海酔いしたサメ
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☦A story that should've been a joke.☦

彼らが僕を海へ送り出すと、もう二度と家族や友だちと会えないのだと悟った。これまで一度も海を見たことがなかった。浜辺へも行ったことはなかった。プールで泳ぐことすら嫌いだった。だけどいいんだ。僕が世界を、暮らすために純粋にして無垢な場所にし続ける限り、僕は元気になる。まるで僕の献身を理解しているかのように僕に同情の目を向けていたような、見知らぬ人もだ。 注射を受け、処置を受けるとき、自分にそう言い聞かせていた。最初のセッションの後でステイシーが僕と面会すると彼女は僕の顔に婚約指輪を投げつけた。ステイシーがきれいな笑顔になる理由がわずかばかりでもあるから、僕は苦痛に耐えられた。耐えられたと思う。果てしなく広い、しょっぱい水の平原に飛び込むと、僕は後悔するのをやめた。

まったくの孤独の中で、生き続ける限り決心を持ち続けた。確実に船やボートは避ける。僕の獲物が居たがる場所を、獲物が訪ねたがる場所をより正確に学習するようになった。僕は最も的確に攻撃を加えるために拳を叩き込む場所を理解した。たぶん人生で最も充実した時間だったと思う。世界は未知の場所ばかりだったけど――僕のいた、ごくごくわずかな空間を除いて――僕は世界を良くしているんだと理解した。僕のおかげで人々は海岸で泳ぐときに怯えなくていい、釣りをするとき怯えなくていい。4000kmの内陸部でサメを見たことがあるかい?僕のように淡水にサメが侵入しないようにしている人間がいなければ、奴らは川に入り込んで僕たちの知っている世界を変えてしまう!僕の努力のおかげで、人々は安心して夜眠れるんだ。僕が守り続けている限り、どんなあがきでも、それは全て価値のあることだ。



みんなが僕を捕まえた。どうして?ナンデ?僕は異常じゃない!
ここから出してくれ!お前の試験なんてやりたくない!サメを殴らなくては!僕の努力の意味を分かってないのか?僕がいなかったらサメたちが人類社会を脅かすんだ!



ここに来てからもう数ヶ月になる。僕はシステムに取り込まれた。僕はまだ人々を守ることができる。彼らが僕のことをどう思っているとか、彼らが何者だとかは問題じゃない。彼らはサメを寄越してくる。前より効率良くないけど、大丈夫だ。僕はまだ彼らを助け続けている。僕が彼らのためにやっていることを、彼らは理解していないだけだ。人類のために。みんなのために、みんなのために、拳を振るうこと以外は問題じゃない。これは一番平和的なやり方でもなんでもない。でも人類を守るたったひとつの方法なんだ。僕はまだステイシーのことを考えている。彼女にはいつでも笑顔であって欲しい。彼女のため、みんなのため僕が闘ってるなんて知らないだろうけど、でもそれでいいんだ。


彼らのペースが落ちてきてる。僕の仕事が重要だって分からないのか?



なぜ彼らが僕をここに留めおくのかわかった。彼らは僕が人々を助けるのを邪魔している。彼らは僕のやっている事を、僕が人類を助けていることを分かっている奴らは人間なんかじゃない。
サメだ。
どうして僕は今まで気づかなかったんだ?!奴らはずっと僕を欺いていて、僕の仕事を鈍らせ、邪魔してたんだ。でももう大丈夫。奴らは僕が知っていることを知らない。僕は獣の胃袋の中にいて、奴らは僕を追い詰めたと考えてるかもしれないが、奴らは僕が人類を助ける最大のチャンスを与えてくれたんだ。自らこのシステムを打ち壊す。この裏サメ社会から人類を救う唯一の方法だ。僕は僕らみんなのために闘い、戻るつもりはない。奴らの企みを阻止する。たったひとつの冴えたやり方だ。



僕は長いこと間違えていた。どうしてこんなにも向こう見ずだったんだ?ステイシーが去ってから彼女は正しかった。自分が人類を守っていると思ってた。正しい側について戦っていた。僕は長いこと、堂々巡りをしていたことに気づかなかった奴らはそうでなかっただってぼくは奴らをかることをしっているでもだってぼくは……

でもぼくの内面はまだ人間だ。まだ自分を見失っていない。僕は自分の中の怪物を追い出すんだ。抑えるんだ。やり方は分かる、長いことそうしてきたから。このために十年来訓練してきた。僕はサイコーのプロフェッショナルだし直し方も分かっている。ここから出てすぐに仕事をしよう。もう自分を直せる。



なぜうまく行かない?うまくいくのになんでうまくいくのになんでうまくいくはずなのにやりなおさなきゃダメだやりなおさなきゃダメだうまくいくんだうまくいかなきゃダメだ

まずは去りたいと願う。他のもの全てを追い出したから僕はそれを追い出す。かつて僕だった怪物は人間の僕から泳ぎ去った。僕が何者か分かる。逃げたりなんかするもんか。どんなに早く泳ごうと僕は自分自身から泳ぎ去れないし、どんなに激しく殴ろうとこれは怪物じゃない僕だ。ときどき激しく自分自身を殴ると、起こったことを忘れることができて、そして本来するべきことを思い出し、かつてのような決心ができるんだ。十分激しく殴れば僕はきれいさっぱり忘れるだろう。



思い出させないでくれ、忘れたいんだ。

思い出させないでくれ、後生だ。

忘れさせてくれ

お願いだ

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