満ち足りた、甘美なる油脂分
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「この扉を開くとテーブルの上に食べ物が置かれている。それを食べて欲しい」「本当にそれだけで良いのか?」
「ああ、変に残したりしない限りは」「あれっぽっちの食べ物で飽き飽きしてたんだよ。美味けりゃ泥だって食べてやるぜ」
ただケーキを腹一杯食べてくれるだけで良い仕事がある。毎日の様に死にそうだったり汚かったりならばまだ良い、どうなるか分からない時の為と訳の分からない事をやらされる日頃の苦痛と比べればと、甘い物は好みではなかったが日頃飢えている口元に生唾が湧き上がって来るのを鮮明に感じた。
噂話だと聞いていたが実在した事が何よりも嬉しく、同じ境遇の職員も唾を飲み込んではにこにことしている様子が分かる。残さず食べろとの指示も無く、一人だけならば皿まで舐め尽くしたい気分になっている。
警備員らしい人物がけったいなマスクを嵌めているのもこの建物の中では良くある事だと気にする必要は無かった。厳重な警備も見慣れたものだ。此処に来る前に薬を打たれても腹痛にもなってないし悪い気分では無い。
扉が開くと、もう何も考えられない。目の前にあるケーキの山々へ、オレンジ色の服を纏った犬の様に彼等は飛び掛っていった。
 
 


任期を満了したDクラス職員を、全員サイト████へ移送させて下さい。
サイト████管理員 S████ E████


 
 
最初の内はびっくりした。あんな調理方法なんて直接見ることなんて無かったし、それがとってもすっごくすっごく美味しそうに見えたんだから!資料で見た時よりもずっとずーっと!
分かっている。それを食べる事がどれだけ危ない事かって、だけどどうしても我慢が出来なかった!何よりもアイツよりも先に食べてみたかった!ああ!全て間違いだったって気付いた時にはもう全部遅かった!
どうして俺達は二人同時に食べてしまったんだろう?一人だけでも残っていたならば外への報告が出来たっていうのに。だけど、本当に、わっとなるぐらい、美味かった!せめてもう一口を

ああ
 


警備員の補充を取り急ぎ行って下さい。Dクラス職員他、ネズミ、アリ類の手配数を増加させて下さい。
サイト████管理員 S████ E████


 
 
「そろそろ時間だな」「お別れだな」「……もっと長く生きられるもんだと思ってたけどな」
「Dクラス職員もそう思ってただろうさ」「元はと言えば、ヘマをした俺達が悪いんだ」「そうだけどな…まさかこんな死に方なんてな」
「世界を救う為に命を捧げる、そう言えば悪くないさ」「そうだぜ、こんなかたわになった俺達だって」「……救えるのか?本当に?」
「きっと救えるさ…そう思わないと、やっていられないだろう」「でも、Dクラスで間に合わないんだったら」「…………お」
「うぉぉぉぉぉあ!」「おあああああ!」「あああああああ!」
 
 


療養中の職員・エージェントを動員し対応して下さい。
サイト████管理員 S████ E████


 
 
染み出してくる油が指を濡らすのを感じながら、思い切って、いや勝手に口の中へと柔らかなスポンジとクリームで構成されたその物質を口へと運んでしまっていた。さくっと音が響いて、いやらしくは感じない甘さと苦さの染み込んだ油が舌の上だけじゃない、口いっぱいに溢れて零れそうになる。
柔らかなそれはもう形をほとんど完全に崩して舌の上に軽く噛み下す必要も無いぐらいに、ほろ苦さとまさしく甘美で美味で極上の、胸が一杯になる味わいだった。
 
 


私が居なくなった後の世界が、良い方へと転がる事を祈ります。
サイト████管理員 S████ E████


 
 
 

既にこの月面、財団が必死の思いで造り上げたセーフゾーンであっても範囲内となっているのが確かに伝わっている。もう間もなく我々は禁断症状を抑える為もがく薬物中毒者の様に地球へと向かう事だろう。人間以外の動物を駆使しても精一杯であり、遂に682を使用した。結果は何も言う必要は無いだろう。我々は失敗した。もうどれだけの人間が地球上に残っているかは考えたくも無い。世界が埋め尽くされているのは分かって居る。全ては苦いスポンジと甘いクリームとココアパウダーと周囲の衣、若干のトカゲの血に包み込まれていく。この文章を読んでいる者が居るのだとしたら、どうか今直ぐあの焦げ茶と白色の星から逃げてくれ。どこまでも逃げるべきだ。別の空間でも宇宙でも構わない。この世界はもう終わりだ。我々はもう涎を押さえ込めなくなってしまった。
O5-█

 
 
 


<インシデント-███>

要注意団体と思わしき部隊がサイト19へ侵入、ちょうど実験中だったSCP-807が盗難されました。機動部隊による対応を行いましたが、空間移動が可能なオブジェクトを処理しており[[略]]
結果SCP-871の一部がSCP-807の上へと乗せられ、外見はティラミスの天ぷらの様に変化しました。双方の特性から早急な対応が必要と考えられます。

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