SCP-956-JP
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SCP-956-JP概観(19██/05/12撮影)

アイテム番号: SCP-956-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-956-JPを中心とする半径2km圏内の区域は財団によって買収され、土地開発を理由に一般人の立ち入りを制限します。SCP-956-JP影響範囲内に存在する介護施設の建物は、観測所として活用されることになっています。また、観測員として1人のDクラス職員のみを配置してください。なお、観測員が睡眠中に経験した夢の内容は定例的に報告されます。

観測員を除いた全ての職員は、当該区域内での睡眠行為を禁止されています。現在、SCP-956-JPに対する全ての実験試行は凍結されています。

説明: SCP-956-JPはセイヨウヒイラギガシ(Quercus ilex)に酷似した1本の緑葉樹です。同種の樹木と概ね一致する性質・構造・構成を示す一方、季節や天候等の環境変化による影響を受けることなく、常に同じ外観を保ちます。それに加え、後述するケースを除けば、年月の経過による成長及び枯死や腐敗も一切確認できず、20██/09/12まで樹高24mの状態を維持し続けていました。

SCP-956-JPの周囲約800m圏内で睡眠を行った場合、睡眠中の人物(以下、被験者)は鮮明かつ現実的な夢を経験します。更にその睡眠中、被験者は夢の中でSCP-956-JPに酷似する樹木を「現実よりも成長した状態の姿」として目撃します。例として、現実で樹高15mだった際には、夢の中では目算でも樹高20mを超える姿で出現したことが報告されています。

それに加え、影響範囲内に存在する被験者の人数が一定数を上回った場合、SCP-956-JPは毎分2~5cmという急激な速さで成長を始めます。この成長は、以下のような要因等でSCP-956-JP影響下にある被験者数が減少した場合に中断されます。

  • 被験者を影響範囲内から取り除く
  • 被験者を覚醒させる
  • その他手段により、被験者が夢を見られない状態にする

また、上記要因とは別に、被験者達が夢の中で目撃している姿と現実のSCP-956-JPの姿が同じになった場合にも成長は中断されます。なお、この成長現象が発生するために必要となる被験者数は、夢の中で目撃されるSCP-956-JPの樹高に比例して増加します。それに加え、SCP-956-JPが大きく成長するほど、人間の夢へと影響を与える範囲も拡大することが判明しています。

なお、SCP-956-JP成長現象の発生中、影響範囲内であっても被験者の夢からは鮮明・明晰さが失われます。更に、その間に経験する夢は非常に不鮮明かつ抽象的な内容へと変化します。また、それらの内容を詳細に記憶しておくことは困難となり、覚醒した多くの被験者は漠然と「意味不明で非現実的な夢を見た気がする」といった旨の報告を行います。一方で、この夢の変化による被験者への精神的・身体的な影響は、現在までに確認されていません。

SCP-956-JPは20██/06/02、京都府██郡██村の介護施設より報告された奇妙な樹木について調査を行った際に、当該施設と併設された庭園内にて発見されました。回収当時、SCP-956-JPの影響範囲は周囲半径500m程度であり、単に被験者の夢へと影響を与える異常性を持つだけだと考えられていました。

しかし、更なる調査の際、全ての施設職員及び入居者は、SCP-956-JPがいつ頃から存在していたのかを明確に記憶しておらず、大半が「いつの間にか、あの場所に生えていた」と曖昧な回答を行うのみでした。この調査結果に加え、各検証より明らかになった異常性の性質を加味した結果、影響範囲拡大の懸念から更なる成長実験の試みは全て凍結されました。

追記1: 20██/07/12以降に行われた定例報告より、観測員が夢の中で同じ外見の老人を度々目撃している事実が確認されました。検証の結果、この老人はSCP-956-JPとは異なり、複数の被験者の夢で同時に目撃されることはなく、SCP-956-JPの影響範囲内に存在する被験者1人の夢にだけ不定期に出現することが判明しています。

夢の中で老人は共通した行動を示し、被験者に対しては必ず「夢の中で自分以外の老人を見なかったか」といった旨の質問を世間話と交えて行います。なお、この質問への回答結果によらず、対話後に老人はどこかへと去って行くと報告されています。それに加え、被験者が他の老人を目撃したケースは現在まで確認されていません。以下の文章は、初めて老人が夢の中で目撃された際の定例報告より、観測員との対話のみを抜粋したものです。

なお、被験者より報告された老人の人相を調査した結果、過去に介護施設の入居者であった██ ███氏の人相と概ね一致していることが判明しました。しかし、同氏は財団による施設閉鎖時に他の施設へと移っており、オブジェクトが発見されてから約1年後の20██/06/28に死亡していたことが確認されました。そのため、その明確な関連性は明らかになっていません。

事案956-JP: 20██/09/12、観測員が睡眠を開始してから約150分が経過した際、SCP-956-JPの外観が急激に縮小・退行し始めました。この退行現象は約9秒おきに進行し、この間、SCP-956-JPの幹全体は何かで押し潰されたかのように凹んでいき、それに伴う形で外観も徐々に透過していく様子が観測されました。

事案発生から約130分後、SCP-956-JPの外観は完全に縮小・透過され、その場から消失しました。SCP-956-JPが存在した地点には数本の折れた木の枝が散乱し、地面には複数の窪みが残されているのみで、地下茎部分も同様に発見できませんでした。また、事案後の定例報告において、観測員より以下の夢の内容が報告されました。

報告956-██0913: 夢の中で気が付いた時、私は森に囲まれた湖畔で釣りをしている真っ最中でした。近くには1人用のテントが張られ、足元のラジカセからは聞き馴染みのある曲が繰り返し再生されており、しばらくして夢の中の自分がキャンプをしていたことを思い出しました。

ふと湖畔の反対側を見ると、いつも夢に現れるコナラの木が生えていることに気付きました。ですが、私は特に気に留めることもなく釣りを続け、それに飽きると森へと焚き木を拾いに出かけました。

焚き木を拾い始めてから少しして、私は久しぶりにいつもの老人と森の中で出会いました。老人は「大きなコナラの木を見かけなかったか」と尋ねたので、私が湖畔の反対側に見かけた木のことを教えると、お礼を言って老人はどこかへ行ってしまいました。

焚き木を拾い終わった私がキャンプ場所に戻ると、あの木のそばに立つ老人の姿が見えました。よくは分かりませんでしたが、老人は木に向かって何かを話しかけているようにも見えました。それが1時間続いた後で、老人は突然オノで木を切り始めました。

不思議なことに、老人のオノが木に当たるたびに地面が揺れるような感覚がして、周囲の森の木々が揺れ、湖面には波立ち始めました。そして、それは老人がオノで木を切り付ける度に強くなっていき、徐々に意識や感覚が遠退いて行くようにも感じました。ただならぬ事態に、私はおぼつかない足取りながらも老人の元へ辿り着くと、なぜ木を切るのか尋ねました。

老人は私の質問に手を止めることもなく、一定のリズムでオノを振るっていました。しかし、繰り返し質問を投げかけているうちに、老人は悲しそうな表情をしながら「彼は壊れてしまっていた。かつてのように誰かのためではなく、ただ自分がそこにあるためだけに動き続けているんだ。もう止めさせなければ」と口にしました。わけが分からず、更に質問しようとしたものの、オノで付けられた傷が深くなっていくほどに意識が遠くなり、視界が不鮮明に、曖昧になっていくのを感じました。周囲を見渡せば、森の輪郭は崩れ、湖の水は透明ではなくなり、先ほどまでいたキャンプ場所からは何もかもが消えてしまっていました。

夢の中の私は不意に怒りを覚え、「せっかくの楽しい夢が台無しだ、なぜこんなことを」と老人に叫びました。老人は相変わらず手を止めませんでしたが、「すまない。だが、君はまだ確かな大地を踏むことができるのだろう。しかし、こちらでは多くの者が現実を味わい、楽しみたいと考えている。そのために彼は現実性を送る役目を買って出た、そしてその結果がこれだ。私はただ、先に行ったはずの彼を静かに眠らせてやりたいんだ」と答えました。

更に現実感は失われて行き、最後に木が切り倒されたところから、私の夢の中の記憶は不鮮明なものになりました。それ以降に覚えているのは、去っていく老人の後ろ姿と、木が切り倒されたことにも気にせず、音楽を聴きながら濁った湖で釣りを続ける私の後姿だけです。そして私は目覚めました。


追記2: 上記の事案以降、SCP-956-JPの元影響範囲内で睡眠を行った場合でも、夢からは以前のような鮮明さや現実感が失われていると報告されました。その一方で、複数の被験者が「朽ちた倒木のそばに座って佇む老人」を夢の中で目撃したと報告を行っているものの、消失したSCP-956-JPとの明確な関連性は不明です。また、老人との会話に成功したケースも報告されていません。上記の点を踏まえ、SCP-956-JPの再分類は見送られるとともに、現特別収容プロトコルが継続して適用されています。

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