SCP-962-JP
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アイテム番号: SCP-962-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 回収されたSCP-962-JPは、全てサイト-81██の標準収容ロッカーに保管されます。セキュリティレベル1以上の職員ならば、担当職員に許可を取れば閲覧可能です。

現在SCP-962-JPが出現するネットオークションサイトは、担当職員により24時間体制で監視されています。SCP-962-JPの出品が確認され次第、カバーストーリー「規約違反」を元に、即時の落札と該当ページの削除を行ってください。

説明: SCP-962-JPは作家の故██ █氏が作者である文庫本です。その組成は一般的な書籍と同一であることが判明しています。しかし、██氏がSCP-962-JPを執筆及び出版した記録は存在しません。現在までに3冊が回収されており、回収順にそれぞれ番号が振られています(SCP-962-JP-1〜-3)。タイトルは「海難信号」で統一されています。

SCP-962-JPの異常性はその発生過程にあります。SCP-962-JPは、財団フロント企業が運営するネットオークションサイト「S████ C███████ P███」(以下「オークションサイト」)上で不定期に出品されます。出品者のアカウントは██氏本人が生前利用していたものです。SCP-962-JPが落札されると同時に、落札者の最寄りの郵便局に梱包された状態のSCP-962-JPが出現します。出現過程は、ノイズの発生や記録媒体の故障などにより記録出来ていません。

SCP-962-JPの内容は、██氏がモデルと思われる主人公「私」の独白で構成されています。「私」は荒れている海上で遭難しており、SCP-962-JPが出品される度に彼の現在地や行動が更新されています。

回収日 収容されたSCP-962-JP 主な内容
201█/8/██ SCP-962-JP-1 「私」は乗っていた船から投げ出され、海上の丸太を頼りに漂流しています。船に乗ったことに対する後悔や思い残したことへの言及、自らの人生の回想などが本文の8割を占めます。
201█/12/█ SCP-962-JP-2 人が住んでいた痕跡がある無人島にたどり着いた「私」が、1冊のメモ帳を発見します。作中の描写から、██社から発売されている、文庫本と同サイズのメモ帳だと推測されます。「私」が記録をつけ始めます。
201█/6/██ SCP-962-JP-3 「私」の周囲に、不定期に出現と消失を繰り返す建造物が出現するようになります。「私」は建造物に自身の名前を記すようになります。

201█年8月██日、SCP-962-JP-1をエージェント・███が発見、私費で落札したことからオブジェクトの存在が明らかになりました。SCP-962-JP-1が出品された日付と、██氏が心不全で死亡した日付は一致しています。

補遺: SCP-962-JP-3の収容後、通常の物品の出品者のアカウントが、██氏のアカウントと入れ替わる現象が発生しました。この現象はオークションサイト全体で確認されています。SCP-962-JP-3の記述を踏まえて監視が強化されます。██氏のアカウントの削除については、異常性が転移する可能性があるため、実行されていません。

補遺2: 201█年10月█日、SCP-962-JP-4、-5の2冊が回収されました。SCP-962-JP-4では、「私」が洞窟内で土壁に埋れている人型実体(以下SCP-962-JP-A)と遭遇しました。

SCP-962-JP-4で行われた会話


付記: 重要性が低い地の文を省略している。また、会話に先立って「私」がSCP-962-JP-Aを救出しようと試みるが、固い地盤によって不可能であることが描写されている。

<会話開始>

「私」: すまない、私には君を助けることができないようだ。でも、よかった! まさかこうやって会話できる相手と出会えるなんて!

SCP-962-JP-A: わたしのことを恐れないのですね。

「私」: 驚きはしたが、恐れるものか! 私はずっと一人で、海をさまよい、地面を這い、草を食んでなんとか生きていたのだから! 君は少し変わっているが、それが何だ!

SCP-962-JP-A: あなたも十分、変な人ですよ。

「私」: よく言われるよ。ああそうだ、私は██。作家だ。

SCP-962-JP-A: わたしは[印刷不良により判読不明]と申します。作家ということは……?

「私」: ああ、思春期の子ども向けの冒険小説を書いている。特に「海難シリーズ」と銘打ったものは、もう9、いや、10冊は書いたな。

SCP-962-JP-A: 架空のものとして書いていたら、実際に海難に遭ってしまったんですね。

「私」: そういうことになるな。取材帰りに船に乗ったら、このざまだ。ちょうどサバイバル技術についての取材だったから、実地訓練のつもりで頑張るよ。

SCP-962-JP-A: そうですか……わたしも遭難して、でもサバイバルなんて経験ないから、疲れ果てて気絶して、気づいたらこうなってて。

「私」: そうか、君も苦労したな。

SCP-962-JP-A: はい。でも、持っていた手帳に色々と、食べられる草のスケッチとか、簡単な地図とかメモしていたので。今は手元になくて申し訳ないのですが、もしかしたら、██さんの力になれるかもしれません。

「私」: ありがとう。探してみるよ。

[地の文にて、洞窟の外の嵐が克明に描写される]

SCP-962-JP-A: ……██さん。

「私」: なんだ?

SCP-962-JP-A: 実はわたしも、小説を書いていたんです。

「私」: 君も物書きなのか。

SCP-962-JP-A: 賞も取ったことのない素人ですよ。サスペンスというか、ホラーというか、ミステリーというか。ジャンルも決めずにただ書き殴っていたんです。よくある、絶海の孤島の話。

「私」: 呼び出された男女が殺しあうって?

SCP-962-JP-A: ええ、本当にそういう話を。

「私」: 人は見かけによらないというが、過激な話を書くものだな。君は、埋まってることを差し引いても美しい人だと思うが。

SCP-962-JP-A: お世辞でも嬉しいです。話を戻しますね。その小説の中に、わたしがこうなりたいな、と思うような女性のキャラを出したんです。頭が良くて、美人で、優しくて、行動力があって。

SCP-962-JP-A: でも、そういうキャラって便利すぎるんですよね。小説として破綻しそうになって、どうしても消さないと、殺さないと話が進まなくなってしまって。

「私」: そういうものだろうか。私は自分の作品でキャラクターを殺すことは……ないな、ほとんど。

SCP-962-JP-A: とにかく、その女性キャラを殺すことにしたんです。犯人が複数人である証拠を掴んでしまって、犯人の内の一人に殺されて、洞窟に埋められて……。

SCP-962-JP-A: でも、ただ殺されるのは嫌だな、と思ったんです。お気に入りのキャラですから。だから、犯人が女性を埋めている間に、洞窟が波で水没するんです。孤島を殺人現場にしたてあげた嵐によって、犯人が道連れになるんです。

[外の嵐がさらに強くなる描写]

「私」: 君、それは。

SCP-962-JP-A: はい。わたし、作者だから、この後の展開がわかるんです。わたしは今、あの女性と同じなんです。まだ、死んでいないけれど。間もなく死ぬでしょう。

SCP-962-JP-A: 今すぐ逃げて。そして思い出して。あなたが乗っていた船は、あなた自身が作りあげ、名付けた船ではありませんか。

[「私」が洞窟から逃走、その直後に波が洞窟に入り込む]

<会話終了>

SCP-962-JP-Aの身元は、現在も判明していません。

SCP-962-JP-5は以前までのものと異なり、手書きの文章と絵によって構成されています。最終ページの一文を除き、筆跡が██氏と一致しないことから、SCP-962-JP-Aが所持していた手帳の内容だと推測されます。描かれている植物や島の地図は、既存のものの特徴と一致しません。

最終ページの一文

爪先が腐りはじめた。
私は私に殺される。

██氏の著作「海難シリーズ」では、6巻に架空の伝染病で死亡するキャラクターが登場しています。

SCP-962-JP-4、-5の内容から、作者が██氏以外であるSCP-962-JPが存在する可能性が浮上しました。暫定的な対応として、他の財団支部と情報を共有し、全世界のネットオークションサイトを監視対象にすることが検討されています。

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