文具戦線
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「メーデーメーデー」 なんて言っても、あちらこちらメーデーメーデーなんだけど。
お隣さんも、その又お隣さんも、内紛内紛と忙しい。勿論うちも例外じゃない。
内紛が起こってから多分一週間。反政府軍と政府軍の衝突、いつかは起こると思ってたけど。

いざ起こってしまうと目的なんかありゃしない。俺はトリガーハッピーじゃない。
何の為に戦えばいいんですか、国を守ればいいんですか、彼らを撃てばいいんですか。
偉そうに指揮しているてめえは国の為に死ねと言うんですか。

嫌になる。なんとなく駆り出されて、なんとなく死にそうになって。
毎日毎日銃声聞かされて、毎日毎日銃を乱射して。
何人殺したかもう覚えていないし、寧ろ一人も殺してないのかもしれない。

人というのは怖い生き物、自分の身を以て知った、慣れと言うかなんと言うか。
最初は銃を撃つことにだって申し訳程度の躊躇をしていたのに。引き金は今じゃゲームのボタンを押すより軽い。
いっそ…いっそ貫いてくれ。もう普通には戻れないだろうから。頭を。一発で。

子供の頃、70歳まで生きたいとか言ってたっけ。
大人になって、病気か寿命で眠るように死にたいとか言ってたっけ。
25歳、死因、銃弾、ってか。

この不毛な、無意味な、無駄な、アホみたいな戦いはいつ終わるんだよ。
何人殺せば終わるんだ、何を制圧すれば終わるんだ。いっそ降参してしまおうぜ。
此方を何か言いたげな目で見ている貴方はうんともすんとも言いやしない。

赤く染まった壁が黒く染まる頃、もう俺はどこに向かっているのかも分からない。
こんなにも、そんなにも銃声が響き渡っているのに。弾丸の癖に皆俺を避けやがる。
友から嫌われ、親から嫌われ、世間からも嫌われ、お前もかよ。クソか。

時間という感覚が失せていく。取って代わるのは今では心地よい銃声のリズム。
ガシャガシャ、ダダダダ。何か脳内を全部支配されていくような気もした。
時折ワンテンポ崩しにかかってくる大砲の音。ドーンっと。

前線は地獄絵図と化しているのに、何も進みやしない。
兵士たちも、飽きてきて、帰りたいとか、殺してくれとか、思っている頃。
何か来た。どちらの軍でもない。誰かさま達が。何かを持って。

最初は援軍という希望も、敵の増援という絶望も無かった。いや…それは違うかもしれない。少しだけ。
まだ終わらないのか、という絶望だけはあったかもしれない。絶望なのか、落胆なのか、嫌悪なのか、よく分からないけど。
でも、彼らの手にあったのは、銃、とは似ても似つかない何か。後、なんていうの、三角のガラス板と細長いガラス板。

場の空気が、時間が、凍り付いたように。止まる。

余りに突然すぎて。余りに滑稽で。息を吐くような一瞬、皮肉にも戦いは止まった。
次の瞬間。彼らの持っていた何かは、火を吐いた、とは違う。でも何かを撃ちだしている。
ジャラジャラとか、ガシャガシャとか、乾いた金属音だけを立てて。

怖かった。ただ、ただ。

ちょっと前までの自分を棚に上げて。俺は彼らに恐怖していた。
何処からともなく現れて、ステイプラーから芯をぶっ放し、不運にも当たった者は崩れ落ちていく。
ちょっとばかりの抵抗。でも銃弾は無情にも彼らの持っていたガラスに弾かれた。

轟音、上空を見た。何か飛んでいる。

飛行船、全部で5機。1機は装甲車のような物を落している。別の3機は…机だ。
普通のじゃなくて、長い机。足を折りたためるタイプの。それが何百個と降下してくる。
でも、落ちてくる速度は、異様に遅かった。何かに上から、引っ張られているかのように。

耳を劈く。何回も。

デスクは歪むように裂け、爆発していく。火薬が詰められているかのように。
先ほどまで気休め程度に聞こえていた悲鳴も最早聞こえない、届かない。
崩壊していく町の中で不運にも俺はまだ死ねなかった。死なせてくれなかった。

取りあえず逃げる。

この戦場から、この地獄から、逃げたところで何になるかは分からないけど。
50mは8秒台だったけど。持久力も無いけど。
逃げられなくてもいいし、逃げられたならそれはそれでラッキー。

何か付いてくる。

タッタッタッと。俺の足音の1.5倍とかそれ以上で。
距離はまだ近くない、でも、それほどのアドバンテージにはならなさそう。
小道を見つけた。今は入るしかないよね。道分からないけど。

こけた。

気持ちよくこけたんじゃなくて、足がもつれて。
追跡者がそれを見逃すはずが無かった。諦めて、追跡者を見た。
普通の人間だけど、手にはペン。ペンかよ。

死因。ペン。

銃弾ですらないのか。筆記道具に。
もうちょっと、もうちょっと人らしく。死にたかった。
せめて、人殺しの道具で。

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