啓蟄
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信じてほしいの。

ロブはクスリでおかしくなってるんじゃない。ちょっと頑張りすぎただけ。
ホントよ。いくらヘルクラッパーズでも「アリゾナ最悪のタトゥーマン」に売人やらせるほどバカじゃないことくらい、あなたも知ってるでしょ?

そうよ、アタシが食べさせてあげてたの。リストランテ・ベイズィンの支配人は気前が良かったし、ロブもチャイナタウンで通訳のバイトで昼は働いてた。まぁ、干上がらない程度にはうまく行ってたわ。彼、カレッジにいた頃から漢字を書くのは上手かった。もちろん、タトゥー以外でってことだけど。


ロブの腕前?……3年働いてて、雇先のボスは彼の腕に入ってる「漢字タトゥー」を先天性の痣だと思ってたらしいわね。ロブが初めて「シルバーフィッシュの卵」を持って帰ってきたときに話してくれた。彼が「漢字タトゥー」の意味をボスに説明したときに、あまりに不憫に思って少し分けてくれたんだって、情けなさそうにぼやいてた。練習で私の体を借りてて全く腕が上がらなかったの気にしてたみたい。私は気にしてなかったのにね。バカみたい。


ロブのタトゥーがサッパリ消えちゃった後に、私はロブの勤め先に呼ばれたの。
ボスは色々話してくれた。「シルバーフィッシュ」がアジアに伝わる「刺青消し」で、昔の罪人は皮膚に刻み込まれた刺青を綺麗に消すために命がけでボスの先祖から盗み出そうと命を懸けた話とか、巨大な組織がコレを世界中で集めていて、もう自分たちが持っている以外に手に入れるのは不可能なこととか。

そうよ。「シルバーフィッシュ」の弁償をするように、って。簡単にいえばユスられたってことね。
でもね、ただのユスりじゃなかったの。タトゥーショップの開業資金も肩代わりしてくれる約束で、ただ一つ「ロブに背中を彫らせ続けて、たまに様子を見せに来るように」って。私はすぐに了解した。
ベイズィンの支配人もそろそろ私に飽きてきてた頃だったからね。


皮肉なことに、ロブの腕は上がっていったわ。毎日練習のために背中一面に彫って、スピードが上がって手の震えもなくなったの。もちろんタトゥーの針は痛かったけどロブの夢、いや私の夢のためだと思ったら嬉しかった。ボスも喜んでたわ。「まるで、生きているみたいだ」って。

…春って、タトゥーの予後が悪いの。昨日ロブに傷口がムズムズするって彫ってる最中に伝えた。その後ロブがボソッて呟いたの。




「虫だ」




って。

それからすぐよ。

彼が私を刺し始めたのは。


デイリーログ:3/5
被害者女性に同居人の男が突如錯乱し背面に対し手に持っていたタトゥーマシンで計200回以上の致命的刺突を行い逃走したとの通報が入る。男はその後自ら頭部を撃ち抜き絶命、女性の背面に残された傷口から大量のシミ科亜種と思われる昆虫が発生。追跡中のSCP-132-JP個体群と考察される。先の事案からMC&D社の関与も視野に入れつつ、引き続き調査に当たる。

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