手招きするセイレーン
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あなたの足裏に優しくそれが触れる。ビロードのように柔らかな波はくるぶしにまで届いた後、名残惜しむようにあなたの元を去る。
鼓膜をすり抜けるのは、真白く泡立つ、波のせせらぎ。
水晶体が映し出すのは、天球にぽつりと浮かぶ月輪から延びる、冴え冴えとした一筋の路。
おいで・・・・・・おいで・・・・・・
押しては返すせつないうねりの中、あなたは確かに、幽かな呼び声を聴く。
あなたは歩みを進める。一歩、踏み出すごと、待ち侘びた重みに砂たちはさらさらと歓びわらう。
いつの間にかあなたは、たくましく、みなぎり、ほとばしるような熱を持った体躯を手に入れている。
脈打つ体は、水しぶきを刹那の間にはじく。あなたはそれが、少しだけかなしい。
おいで・・・・・・おいで・・・・・・
呼び声は大きくなり、あなたの心を打ち揺らす。
日が昇るまで熱を失うばかりの水の冷たさが、火照り硬くなってゆくあなたには心地好い。
もはや汀からあなたの姿は見えなくなり、水面には波紋が生じるばかりとなる。
毛の一本、爪の先まで覆い包む潮の味を、あなたはとても懐かしく感じる。
おいで・・・・・・おいで・・・・・・
あなたはとうとう呼び声の在り処を見つけ、ひたすらに体を引き延ばし、泳ぐ。
両のかいなを大きく広げ、幾度も幾度もまとわりつく水々をもどかしげにあなたは押し遣り、泳ぐ。
力強く、泳ぐ。
水底で待つ呼び声の主に、ただ一目、逢うために。

ほら、もうすぐ。

辿りつく、

辿りつく、

ほら、もうすぐ・・・・・・

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白

空白
わたしに。

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