貴方のお時間頂き、ありがとう御座います。
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ブラドック博士(Doctor Braddock)は警備員が案内したテーブルへ神経質に歩いて行った。
彼は今までこれ程の高級クラブに足を運んだことがなかったため、この場にいることが恐ろしく場違いであるように思えた。
彼は皺くちゃな服に、くしゃくしゃな髪、そして赤い瞳をしていた。

「突然にもかかわらず、お会いする時間を割いて頂きありがとう御座います。」
彼はそう言うと席に付いた。

「いやはや、どう致しまして。
 貴方のお時間を頂き、ありがとう御座います。」
物柔らかなビジネススーツの男はそう言うと、ブラドックと握手をした。
にこりと完璧な歯を顕にして微笑みを浮かべた。
彼ははっきりとその研究者と対照的であり、波打ったブロンドの髪型からはみ出る髪の毛は一本もなかった。

「その私は……貴方の提案を考えてみたのですが……。」ブラドックは言った。

「それから?」一方の男が手入れの行き届いた眉を吊り上げる。

「あの……そのぅ……。」ブラドックは次第に小声になった。
「もっと情報が知りたいのですよ。貴方のEメールは、その……、些か漠然としていて……。」

「もちろんです。」男は言った。
「今、私達は多くを尋ねることはしていません。
 絶対に貴方の……雇い主は取り零す事はありません。
 二つ三つのつまらない物さえも、ガラクタでも。
 我々は寛大にドンと支払う用意がりますよ。」
 
「でしたらそうして頂きたいものです。」ブラドックはもどかしく言った。
「私は酷く金策に困っていまして…その…面接人さん?」

「ファースト・ネームで呼び合うことが最上でしょう、ジム。」
男は流暢に言った。
「私のことはジェレミーと呼んで下さい。」

ブラドックは頷いた。ずっと楽になったと彼は感じた。
「わかった。ジェレミー
 どれくらいの金額になるんだい?」
 
「もちろん、もちろんですとも。
 ほんの少し前金で、コストも殆どかかりません。」
ジェレミーはブラドックに封筒を手渡した。
「私の……同僚は能く能く分かっていましたよ。貴方が最もふさわしいとね。」

「ありがとう、本当にありがとう。」
ブラドックは殆ど泣くように言った。

「どうか、どうか。」
ジェレミーは肩を軽く叩いた。
「お飲み物は如何でしょうか?何がよろしいでしょうか?私が買ってきますよ。」


ブラドックは馴染み深いテーブルへと向かっていた。
これで4度目の訪問になる。
2度目の訪問時、彼は何かを持ってきていた。

「やあ、ジム。どうか座って下さい。」
ジェレミーは立ち上がり握手をした。
「レースはどうでしたか?お話して頂けませんか?」

「悪くなかったね。昨日は100ドル勝ったんだ。」
彼は座りながら言った。掛け金を二度すってしまったとは言い出せなかった。

「それは素晴らしい。聞くことが出来て良かったです。
 さて、今回私達のために何かご持参頂けたでしょうか?」
ジェレミーは期待の余り席の前方へと乗り出した。

ブラドックは神経質に辺りを見渡した。

「ああ心配しないでジム。私達は友達の内でしょう。」
ジェレミーは安心させるようにブラドックの手に触れた。

「わかった。」
ブラドックはスーツケースへ手を伸ばした。
そして革のジャケットを取り出した。
「今朝、私はこれが破壊されると報告したんだ。きっと焼却炉へ送られるだろうと考えた。
 おっと、心配しないでくれ。私は代わりになる物を得ていたから。だれもそんなことをやったって知らないよ。」
 
「素晴らしい、ジム。実に正しい判断力です。」ジェレミーは言った。

「それで、これは何をするのかな。」
「これを着さえすれば、水中で呼吸できるんだ。」彼は説明した。
「ちょっとジッパーが上まで上がり切ることを確認してくれないかな。」

「これは良いよ、ジム。」ジェレミーは言った。
「こういう物が好きそうな人を知っているよ。」
ジェレミーはこれを意匠を凝らしたブリーフケースに仕舞った。
「約束通りの金額はここにあります。」
最早馴染み深い封筒を引き出した。
彼は鼻息荒く封筒を彼から受け取った。
「これは重要な意味を持つよ。」
再び手を握りながらブラドックは言った。
「知っていますよ。」ジェレミーは言う。
「分かっています。」


ブラドックがジェレミーに会って8年の時が過ぎ、その間は彼を大きく変えた。
今や財団の中でも高給取りの地位についた。
灰色の髪は彼に欠如していた威厳を添えていた。
未だに良く金をすっているようであった。
それでも、第二の安定した優れた収入源を持っていた。

「ジム!」ジェレミーは暖かな握手をした。
彼は8年前と同じ見た目をしていた。

彼らはクラブのバーに座った。
ブラドックは最新の獲得物を取り出す。

ナイロン袋に封された黒色の睡眠マスクであった。

「興味深い見た目です。」ジェレミーは言う。
「これは一体?」

「ああ、うん。」ブラドックは咳払いをした。
「着用すると、着用者はよく極度に淫らな夢を見ます。
 完全な感覚を認識します。というかむしろ……ヘンな類のセックス。」
 
「分かりました。」ジェレミーの蒼い瞳は明るくユーモアがあった。
「試したことありますか?」

「そ…私は…うん、一度だけ。」
ブラドックは風変わりに紅潮した。
「え…私がこれを使うと方向感覚を失ったよ。
 でもD-クラ……──あれ、実験の被験者は使用後、常習性があるとわかったよ。」

「うーむ。はい、これは良さそうですね。よくやりました、ジム。」
ジェレミーはナイロン袋をブラドックから受け取るとベルベットラインの小箱に収めた。

「警告しないとね。長く使うと、被験者は……ええと……死にます。」
更にブラドックはきまり悪そうになった。

「何と驚異的でしょう。どうなるんですか?」ジェレミーは尋ねた。

「あー、自己性欲刺激窒息死。」ブラドックは言うと、顔を赤く染め上げた。

「なんと、貴方が言おうとする事は……咥えるということじゃ、ああっとしまった。」ジェレミーは言った。

「これを入手するのは大変だったよ。」ブラドックはそう言うと、少々気を落とした。
「連中は実験したがっていた。
 けど、私はこれを事故で破壊されたという事にしないといけなかった。」

「今、ジム。」指を一本上げてジェレミーは言った。
「昨日まで私のお客様が望むべくもなかった古い小間物だと分かっていますよ。
 ひょっとすると、今までどおりの支払いが出来無いかもしれません。」

ブラドックはすくんだ。彼は支払いを削減される余裕は無かった。
この点の為ではない。
負債の為でもはない。
「権利だ。権利。」

「ねえ、貴方はプロです、ジム。
 私が貴方が何もかも正しく扱えると確信しているでしょうか?」
ジェレミーは素敵な微笑みを浮かべる。

「正しい。」ブラドックはいうと、彼の図々しさは収まった。
彼は行く先は秘密にするスパイであるように感じたことが何度かあった。
005とだけで呼ばれる。

「支払いはここに。これで十分以上でしょう。」
慣習的な封筒が手渡された。

ブラドックは開けさえしなかった。
ジェレミーが満足行かない支払いをする事は今まで無かった。
ブラドックは自身の過去これからは知らない。

彼らは握手すると、ブラドックは外へ急いだ。
鉄火場の時間が迫っていた。


ブラドックは薄茶色の髪の怯える若い女性をエスコートしてクラブの中に入った。
安心させる言葉を彼女に優しく囁くと、彼女は落ち着いた。
禿がかかった頭頂部と皺のある顔が、近頃のブラドックの顔を無害な雰囲気にしているのは明らかであった。
40にもいかないのに、彼は既に老け始めていた。
父のように、優雅に年をとる事を常に望んでいた。
運はなかった。

まあ。さけられないことをぼやいた所で何の利益もない。
「お前さん、さあこちらへどうぞ。」父親のような調子で彼は言った。

「やあ、ジム。待っていたよ。それでこちらの魅力的な人は?」
ジェレミーは尋ねた。

「こちらはレネです。」ブラックウッド言った。
レネは驚くべき発見であった。
偶然、彼女を捕獲する命令を見つけた彼は、MTFが実行する前に何とか彼女を見つけたものであった。 
これは危険なことであったが、近頃のジェレミーは相当気難しかった。

しかし今日の彼は失望していなかった。
「アンシャンテ。」(フランス語の挨拶)
彼はそう言うと、甲斐甲斐しくお辞儀して、軽く彼女の手をとった。

レネは赤面して、はにかんで微笑んだ。
前日、ブラドックが彼女を見つけた時よりも彼女は落ち着いているようであった。
「ありがとう。」彼女は穏やかに言った。

「レネは、特別な才能を持っているんだ。」ブラドックは言った。
「彼女は自己再生能力を持っています。
 非常に早いということが分かっています。」
これは控えめな表現であった。
彼女が財団の注意を惹くきっかけとなったのは、自動車事故で腕を失った事であった。
病院に搬送される頃には、彼女の上は元通りに成長していた。
公にされた話は救護隊員が単に間違いを犯したということであったが、ブラドックはより深く知っていた。
レネの許可のもと少し実験を行うことが出来た。
全身麻酔を行っての、少しの実験だった。
「おお、カーター氏は貴方を愛すでしょう。」ジェレミーは言った。
彼はブラドックに振り向く。
「では、ここで、ジム。一週間以内に戻ってきて下さい。
 貴方はボーナスを得るでしょう。」

「先生?何が起きているんですか?」
レネは突然、訝しげに尋ねた。

「単なる私達の間でのビジネスだよ。」
ジェレミーは流暢に言った。
「何も心配することはありませんよ。」
彼は立つと、彼女に腕を差し出した。
「お出迎えを手配しに行きませんか?
 ジム、なんでも好きな物で構いません。私が勘定しますよ。
 また来週ここで。」

彼らが去るのを見てブラドックは頷いた。
彼は少し……この事態に悩んだ。
人生の大半であるこの15年の間、沢山の物を提供したが、人売りをしたのは初めてであった。

うん、財団に居るよりも彼らのもとに居るほうが裕福だろう。
たぶん。
それよりも、彼が何をしてくれるだって?
彼の財産は枯れ果てそうであった。
彼はちょうど少し多く必要としていた。
彼は思わぬ幸運を得たのだ……


ゼーゼーと呼吸をしながら、ブラドックはクラブに転がり込んだ。
彼はこの体を呪った。
まだ若いのに、ここまで年老いたことに。
「ジェレミー!どこに居るんだい?」

クラブは寂れていた。
明かりはなく、装飾も取り外されていた。
家具さえ無かった。
馴染み深いテーブル1つを除いて。
ジェレミーはこの建物の中に居るただ一人の者であるようだった。
「何か御用でしょうか?」彼は礼儀正しく尋ねた。

「連中に知られた。」ブラドックは惨めに言った。
「どうやったのか知らない。でも見つかってしまった!」

「私は、いつかこのようなことが起きるのではないかと思っていました。」
ジェレミーは言った。
相変わらずも流暢に言うが、何かがおかしい……彼との距離を感じた。
「貴方は彼らの口座からお金を引き出そうとするべきではありませんでした。」

ブラドックははっと驚くと見直した。
「どうして、知っているの?」

「私達は貴方の財政状況を長きにわたって見てきました、ジム。
 どのようにして、私達が貴方を見つけたのだと思います?」彼は尋ねた。

「貴方の負債を知っていた?
 貴方の口座の全ての金額を見た時、そう、それは何処からお金が振り込まれるでしょう。
 他にどこで、それを得られたのでしょうか。」

「どうなっているの?」ブラドックは尋ねた。
「ジェレミー、私を助けないといけないだろう。」

ジェレミーは溜息を付き、ブラドックの肩の上に手をおいた。
安心させるというよりもむしろ、押し倒すために。
脚に力がかかるような感覚を覚え、膝から崩れ落ちた。
「私はそうは思いません、ジム。
 貴方は私達の負担となりました。貴方は私達の役に立ちません。
 今の時点では貴方は仕事をやり残した。
 貴方を始末することは、貴方のご友人方に任せましょう。
 私は辿るべき素晴らしき障害無き道を与えたと確信しています。」

「ジェレミー!そんなこと出来ないでしょ……。」ブラドックは立ち上がることが出来ず、さめざめと無く。
「ジェレミー!」

「すみません、ジム。
 それでもねぇ、貴方のお時間頂き、ありがとう御座います。」
彼は振り向くと、立ち止まり、また振り返った。
「おおっと、ジム?こちらがマーシャルさんです。御機嫌よう。」

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