街人来たりて、愛を探しに
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「こんなに月が暗い日には、またあの昼が、晴れ間が来て欲しいなって思うよね」
「そうかな。家のあの子はきっと、月が見えにくい事を悲しんでいると思うだろう」
雪が降り続ける中、一際薄暗い月を二人して見上げながら話している。

「それにしても、本当に良いのかい?」
「もう決まっているのさ。明日になったら、この街を出る……あの子の世話は任せたよ」
「ああ、達者でな」
「あと、彼女に」
「彼女に?」
「……やっぱり何でもない」
そして男は街を出た。


 
「途中まで見送ったけど、縮んじゃっていたよ。それ以外は問題は無さそうだ。明るい昼時が続いている……久し振りにちょっとだけ見たけど、やはり良いものだった」
「そうなの……」
雪模様の空、月を見上げるあの子と並んで、一組の男女が話している。男の方は手紙を持っていた。
「僕も途中まで行かなければならないから。他にも街の外に出たいって、言ってる子達もいるんだ」
「この子達は外に出て大丈夫なの?」
「縮む以外は問題無いみたいさ。嬉しい事に、僕達と同じ様な格好をした生命体がいたって」
「本当に?」「ああ、目が合ったって言ってた。夢の中かもしれないけれど」
「その生命体達は、この子を愛してくれるかしら」「愛してくれると良いね」
「あの人が目を醒ましたら、きっとあの子と出会えるのね」「気になるかい?」
「まさか」
恥ずかしそうに彼女は笑った。
愉快な仲間達を連れて、彼は街から出て、少しして戻って来た。
 


 
「私も一緒に行っていい?」
空を覆い尽くす満月の中、彼女は彼等にそう告げた。雪は変わらず冷たい。
「ああ、勿論歓迎するさ。アイツも喜ぶ筈だ」
彼女は言葉では返さず、ただ嬉しそうにはにかみながら俯いた。
「行ったら、あの子達がどうしてるのか、見に行きたいわね」「僕達もそう思ったんだ」
そして彼らは、街を離れた。途中で縮んだ。
 
 


 
嬉しそうに穂を振るあの子の傍らで、杖を持った老人が皺くちゃになりながら微笑んでいる。
「ああ、いいとも。君を連れて行ってあげよう」
子供に頼まれるままに世話を続けていたのであったが、もうそろそろ出来そうにない。行かなければならない。
あの子を抱えて、途中でしっかりと縮みながら、街の外を歩く。真っ暗な夜と雪。身体の節々がずんと重くなる。
それでも、あの子と一緒に昼を見る事が出来た。懐かしい眩しさ。普段から持ち歩いている、筆記具を取り出す。
「これから先は、君一人で行くんだよ」
悲しそうなあの子に、すらすらと手紙を綴る。嘗て与えられていた感情を。これから与えてくれる事を願いながら。
「昼もある、月もある。もしかしたらまた会える……街の外はそういうものなんだ」
「雪だってあるさ。満月も……」
次第にまた嬉しさを現し始めた様子に、にっこりと微笑んだ。そして手紙の最後は、前からそう決まっていた言葉で締め括る。
「だから、行きなさい」

……酩酊街より 愛を込めて


 
 
男は目を醒まし、そして苦笑する。まだ昼は続いている。沢山の光が辺りに包まれる中、気付いた彼はゆっくり歩き始める。ふらふらともつれた足が転ばない様に。時に踏ん張りながら少しの間歩いて、自分が来た地点へ辿り着いた。
 
 
見上げた先には、昼があった。見知った彼等が笑顔で此処まで来ようとしていた。ゆっくりと両手を掲げて、皆がやって来たのを待ち構える。
 
 
「久し振りの昼だ」「眩しい」皆が思い思いの言葉を告げる中、男の頬はふと赤らんだ。目の前には胸の奥で密かに想いを抱いていた彼女も居る。彼女も頬が赤らんでいた。
 
 
「だいぶ縮んじゃったね」「そうだね」恥ずかしそうにしながら少し言い澱み、出て来た言葉はそんな調子だった。皆が囃し立てる。やめろよと嗜める男の顔は変わらず笑っている。
 
 
「あの子達はどうしてるの?」「もしも皆が来たら、見に行こうと思ってた」「じゃあ、行こう」「どれだけ縮んでいるかな」「大丈夫、場所は分かるよ」楽しそうに話をしながら、皆は続いて歩く。
 
 
「先に此処に来れて、良かったよ」男は純粋な気持ちで、呟いた。「私も、こうして来れたみたいで、良かった」彼女は見通しながら、呟いた。
 
 
足取りは誰もがふらふらと酔い痴れ歩く、愉快に賑々しく笑いながら。再会の喜びに何気無い話。目的地までは然程掛かりもしないだろう。
 
 
「でも、月が無いのは、寂しいものだ。あの子も哀しんでるだろう」「見付かると良いわね」「あ、雪」白色矮星を指差しながら、皆の内一人が呟いた。
 
 
 


28██年█月6日、覚醒したSCP-508-JPが移動を開始しました。
<追記:> 33██年2月█日、再度停止したSCP-508-JPの近辺に、ほぼ同等の大きさを有した合計1█体の人型実体が出現するのが確認されました。
<追記2:> 48██年11月██日、オブジェクト群が楽しげに会話をしている様子が確認されました。
<追記3:> 8███年██月31日、オブジェクト群が移動を開始しました。太陽系へ直進する進路を取っており、現在財団の確認可能な範囲内で、明確な被害が発生するのは██████年後と予想されます。

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