運命の3発の弾丸
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「よし、ハロルド。これが君の最終試験だ。弾丸は3発、ターゲットも3つある」

こんなの無理だ、そもそも最終試験まで到達できたのが奇跡みたいな—

お前の指図は受けない。

ハロルドは防音ヘッドホンを付け、心の中から聞こえる反対意見に耳を塞いだ。耳当ての下にある2つのイヤホンが、今まで聞いたこともないゆったりしたリズムの曲をランダムに流し、彼の耳を満たしていた。それ自体が第二次防衛線だ。彼にとっての多様性とは、プレッシャーに対抗する最善の手段の1つだった。

彼は自分のリボルバーを事細かに観察した。クリームホワイトの表面には経年による擦り傷があったが、それでも依然として茶色いグリップとの明瞭なコントラストを呈していた。このコントラストはハロルドにとっては余りにも生々しい。肩の上では天使と悪魔が絶え間なく口論していた。このチャンスを取るのか、見逃すのか? 彼の心を最も強く占める議論だ。心が以前の状態に移り変わらないように、ハロルドはもう一度だけ薬室を確認した。3発の弾丸、彼と昇進の間に立ちはだかるのはそれだけだった。

昇進には、給料のゼロが1桁増える以上の、住宅ローン完済のような平凡な事をやる以上の意味があった。それは彼と共に育ってきた自己否定のドッペルゲンガーに対して突き立てる巨大な中指なのだ。ハロルドが失敗するたびに、疑いの影が彼の心に陰気臭い暗闇を投げかけた。それでも、彼はこの一勝負のためだけにカンザス州のウィチタまで飛行機でわざわざ飛んできたのだ。その道中も、疑念は相変わらず闇を投じ、いったい自分は何をしているのかと彼に自問自答させた。

ハロルドは心の中に巣食う自己憐憫の影と共に息を吐き出した。薬室をリボルバーに押し戻す。彼は銃を上げ、その完全な不完全さを最後にもう一度見てから、撃鉄を引いた。撃鉄からカチャッッッという音が聞こえ、銃の発砲準備が整った。

バーン…

ターゲットは天井に折り畳まれ、新品と入れ替えられた。その頭部はまだ正確な射撃でくすぶっている。2番目の人形が天井から降下してきた。

バーン…

2番目のターゲットはより難しく、速度を変えながら左右に動いた。それでもハロルドを阻止することはできなかった。2番目の人形は射撃場の天井へと上がっていった。彼はグリップを固く握り締め、最後の人形が降りてくるのを見届けた。

3秒

ハロルドは躊躇った。最後に残った僅かばかりの疑念が、とどめの一撃を食らわせようとしている。今にも銃を手放しそうだった。

2秒

彼はヘッドホンと耳当てを外し、引金を引いた。耳をつんざくような銃声が響き、脳を揺さぶる耳鳴りが後に残った。

1秒

バーン…

リボルバーが彼の手から落ちて、地面に転がった。膝を突きながら、ハロルドはこれで終わりだと悟った。まさか合格できたはずがない。ハロルドは自分に微笑みかけた。影が死んだ今、合格できなくても何の問題も無い。これまで絶えず自分を疑っていたが、どうにかここまでやって来たじゃないか。仕事では昇進できなくても、自尊心は向上したのだ。

自分自身への勝利を噛み締めているハロルドの下へ、判定員が速度と迫力を増しながら歩み寄ってきた。彼はハロルドの肩に手を乗せ、もう一方の手でハロルドに昇進通達書を渡した。

「ナイスショット!」

説明: 第三薬室からの発砲時に正体不明の男性の声で「ナイスショット!」と叫ぶ1964年型スミス&ウェッソン製.41口径マグナムリボルバー。
回収日: ████-09-03
回収場所: アメリカ合衆国、カンザス州ウィチタ市
現状: サイト19の年代物武器保管庫に保管。
メモ: 異常性を除けば問題なく使用可能で、十分にメンテナンスされている。声は銃の扱いの上手さや狙いの正確さなど、それが実際に「ナイス」か否かに関係なく聞こえてくる。

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