SCP-000-W
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我荒れ野に一人歩みつ

財団の使命、科学の進歩、人類の保護、「世界を守る」とはまた違う。
財団は人類とともにあった。財団は人類の歴史を見守ってきた。
この星を統べる人類という生物があまりに無知で、愚かで、弱いために、財団は人類を見守ってきた。
財団は人類に早い未知から人類を守り、適する時に未知を既知に代え、人類を育ててきた。
しかし、財団は疲れてしまった。
この波がどこから来たのか検討もつかない。財団から来たのか、あるいは人類から来たのか、 この星から来たのか。
我々は世界の異常を見つけたが、その理由を知ろうとしなかった。
事は2007年から始まっていた。あまりに小さな変化で誰しも気が付かなかった。
極わずかの人間がその異変を察知し、認知し始めた時財団は他の多くの異変を重視し、その異変を重視する者はいなくなった。
その変化は着実に世界を侵し始めた。世界のあらゆる場所で不具合が生じたのだ。
財団は活発にバグを摘み取ったがバグを修繕しようとすることはなかった。
不都合、不具合、不条理、ひとつひとつ、丁寧に摘みとっていってもキリがなく、むしろバグは更なる狂気を含んで世界中に出現した。
財団はそれを楽しんでいたのかもしれない。
狂気と日常に隔てはなく、お互いがお互いを産むのが世の定めだった。
だが財団は疲れてしまった。
際限なく現れるバグを前に、むしろ摘めば摘むほど狂気を増して現れるバグに財団は、世界は疲れてしまった。日常だけを残し、狂気を隔離するなど、宇宙が認めなかった。
そして、ある時点で何かが切れ、世界は終わっていくのだった。日常は傍らの狂気がいなくなるたびに、自らを保つために狂気を産んだ。
最初は微かな出来事だった、天変地異や世界規模の暴動。激動の時代と言い捨てることも出来た。お互いがお互い無くてはならない存在だったのだ。
人々は次第に気がつき始めた、この世界の先が長くないことを。狂気は人間で言う白血球の役割を成していた、膿のようなものだ。それがなくて地は浄化されぬ。
財団は愚かだった、日常を保つことなど狂気なしでは出来もしないのに。
そうして世界は本格的に転がり始めた。
太古の人間は正しかった、狂気を理解し、自らの住む日常を脅かされぬよう、狂気を理解し避けていた。
収容違反は更なる収容違反を誘発させ、煉獄から這い出てきた化け物は世界中に眠っていた幾千もの化け物達を呼び覚まさせた。
空の色はある時点で美しさを失い、ある国は進歩が停滞し、ガラクタが意識を持って立ち上がり、天に鳳凰が登り、地には破壊者が現れ、冥府も現世も区別なく、人は死を超えた恐怖に怯え、地が水となったかと思えば大気は硫黄に包まれ、狂人達が闊歩し、世界が終わった。
世界を滅ぼしたのは財団だ、狂気を理解せず、理解しようとするふりだけしていた。狂気こそが日常の生産者だと知らずに。
人類と呼べるもの、財団がかつて育て見守ってきたものが尽く世界から消えた後、人類とは呼べぬ化け物だけが終わった世界を見ていた。
いっそ世界とともに破滅したかった、世界とともに終わりたかった、世界と共に死ねればどんなに幸せだろうか。
化け物達はそう考えていた。我ら死ねぬ化け物だけがそのどちらにもない第三者として存在を許されていた。
化け物のうち、ある男は美しい首飾りの中で眠りにつき、ある男は親類が尽きたことを喜び、ある女はただ怯え、ある男は呆然と砂漠の上に座っていた。
それぞれがかつて財団の有った場所に。
だから我等化け物は世界とともに死ねなかった。
これにて世界の終わり、なにもかもが無くなった。
破壊者は満足して土に還り、鳳凰は自らを知るものが居なくなった故に消え失せた。
世界は今や不条理すらもまかり通らぬ地の獄と化していた。
あとに残ったのは天動説を正とし、砂とフッ素の塊になった星と、1つの首飾りと男。
SCP-682も、SCP-444-JPも、好き勝手に振る舞った。その後には、惨状には、塵一片許さぬ広大で荒廃した秩序だけが残った。
男は苦しんだ、千年、二千年、五千、万、億…

長く放心状態だった男がふと気がつくと足元には緑の芽があった。
おかしい、世界はもう終わったのにまだ萌える命があるか、と。
男が、空を見上げる。
空の青は美しく、耳を澄ませば潮の音が聞こえてきた。
おかしい、世界の空も、海も、すべて終わってしまったはずだ、と。
男は立ち上がり砂漠を走り、海岸へたどり着いた。

空白

青く、澄んだ太古の海がそこにあった。
空白
青く、潤う太古の樹々が対岸に見えた。

空白

世界はゆっくりと、ゆっくりと、元の形を取り戻し始めた。
世界を壊し尽くした怪物も、狂人も、全てない、まっとうな世界。
それが男を待っていた。
空白
男は地球の浄化作用に驚き、感謝した。
ここに来てなお、地球は生きていた。
幾兆年目にして、世界が戻り始めた。

膝から崩れ落ちた男は決心した。

「待とう、また人類が起こるその時まで、私は人類を育て、見守ってみせる」と。
だが、男もまた無知で、愚かだ。

彼の意思の中には財団の再建すらも有った。

世界が繰り返し再生するようにまた、

空白

空白

空白

空白

空白

歴史も繰り返すのだ、と。

空白

空白

だから、狂気もまた、繰り返すのだった。

空白

嗚呼神よ。あの惨劇を許した残酷な神よ。貴様はそれをお許しになるのですか。貴様はまた、あの歴史を繰り返すのですか。貴様が未だ一片の善意をお持ちであれば、あの男をこの世から葬って頂きたい。嗚呼神よ。我らの残酷な神よ。

空白
立ち上がった男は、浅瀬に灰色の彫像を見た。

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