SCP-933-JP
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無力化前のSCP-933-JP。対象は7番目に無力化されたもの。

アイテム番号: SCP-933-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: サイト-████の低脅威度物品収容房に、SCP-933-JP実体が一つ保存されています。全国のSCP-933-JP実体に似た特徴を持つすべての階段は、心理テストをクリアし、耐性訓練を受けた機動部隊み-11(”アシナガバチ”)により一時的な無力化が行われます。無力化にあたり、SCP-933-JPには地面と完全に繋がるように梯子がかけられ、カバーで覆われます。近隣住民にはカバーストーリー「補修工事」で対応してください。また周辺に設置されている銘板は取り除き、回収場所の記録と共に保存してください。既存のSCP-933-JPは、担当者により監視カメラを用いて監視されます。SCP-933-JP-1が発見された場合、対象を回収し、観察のため標準生物収容室に収容してください。対象は失踪者として処理されます。追加実験の提案がある場合は担当者に書類を提出してください。

説明: SCP-933-JPは、どこへも繋がっていない、用途の無い階段です。通常、電柱や壁に張り付くようにして、高所に設置されています。SCP-933-JPが異常性を発揮する条件として、地面より30cm以上高い位置にあり、直線的かつ全長が3m以内、全体的な形状を損なう部品が付属していないことが条件であると、帰納的に推測されています。また、SCP-933-JPから1m以内の地点に銘板が設置されています。銘板の記述を文書SCP-933-JPに示します。建物の補修工事や増築により、偶発的にSCP-933-JPに似た異常性を持たない構造物が生じますが、以上の条件により区別が可能です。SCP-933-JPの設置者、設置意図は不明ですが、現在でもSCP-933-JPは設置され続けていると見られます。現在までに██点のSCP-933-JPが確認・無力化されています。

ある特定の傾向を持つ人物が、直接目視によりSCP-933-JPを認識した時、その異常性を受けます。現在までの調査で、境界性パーソナリティ障害(BPD)あるいは、それを疑われる生活習慣の持ち主1が、対象に当てはまることが分かっています。SCP-933-JPに暴露した対象は、共通してSCP-933-JPを“成功者の抜け殻”、“自分が成れなかったもの”と形容し、嫉妬する素振りを見せます2。以降、SCP-933-JP暴露者をSCP-933-JP-1と呼称します。SCP-933-JP-1は異常な行動の前に、身辺整理を行います。聞き取り調査により、この行動は自身の死を予感していることに起因すると分かっています。しかし、むしろSCP-933-JP-1自身は前向きな思考をするようになり、未来への展望を口にするようになります。十分に時間をかけて身辺整理を終えたSCP-933-JP-1は、以下のプロセスを経て"変態"します。

サナギの形成: SCP-933-JP-1は、可能ならば鍵をかけられる、人目に付かない場所に移動します。目的の場所に移動したSCP-933-JP-1は衣服を脱いで座り込みます。その後、SCP-933-JP-1は座り込んだ状態のまま表皮を身体から剥離させ、“サナギ”を形成します。剥離した表皮はSCP-933-JP-1の身体から一回り拡大した所で緻密に硬化し、そのため液体が透過することはありません。以降SCP-933-JP-1は外界からの刺激に対し、極端に鈍くなります。表皮の硬化が終了すると、SCP-933-JP-1は自身で生成した[削除済]酵素を分泌し、自らの体組織の9割を分解します。このプロセス中、呼吸に関わる肺と気管支などの器官と、ホルモン分泌を管理する脳幹と脳下垂体、また主要な筋肉は分解されません。分解された体組織は半液状化しており、流動的です。

組織の再形成: 体組織の分解が終了した後に、血管、心臓を含む内臓、骨格などの再形成が行われます。再形成される体組織はSCP-933-JP-1由来であり、分解される以前の組織とは同一性が存在します。しかし再形成された器官は、傷や老化が見られず、完全に“新品”の臓器であるように見えます。これらのプロセスは完全変態性の昆虫、また胎児の発生に酷似しています。しかし特筆すべき差異として、再形成される組織は形成位置がずれることがあり、他の臓器と癒着・接続していることが多い点が挙げられます。平均して一人のSCP-933-JP-1に対して10箇所程度このような癒着・接続が生じるため、深刻な臓器の機能不全に陥ります。

羽化: 再形成が終了したSCP-933-JP-1は"羽化"に入ります。SCP-933-JP-1は身を捩じり、背中側の皮を破り、外に出ることを試みます。皮は十分に硬い為、SCP-933-JP-1が全身を引き出すには、5分か10分ほどの時間を要します。SCP-933-JP-1は外皮から完全に脱した後、自身の変化を確かめようとします。自身が“変態”したことを確認したSCP-933-JP-1は非常に満足した様子を見せますが、自身の臓器や器官の変調には気づいているようです。それでもなお、SCP-933-JP-1は通常通りの生活に戻ろうとし、結果としてほとんどの場合、長くても一ヶ月程度で死亡します。

SCP-933-JP-1の言動から異常性はミーム汚染の一種であると考えられており、現時点では影響の除去には記憶処理が最も効果的な手段だと考えられています。未回収かつ死亡していないSCP-933-JP-1の総数は未知のままです。

回収記録SCP-933-JP: 19██年以降、増加していた複数の同様な不審死が財団の注意を引いていました。死亡者は皆全裸で、服と貴重品の他には所持品は無く、自室や物置、貸しコンテナといった場所で死亡していたため、当初は自殺だと思われていました。しかし、主な死因が臓器機能不全によるものであること、特定の地点に死亡者が集中していたことを足がかりとし、SCP-933-JPの収容に至りました。その後の調査でSCP-933-JP実体が複数存在することが判明しましたが、現在まで回収されたSCP-933-JPは全て、夜間は街灯に照らされるように設置されていました3。回収された銘板の記述より、設置者は日本国内を縦断しながら不定期にSCP-933-JPを設置しているのだと考えられています。

付記: 以下に実験記録を示します。被験者はSCP-933-JP収容時の調査により、SCP-933-JP-1になっていると確認された一般市民です。再形成の過程はCTスキャンで日に二回記録するものとします。被験者の死亡後の解剖結果、およびCTスキャンによるデータ、臓器それぞれの検査結果は、付属文書SCP-933-JPを参照してください。データは全て財団医療部門に送られ、臓器再生研究に役立てられます。

実験記録SCP-933-JP-A:

被験者: 京都██市██で回収
方法: SCP-933-JPに暴露した後の経過を観察する。
結果: 141時間で再形成が終了。その後対象は羽化を試み、滞りなく成功した。対象は脱水症状を訴え、インタビュー・検査に先駆けて一杯の水を要望した。要望は許可されたが、これにより対象の体調が急変、14分後に死亡が確認された。対象の胃は肺と結合しており、水を飲んだことで自身の内臓消化が早められ、死亡に至ったと考えられる。
考察: 以降の実験において、対象への水を含めたすべての食品の支給を禁じる。対象が対話可能であれば、先にインタビューおよび検査を行うこととし、脱水症状は点滴で補うこととする。

実験記録SCP-933-JP-B:

被験者: 秋田県██市██で回収
方法: サナギ状態の対象を、半分の位置で水平に切断する。切断面はプラスチックで覆い、二つの間を合成樹脂の柔軟なチューブで接続した。チューブには体組織が循環しないように、金属球が入れられている。その後の経過を観察する。
結果: 上半分のみが再形成され、下半分は切断した直後から一切変化しなかった。138時間の再形成終了後、対象は羽化を試みたが、脆弱になっていたチューブとの接合面から上半身が脱落した。7分後に死亡が確認された。
考察: 蛾の羽化実験の前例を踏襲した。予想通り下半身の再形成が起こらなかったことと、CTスキャンからの記録より、再形成には体組織の循環が必要とされることが分かった。その後の実験にて、人為的に下半身に再形成を促すことに成功した。

実験記録SCP-933-JP-C:

被験者: 兵庫県██市██で回収
方法: 発見当時、対象の身体は頭から股下まで、垂直に切断されていた。状況証拠から、近くの工事現場から落下した金属パネルが屋根を突き抜け、対象を切断したのだと見られる。既に半ば再形成が終了していたため、パネルが脱落しないよう固定し、経過を観察する。
結果: 対象の右半身、左半身共に再形成が行われたが、それぞれ重度の臓器欠損および機能不全が見られた。対象は再形成終了後の羽化の段階に入ると、突如暴れだし切断面のパネルを外そうと試みた。試みは成功し、2分後に死亡した。
考察: 臓器不全に陥っていながらも対象が羽化を試みたのは注目すべき事だ。SCP-933-JP-1は昆虫とは異なり、外界からの衝撃に対して耐性を持つのだと予想される。対象の「こんな筈じゃなかった」という発言も興味深い。

実験記録SCP-933-JP-D:

被験者: 神奈川県██区██で回収
方法: サナギ状態の対象の外皮を除去し、密閉可能な1m×1m×1mの直方体の可変型ガラス容器に詰めた。内容物は残存する器官に損傷を与えないよう緩く撹拌され、全て容器に収められた。また対象の体積減少に合わせて容器の幅を狭め、常に隙間が生じないようにし、経過を観察する。
結果: 対象の臓器や筋肉は容器に対して柔軟に形成され、欠損や機能不全は見られなかった。撹拌した影響として、それぞれの器官が通常とは明らかに異なる場所に形成され、対象の表皮は内部に、内臓のほとんどは外部に露出し、腕と脚が胴体に埋没した状態になった。対象へのインタビュー記録をインタビュー記録SCP-933-JP-Dに示す。
考察: 体組織の分解が終了した時点で、ある程度形成される臓器の位置が決定しているのだと考えられる。任意の臓器を誘導する方法は現在研究中。

文書SCP-933-JP: 以下の文章はSCP-933-JPの銘板の説明欄に必ず書いてあるものです。銘板の題字、設置日時の欄は変化しますが、この説明文のみ常に一定です。

作品説明: 現実を見ろ。お前らがいつも脇役なのは誰の所為だ。
       その豪奢な虚飾を引き剥がせ。全てを捨てて変わって見せろ。
       You Are NOT Cool Yet. But, you can become.
       そして虫けらのように死ね。

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