至上の実験
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 サイト-██所属の研究員は、いくつものセキュリティをクリアしてサイト-81██に足を踏み入れた。彼の手には、1つのアタッシュケース。一見アルミニウム製の平凡なものに見えるが、その実態は、財団の技術が注ぎ込まれた超軽量・超高気密の特別製である。

 その日のサイト-81██は奇妙な静けさに包まれていた。早朝であることを差し引いても、生き物の気配より機械のわずかな駆動音の方が大きく感じられる。

「ようこそ、お待ちしていました」

 しばらく進むと、ダークスーツを着こなす女性が待ち構えていた。英語の発音は上手いが、語尾がわずかに震えている。

「はじめまして。君が、エージェント・██」
「はい」

 ██と呼ばれた女性エージェントは力強く頷いた。研究員は彼女の目に、緊張と、大いなる期待の色を見る。自分と同じだと、研究員は思った。

 挨拶もそこそこに、エージェントの先導で2人はサイト内を進み始めた。これから始めることを考えると、時間が惜しい。

「ここまで持ち込むのは大変だったでしょう」

 エージェントは振り向かずに言った。彼女の問いに研究員は首を振る。

「まあ、扱いさえ間違えなければ面倒ではない。とはいえ、持ち出し許可を得るのはなかなか骨が折れた」
「そうでしょうね」
「だが、君の担当するオブジェクトと利害が一致した。サイト-81██も条件に合致した。本当に、幸運だった」

 そうして、2人揃って密やかに笑った。

 彼らが顔を合わせるのは初めてだった。しかし、この日のために何度も打ち合わせをした。オブジェクトの重要性を考えれば異常とも思える量を。

 全てはこの日の、至上の実験のために。

 やがて、2人は目的地に辿り着いた。サイト-81██の中庭である。そこには今までの静寂とは裏腹に、白衣姿の人々に満ちていた。ざっと数えても10数名いる。彼らは一様に、博士というよりは医師と呼ぶほうが適切な装備だった。彼らのうちの1人が研究員に気づき、握手を求めてくる。どうやらこの場の責任者らしかった。

「いやぁ、あんたが████研究員だな。待ってたよ! 気味悪いくらい静かだったろ、今の時期はいつもこうなんだ。いつもは騒がしいくらいなんだがね。業務に支障が出ない程度に上が配置換えしてるらしい」

 日本語でまくし立ててくる医師の言葉を、エージェントが通訳する。

「まずは、あんたの仕事からだ」

 医師が指し示した先に、腰の高さほどの台が設置されていた。研究員は台の上にアタッシュケースを据えた。その場にいる皆が、固唾を飲んで見守っている。

 研究員は懐から鍵を取り出し、アタッシュケースの金具に差し入れた。カチリ、と硬質な音がして、金具は難なく開く。アタッシュケースの中には、また機密容器が鎮座していた。研究員は一度、大きく息を吐いた。これを開けば始まるのだ。あの日、このオブジェクトを確保したときの光景が。

 周囲の人間にも察知されるほど強い芳香を放ちながら、密造酒のボトルが姿を現した。

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20██/██/██
サイト-81██にて、███匹の猫の健康診断が行われます。
それに伴い、猫の捕獲作戦が実行されます。
詳細は専門スタッフに問い合わせてください。


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説明: █████ █████████の芳香の密造酒のボトル。使用すると、半径1キロメートル以内の猫を引き寄せる。███ ███████繁華街に4000匹を超える猫が集合し、交通渋滞を引き起こした後に発見された。
回収日: █-██-████
回収場所: ██████████、███ ███████
現状: サイト-██の低価値物品保管庫に気密容器にて保管中。

説明:██製猫缶。原理は不明だが、開けると50匹近い猫が飛び出してくる。味の項に「筑前煮風」「佃煮風」と書かれている。
回収日:20██/██/██
回収場所:埼玉県██市のマンション。
現状:缶は廃棄済。飛び出した猫達はサイト-81██の名物になっている。
本当に幸せでした。開けた瞬間、私、死んでもいいって思いました。-エージェント・██

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