巧に真似ることができます。覚えられる音は3~4種類ほどで主に大きな音や動物の興奮時の鳴き声を好んで覚えます。この能力はSCP-931-JPが通常の種と異なり、羽化後も後翅を脱落させることがないこと、その後翅が大きく、そして細かく歪んだ形で発達しており、前翅と重ねたり、こすり合わせる角度を少しずつずらすことで、実現できていると考えられています。またSCP-931-JPは仲間内で天敵に効果的だった音を教えあうことが確認されており、3年という長い寿命はこのためだと考えられます。
SCP-931-JPは、外敵に襲われた場合、一定のストレスを感じた場合に上記の鳴き声を発します。SCP-931-JPの鳴き声を聞いて、音から連想されるものを思い浮かべた生き物は、まるで実物が目の前にいるかのような幻覚に襲われます。この幻覚の効果は非常に強力で、最悪の場合、身体に一切の外傷がないにも関わらず、幻覚に襲われる症状のみでショック死を引き起こすことが確認されています。
この幻覚によって生じた、実際には存在しない外傷は記憶処理によって対処が可能ですが、本人が腕を切断されるといった重症を負ったと知覚した場合、実際に腕が切断された状態と変わらないスピードで失血性ショックに似た症状を引き起こすため、早急な対処が必要になります。また、記憶処理を行った場合でも一定の確率で重症部位のマヒなどが発生することが確認されています。
録音されたSCP-931-JPの鳴き声は、録音機器の性能が一定のレベルを超えた時点で同様の異常が発生することが確認されており、SCP-931-JPの鳴き声を録音する場合は意図的に性能の低い録音機器を使用することが推奨されます。
SCP-931-JPは199█年に██県██村の村人が、付近の██町に、村が熊に襲われたと助けを求め、その後外傷が一切ないにも関わらず、ショック死したことが財団の目を引き発見されました。当初、死亡した村人の証言から、SCP-931-JPが異常性を持った熊型オブジェクトだと予想されたため、機動部隊な-20("山狩り")を派遣しましたが、一人を残して部隊は全滅。生き残った隊員の証言から、SCP-931-JPの特異性と効果的な対策が発見され、機動部隊お-13("無音")により収容にいたりました。
収容後の実験によってSCP-931-JPの特性は人類の他には哺乳類や鳥類などにも有効に働くことが確認されていますが、魚類や昆虫などには十分な効力を発揮しないため、個体数が大きく増加することはありませんでした。このことが199█年までSCP-931-JPが発見されずにいた要因と考えられています。
生存隊員へのインタビュー記録SCP-931-JP - 日付199█/█/█
<記録開始>
█博士: これからインタビューを開始します。体調のほうはどうですか。
隊員: あまり優れません…ですが、死んでいった仲間のためにも休んでいる場合ではありません。
█博士: わかりました。それではお願いします。
隊員: はい、私たちは予定されていた時刻に問題無く██村に到着しました。そして村を数分散策して、まずは村人が全員死亡していることを確認しました。こう言っては失礼だと思いますが、死後に虫や獣に漁られたと思われる傷を除けば、全てが外傷の無い綺麗な死体でした、本当に死んでいるか疑問に思うほどに。ただ、外傷に比べて死体の表情は壮絶で、揃って拷問でも受けたのかと思うほどでした。
█博士: なるほど、██町に逃げ込んだ村人のような有様だったということですか?
隊員: はい、その通りです。しかし、それ以上の発見は何もなかったため、緊張もほぐれて一息ついていたところでした。自分たちが拠点としていた家屋で一人の隊員が、おそらく老朽化していた部分の床板を踏み抜いてしまったんです。その瞬間、その隊員の近くから、獣のうなり声が聞こえ始めたんです。私も、おそらく部隊の仲間も話に聞いていた熊型のオブジェクトが現れたと確信して周囲を見渡しました。すると私たちの目の前に、まるで最初からそこにいたかのように熊の群れが現れたんです。おそらくヒグマだったかと。
█博士: 続けてください。
隊員: 私たちは陣形を組み、すぐに銃撃を開始しました。しかし、床板を踏み抜いた隊員は、残念ながら次の瞬間には熊の群れに囲まれて…幸いにも銃撃に対して耐性のないオブジェクトだったようで、一人が犠牲になっている間に、何頭かを無力化し、その上で家屋から脱出し、██村の広場とでもいうべき場所まで後退することに成功したんです。
█博士: なるほど、銃撃で無力化できるオブジェクトだったと、それなら例えステルス能力による奇襲を考えても、生存人数はもう少し上であるはずです。そのあと何があったんですか?
隊員: はい、突然四方八方から銃声が聞こえました。陣形を組んで戦闘をしていたので仲間の銃撃で無いことは明らかでした。そして私たちを包囲するように大量の浮遊する銃が現れたんです。今考えればおそらく私たちの物と同一の規格の物だったと思います。
█博士: 熊型のオブジェクトばかりでなく、今度は銃型のオブジェクトまで出現したと。
隊員: はい、そのタイミングで隊長は部隊の生存が絶望的だと悟ったのだと思います。即座に情報保持命令を下し、一番機動力のある自分を部隊の全員が盾になって逃がしました。
█博士: そして回収班によって回収され、現在に至ると。
隊員: はい、自分の話しはこれで全てです。それと博士、最後に一つよろしいでしょうか。
█博士: どうしました?
隊員: こんなことを言うのは失礼だとわかっています。ですが、どうかオブジェクトの異常性を明らかにして、安全な収容方法を確立してください。
█博士: 無論です。あなた方の勇気ある行動を無駄にはしません。
隊員: ありがとうございます。
<記録終了>
終了報告書SCP-931-JP - 日付199█/█/█
彼のインタビューを精査してみると、いくつか気になる点があります。まずは熊型オブジェクトと銃型オブジェクトの出現タイミングが共通している点です。隊員の発言によればどちらも音が聞こえた後に実体が出現しています。この二種が別々のオブジェクトで無い限り、ある仮説がたてられます。それは今回のオブジェクトの出現の条件が音を聞いて、その物体を連想したからではないかということです。
そして、彼が一切の負傷無く帰還した点です。いくら隊員を盾にしたところで包囲された状態の銃撃から無傷で生還することは不可能に近いでしょう。彼は音こそ聴いて、銃を連想してしまいましたが、仲間を盾にしたことで自分が傷つくことは連想しなかった。それが彼が生還できた理由ではないかと私は考えます。
以上のことから収容のために次回からは完全な防音を施した機動部隊を使用することを提案します。根拠として一言だけ付け加えさせていただくなら、彼の知識が不足していたため、そのような実体化の形を取ったのでしょう。持ち込まれでもしない限り本州に、それも大量のヒグマはいないはずです。
-█博士
インタビューの内容と█博士の進言を基に機動部隊が編成され、四度の調査を経てSCP-931-JPを発見、収容に成功しました。
実験記録SCP-931-JP-1 - 日付199█/█/█
対象: D-48952
実施方法: 低品質のボイスレコーダーを持たせたD-48952をSCP-931-JPの収容室に送り込み、SCP-931-JPにストレスを与え、能力のさらなる解明につとめる。
結果: D-48952はアナフィラキシーショックに似た症状によって死亡しているのが発見されました。回収されたボイスレコーダーからは天井を埋め尽くすほどのスズメバチが現れたと悲鳴交じりのD-48952の声と共に蜂のものと思われる羽音が録音されていました。後日、音声を解析したところ、羽音はミツバチのものと判明しました。
分析: 彼は不幸なことにミツバチの羽音からスズメバチを連想してしまったために、妄想の中で襲われ、アナフィラキシーショックを起こしたものと考えられます。SCP-931-JPの特性は聴いた音声そのものでは無く、音声を聴いたものが何を連想するかが重要なようです。
実験記録SCP-931-JP-2 - 日付199█/█/██
対象: D-46570
実施方法: 軽度の学習障害をもつDクラス職員を収容室に送り込み、同一条件で実験結果に変化が起こるか観察する。
結果: D-46570は定められた時刻に収容室から無傷の状態で脱出しました。実験後のインタビューでは、いくつか耳障りな音が聞こえたが、その場には鈴虫しかいなかったため、特に気にしなかったと話しています。
分析: 今回の実験において彼のずぶとさが彼自身を救う大きなきっかけになったようです。SCP-931-JPの鳴き声を聞いても連想さえしなければ特異性の発生にはいたらないことがわかりました。
実験記録SCP-931-JP-3 - 日付199█/█/██
対象: D-46842
実施方法: SCP-931-JPが他にどのような音を覚えているかを同一条件で調査する、D-46842には事前に、部屋の中にはスズムシの他にミツバチとクマを収容していると伝えている。
結果: D-46842は収容室内で死亡しているのが発見されました。ボイスレコーダーには前述の音の他に、大きな爆発音が録音されており、これが原因と考えられます。
分析: 爆発音の再現すら可能であることが判明しました。しかし、人間以外の多くの生物にとって爆発音というものは驚き、警戒することはあるにせよ、慣れてしまえば効果は無くなる物のはずです。SCP-931-JPがいつの時代から存在していたかはわかりませんが、この結果にはどこか違和感を感じます。
追記SCP-931-JP - 日付199█/██/█
実験を繰り返すに連れて、SCP-931-JPが記憶できる音声は3種類、優秀な個体でも4種類が限界であることが判明しました。そして、天敵になりうる生物に効果的だった音を優先し、それ以外を忘れていくことも判明しました。
だからこそ私は実験SCP-931-JP-3に違和感を感じたのでしょう。██村で起こった事件以前には、人間は仮想の天敵として、存在しえなかったはずなのです。だというのに、SCP-931-JPは機動部隊に熊の音声が効果が無いと理解するや、まるで最初から覚えていたように銃声を発してみせました。
それに加え、██県██村付近は鉱石の産出地域でも無ければ、石材の加工地域でもありません。SCP-931-JPが自然に爆発物の音を記憶することができる可能性は低いはずです。以上のことから、SCP-931-JPは、人間の手によって創られた、もしくは学習された生物であり、都市に放ち、多くの住民を殺害するための生物兵器ではないかと私は予想します。
上記の理由から早急にSCP-931-JP収容地域一帯の調査を提案します。-█博士
調査報告SCP-931-JP - 日付200█/█/█
█博士の進言を受けてSCP-931-JP収容地域一帯を調査していたエージェントによって自然発生した洞窟内部に隠された地下施設が発見されました。
内部からは大量の人骨とSCP-931-JPと思われる死骸がいくつか、そしてダイナマイトと1,900年代製の歩兵銃が発見されました。人骨の大多数は大型の檻に閉じ込められており、身に着けていた物も麻布程度で人体実験に用いられた形跡が見受けられます。残りの人骨は大日本帝国陸軍の軍服を纏っていた形跡があることから、この施設は大日本帝国陸軍特別医療部隊の実験場であり、何らかの事故によって内部の人間が全滅し、その後にSCP-931-JPが脱走したものと考えられます。
そのため、現在収容されているSCP-931-JPを除いて、未収容のSCP-931-JPの個体数は少ないこと、SCP-931-JPを用いた大都市へのテロ活動などの確率は極めて低いものと予想されます。