女の門出
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「女は男を養ってやらなくちゃならないのよ」
だからあんたも強くなりなさい、少女の母親は事あるごとに言っていた。
実際彼女は、何人もの夫と娘を養うだけの甲斐性があった。少女は、そんな母親を尊敬していた。
「あんたもうすぐ、私と同んなじ強い女になるわ」
「でもママ、わたしどうしたらママみたいになれるかわからないよ」
「ママもね、小さい頃、あんたみたいにママのママにそう言ったの、憶えてる。でも、その時が来たら教えられなくてもきちんとわかるの。大丈夫、ママのママのずーっとママから、私達はそうやって生きてるんだから」
少女の十二歳の誕生日に、母親はそう言って彼女の髪を撫でてくれた。結婚式に向かう花嫁を撫でるような、誇らしげな手つきだった。

少女の母親は、少女が十二歳になってしばらくしたある日、突然消えた。
仕事に向かった母親を労うために、いつものように少女は公園で帰りを待っていた。仕事を終えた母親が夫と妹達を連れて戻り、今晩の寝場所まで家族皆で行く。少女の日常は、夕方になっても母親達が帰ってこないことで終わってしまった。
「きみ、お家の人は?こんな遅くちゃ、心配してるよ」
手持ちもなく連絡手段もない。少女が途方に暮れているうちに、公園は静かな暗やみに包まれていた。
いつの間にやら近づいていた男が、俯いた彼女に声をかける。身なりがきちんと整えられ、優しそうな男だった。
「・・・・・・帰れないの」
「そりゃあ大変だ。良かったら僕の家においで、温かいものでも飲んでゆっくりするといい」
柔和な笑みと共に男が差し出した手を、少女はためらいなく取った。
パパになった人たちと同んなじ顔をしている。
ということはたぶん、この人はわたしにママの仕事をしてほしいんだ。
「・・・・・・できるよ、わたし、ママみたいになりたいもん」
手を繋いだ子どもの呟きを、男が聞くことはなかった。


ママはいつもこんなに痛かったのかしら。
知らなかったこと全てが終わった後、ぼんやりと少女は考えた。幼い頃一度だけ見た仕事中の母親は、もっと楽しそうだった気がする。
「怯えなかったね・・・・・・そんな年なのに、慣れてるんだ」
横たわったままの彼女の頬を撫でている男は確かに笑顔であったので、少女は疑問を置いておくことにした。
わたしがママの仕事をちゃんと出来たなら、もうすぐ証拠が現れるはずだ。
少女がそう考えながら手をのばしてやると、男は更に喜びーその顔が、突然、歪む。
「あっ・・・が、ぐっ・・・ごおっ」
眉を寄せ、苦しげな男の吐き出す血塗れの吐瀉物が、ぼたぼたと少女の顔にかかる。
全身を覆う熱さと苦痛に、ばたばたともがく男をそっと、少女は抱き締めてやった。優しく、逃げられないように。
夜泣きした妹のように唸り声を上げる男が愛らしくなって、少女は耳元で囁いた。
「大丈夫・・・・・・これからずうっと、私がお世話してあげるからね、だんなさま」
肌で感じる血の熱さが心地よく、わななく男の首筋へ少女は顔をすり寄せた。


「・・・・・・わがみはなりなりて、なりあわざるところひとところあり・・・・・・」
夫を迎え入れるときに使う、母親が教えてくれた呪いを少女は唱えた。呪文の成果からか、彼女の初めての夫はすんなりと一緒になってくれた、気がした。
臍の辺りを摩ると彼女ではない小さな、可愛らしい鼓動と、間の抜けた音。
「・・・・・・お腹空いちゃった。二人いるからかな」
もう私は一人前の女になったんだから、朝ごはんも自分で用意しなくっちゃね。
少女ー今は女になった彼女は朗らかに笑うと、洋々と歩き出した。
足どり軽く進む彼女の股ぐらからは、破瓜と初潮の血が、瑞々しく溢れ落ちている。
門出を祝福する天鵞絨の絨毯のように、それらは彼女の足元を、赤く染めていった。

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