流星雨の合図
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 ──女の子は、空の星の声が聞こえていた。

「ねぇ、せんせ」
「ん、どうしたの?」
「わたしは、ほんとうに、病気なの?」

 ぽつりとつぶやいた、彼女のため息のような言葉に、担当女医は心臓が跳ね上がりそうになった。大丈夫だと言い聞かせても彼女の表情は晴れず、飛来物は覚悟した方がいいだろう。
 SCP-155-JP-1。空を漂う星々──いや、海星ども、SCP-155-JP-2を呼び寄せる少女。彼女の心理的な動揺や不安は、流れ星を呼ぶ。だからこそ、彼女のメンタルチェックは欠かせないのだが。

「ねぇ、せんせ」
「今度はどうしたの? なんでも言っていいからね」
「うん。その、ヘンなの」
「ヘン?」
「うん、お腹が、ヘン」

 ひきつりそうになる顔を、極めて温和な微笑のまま保ったことを、担当女医は自分のことながら褒めたくなった。不安そうな彼女に見えないようにボタンを押す。機動部隊る-3は優秀だ、すぐに準備を始めるだろう。
 予兆はあったのだ。彼女の体調は一分一秒と記録し続けているのだから。

「大丈夫よ。女の子なら誰にでも来るものなんだからね」
「せんせーにも?」
「もちろん」

 彼女の顔から少しずつ不安が薄れていくのがわかる。もう長い付き合いになっていて、彼女を娘のように思っている女医だが、笑顔で誤魔化すくらいは簡単だ。そのことがトゲになって心を刺すけれど、今更の話だ。
 そう、今更の話。微笑みを顔に貼り付けて、頭の中では彼女の収容方法を提案・思考・更新し続けている自分がいるのだから。
 そして今回のケースは、懸念していたことのひとつでもあり、将来にわたって、最低でもこれからひと月ごとに来るであろう事件のはじまりになる可能性。

「さてと、実は急にこの病院、新しいのにすることになってね。今から移動するんだけど、大丈夫?」
「うん」

 病院の建て替えというカバーストーリーに、彼女は素直にうなずいた。今までにも何回かあったからだろう。
 まぁSCP-155-JP-2の飛来でどうせ施設の破損は覚悟しなければならないし、嘘ではない。
 端末で上司に連絡しつつ、ふと、動こうとしない女の子に気付いて、

「あっ……」

 赤茶色の染みが、シーツを汚していた。
 彼女は体を震わせて、頭を抱えて、顔を歪めた。

「あ、あああ、ああああ」
「██ちゃん!? どうし……」

 明らかに異常な反応を見せる少女に駆け寄ろうとして、女医はすぐに理解した。理解してしまった。

 ──女の子は、空の星の声が聞こえていた。

 今も聞こえているのだろう。
 頭を割りそうなほど大きな、彼らの姫君を呼ぶ叫びが。


 その日、緑色の流星雨が、サイト-8130に降り注いだ。
 これから最低でもひと月ごとに来るであろう事件の、そのはじまりの合図だった。

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