旅立つためのただ一つの方法
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「その……コーヒーか何か飲みます?確かナイトスタンドにまだ少し残っていたと思いますよ」

「いえ、結構です」

「そうですか」

「ブラウンさん、心遣いには感謝しますが私はここに調査に来ているんです。アンダーソン船長の死と、もうすぐ財団唯一の戦闘用ツェッペリンの指揮官になるあなたについてのね」

「ええ……その……」

「おっとブラウンさん、どうぞ録音を始めるまで待って下さい。オホンオホン。ケースファイル20121108-6、アンジャリ・ムハサルカー氏の管理下にあったHALO-3基地の崩壊について。お名前と識別番号を言って頂けますか」

「えー……ローレンス・ブラウン。識別番号30221-1/994です」

「それではブラウンさん。事件の引き金になった出来事について説明してください」

「分かりました……その、私は今年の9月1日付でHALO-3に赴任してマンデルソン博士の下でスカイライト計画に携わっていました。偵察任務のためにSCP-994個体群を調教するのが仕事でした」

「基地に収容されていた他の物や実体と接触したことはありませんか?」

「いえ、一度も。私たちは全員航行中のブリーフィングで収容違反に備えて緊急コードと退避プロトコルを教わっただけです。ごく普通の内容でしたよ」

「続けてください」

「あー…二ヶ月間は大したことは起こりませんでした。スカイライト計画は順調で。インプラントに大きな問題はありませんでしたし、994は小さい頃から始めれば容易く訓練できます。事件が起こった時には994を基地から5km以上離れた場所でコースに沿って飛ばす段階でした」

「あの朝起きたことを話してください」

「ええと、ボーナムが4時頃にドッキングして、私はいつも通り6時に起きました。8時半に994のハンガーに行ってインプラントしたGPSを調整していました。なぜかは分かりませんが飛行中に上手く動作しなかったんです。マンデルソン博士とローガンとアリが一緒にいました」

「事件が起きる前にSCPUボーナムやその職員、積荷と接触しませんでしたか?」

「いえ、私が知っていたのはボーナムが基地にドッキングしたことと翌日に出発する予定だったということだけです」

「崩壊を検知する前に、基地の警備記録装置から高セキュリティ実験室で10時17分に収容違反が発生し、周囲のモジュールにE-7804が放出されたと通信がありました。その時体験したことを話して下さい」

「爆発だった、と思います。と言うのも、大きなバタンという音でも私のいた場所では微かにしか聞こえないんです。すると退避命令のサイレンが鳴り始めて、群れはハンガー中に散らばりました。私たちはハンガーと研究室を封鎖して、そのまま待ちました……20分ほどです。アナウンスの他には話す者はいませんでした。みんな何が起こっているのか見当もつかなかったんです」

「封鎖している間に何か異常なことは起きませんでしたか?」

「いいえ、何も。封鎖は20分ほどで解除されて、マンデルソン博士が状況を把握するために管制室とのコンタクトを取りましたが答えは返ってきませんでした。プロトコル通りに博士が救難信号を出して、私たちは全員で脱出シャトルの一つに向かいました」

「続けてください」

「そんな訳で私たちは何が起きているのか分かりませんでしたし、説明を受けたどんな事も起きてはいませんでした。だから私たちはボーナムが持ち込んだ何かの仕業だと推論したんです」

「そうなりますね」

「シャトルはハンガーのすぐ隣にあったので私たちは素早く乗り込みました。ところがシャトルは発進しませんでした。マンデルソン博士は何者かが制御を混乱させているに違いないと言いました。博士が続けて言うには、警備員か司令官か、誰でもいいから何が起きているか知っている人を探すべきだと」

「私が後方に、他の人が前方にいました。だから私は何もかも全部見ることができたんです。あの生き物に飛びつかれて、そして……そして……」

「録音を中断しましょうか?」

「ええ……ええ。少しだけ待ってください」

「勿論です」

「その生き物のことを説明してくれますか?」

「ええ……あれは人型の実体でした。元の姿からあまり大きく変わってはいませんでした。体の大部分が何かで覆われていて、粘土で人を象ったようでした。灰色で、電子回路のような赤色の模様がありました」

「それであなたはどうしたんですか?」

「そいつを消火器で殴りつけて、気絶している間に走って逃げました」

「その時はどうするつもりだったんですか?」

「もし管制室がやられていてシャトルも動かないのなら脱出する現実的な方法はボーナムしかないと思って、ボーナムへ向かいました。別の階で誰かが戦う音が聞こえたので、メンテナンス用のダクトを使ってできる限りそこから離れました。」

「脅威を考慮してのことですか?」

「あの時は生きるか死ぬかの瀬戸際だと思いました。可能性は五分五分なのだから、どんな行動をしても大差はないと。あの時はそんなにはっきりと考えてはいませんでした。ただアドレナリンと恐怖に突き動かされただけです」

「他の生物とは遭遇しませんでしたか?」

「3体と遭遇しましたが、私は気づかれませんでした。あいつらは人間と同じようには物を見聞きしていないんです。十分静かにゆっくり動けばこちらが目の前にいても気づきません」

「ドッキングベイに着いたときに何があったんですか?」

「ボーナムはまだそこにあったんですが、乗組員が見当たらなかったんです。区画にただの一人もです。私はもう全員乗り込んだんだと思いました。でも仮にそうだとしたらどうしてまだ発進していなかったんでしょう?私は手を振りながら船に向かって歩きました。入口へのスロープの下に辿り着いたとき、対応チームが船から出てきてそこに並びました。私なんてそこにいないかのようでした。彼らは綺麗に2列に分かれて並んで、アンダーソン船長が出てくるのが見えました。ただし……この戦争の絵に描かれたような格好でした。軌道上から飛び降りたみたいにズタズタになった制服を着て、歯を剥き出しにして笑っていました。船長は私に気づいたようでした。スロープを降りてきて、酔っ払いか何かみたいにこうやって両手を出しました。まるで海賊映画の悪役でしたよ。眼帯までしてたんです。」

「それで彼はなんと言ったんです?」

「通り過ぎるまで何も言いませんでした。でもすれ違った後に頭突きを食らわしてきて、それから『調子はどうだ?クソ野郎』と」

「それで怪我をしたんですね?」

「ええ、彼は短時間で私を叩きのめして、よく聞き取れませんでしたが何か言いました。すると対応チームの男が私を抱えて船に運びました。何らかの強力な現実改変が起きていたに違いありません。あの男たちはゾンビだったんですよ」

「続けてください」

「窓から外を見ると、粘土みたいな大きい塊がありました。あの時はまだ頭がぼんやりしていてよく分かりませんでしたが、今なら分かります。基地が粘土のようなものに覆われて粘土の塊みたいになっていたんです。収容違反から1時間、いや、1時間半くらいでしたかね?あれがKeterじゃないって言うなら文句を言ってやりたいですよ」

「そうでしょうね」

「アンダーソンが何かおふざけと仕事が恋しいみたいなことを言ったと思うんですが、そこから病室で起きるまでの記憶がないんです」

「全くですか?」

「途切れ途切れになら。でも最後の少し以外は何もかも曖昧で……初期収容チームが来た時、何かを振り回して、『俺が船長だ。こいつらは俺の船員で、この船はSCPUくそったれだ』と叫んだのは憶えています」

「それで合っていると思いますよ」

「これで全部です」

「ありがとうございました。ブラウンさん、あなたが気絶している間に何があったのか聞かされていますか?」

「いえ—少ししか」

「あなたはショットガンでカオス・インサージェンシーの構成員を13人殺し、ボーナムを基地の反重力リングに衝突させて自壊シーケンスを発動させたんです。言ってしまうと、この事件でHALO施設の一つが完全に崩壊し、186人の職員が死に、22個のanomalousオブジェクトが破壊され、10億ドルに相当する実験段階の技術が失われ、3つの主要な協力機関との関係に傷がつき、ここ10年間で最大規模の隠蔽処理が行われました。しかしあなたは同時にE-7804を太平洋に拡散させようとする企みを阻止した人物でもあるのです。もしE-7804が放たれていれば再収容には世界再構築シナリオを発生させる必要があったでしょう」

「おお……ああ……」

「これは意図せずして行われた英雄的行為への賞賛だと思ってください」

「でも一つだけ疑問があるんです」

「どうぞ」

「どうして財団が戦闘用ツェッペリンなんて持ってるんです?」

「それは機密情報です。ブラウンさん」

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