それでは、インタビューを開始します。インタビュアーを務めます、梅田 綾です。よろしくお願いします。
インタビュー? つまり、私はこれからインタビューを受けるんですね?
そうです。
なぜです?
なぜ、とは?
いや、当然の疑問でしょう。
あなたの身分が何で、どういった権利でインタビューを仕掛けるのか。
なぜこのインタビューを実施するのか。
それがわからないと答える気になりません。
ですが、あなたとは以前にもお会いしたような気が……。
いえ、こちらの勘違いですね。失礼いたしました。
問題ありません。
まず、このインタビューの目的ですが、あなたの確保のためです。
世界には異常な存在が実在し、私の属する組織はそれらを安全な場所に封じ込めることを目的として活動しています。
今回、我々はあなたを収容の対象として見ており、そのためにも直接の情報が必要です。
それを回収するのが私の任務であり、役割です。
なるほど、私が「異常な存在」ですか。
一旦置いておくとして、具体的な異常の種類は何ですか?
自覚がない、ということですか?
らしいですね。私は普通の人間ですよ。あなたは私を何と見ているのですか?
それは……お教えできません。
教えられない?
納得ができません。わからないとでも言う気ですか?
はい。
私もあなたに関する情報を与えられていないのです。我々の組織は情報を統括・制御するシステムが基盤となっていますので。
それでも私は命令に従い、任務を果たします。
もしそうだとしても、接触する調査対象に関する情報を与えられていないなど、信じられません。
あなたが信じるかは、関係がありません。
関係ありますよ。こうして信頼関係が崩れている。
私にはこれが、プロのやり方だとは思えませんね。それはあなたも理解しているでしょう。
ここまで無理を通そうとしてまで、このインタビューをやる意味はあるんですか?
ありますよ。
私が受け持った役割ですから。
そうですか。結構です。インタビューは受けられません。
今日はもう、終わりにしてもらえませんか。
了解しました。インタビューを終了します。
「インタビュー、ご苦労様です。……手応えは?」
「ありません、全く。やはり、自分が死亡している感覚を持ち合わせていませんね。しかも、現在の記憶は一定期間しか持続しないようです。そして、生前の人格は残っている……精神的安定性が、こちらの調査を阻害しています」
「事例に関する情報を採録するのは難しそうですか」
「そうですね。前回を省みて、今回は受け身になってみましたが……根本的解決にはならず、といった感じで。まぁ、駄目は承知の上です。ところで博士、そちらに何か、進展はありましたか?」
「あまり、としか」
「……犠牲になった同僚のためにも、早期収容を目指したいのですがね」
「解決したとしても、彼女は永遠にあのままかと。彼女——エージェント・梅田の霊的実体は、果たす必要のない役割に固執してしまいましたから」