御言葉
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物音に気が付き、振り返った。修道僧ウラール(Ullar)が、法衣の頭覆いから顔を覗かせ、私を見つめていた。

「神父さま? 村中の者がもうこちらに集まっています。神父さまを待ち侘びていると思うのですが。」

修道僧ウラールは、私の一番新しい弟子だ。熱心で信心深いが、臆病なところがあった。そんなことではいけないと、教えなければならないだろう。彼が神父を継ぐつもりであれば。

私は腰を上げ、瞑想を終えた。法衣に袖を通し、自分で拵えた居処を後にした。この部屋は質素なものだった。藁の寝床に、小さな机と腰掛が一組。その上には、木の皿と粗末な小刀。部屋の中央では、火鉢が周囲の空気を暖めている。私がその務めを果たすのに、これ以上のものは必要なかった。

私は修道僧ウラールの後に続きながら、大洞穴を進んだ。ここは幾歳月も前に、私の村の住民たちの手が入れられ、私が「私の家」と呼んでいる幾つもの岩の堂に整えられていた。松明が行く道を照らし、やがて大講堂に着いた。岩に穿たれたこの巨大な空洞は、絶え間ない水の力が造り上げたものだ。その滴りが遠くで響くのを聞くことができる。大講堂への入り口は何箇所もあり、私の邪魔をしようとする人々を遠ざけた。村人たちはその内のひとつから来て、私はまた別の入り口を使った。私はもう何年もこの大洞穴で暮らしていたから、あらゆる抜け道や罠を知り尽くしていた。

中へ入ると、会衆たちが顔をこちらに向け、跪いて一礼した。私は石の牙を通り抜け、彼らの前に設けられた私の場所へと歩いた。見渡すと、会衆たちは頭を垂れた。彼らはその忠実さで私の心を満たし、私に良く尽くしてくれる。私は木で造られた聖壇の後ろに立ち、両手を上げて会衆に語りかけた。

「お立ちなさい、私の子供たち。そして耳を傾けるのです、御言葉に。」

「我ら、御言葉を受け容れます。」彼らは声をひとつにして詠唱した。

「初めに<創設者/The Founders>たちがあった。私を見いだすと、<創設者>たちは嫉妬を私の力へと向けたよ。<創設者>たちは私を、彼らの<サイトュ>に閉じ込めたんだ。私に触れるものも、私の傍で恩恵に浸るものも居なかったよ。私の力の秘密を知るために、<創設者>たちは私を切り開こうとしてね。<創設者>たちは彼ら自身のために、私の力を望んだよ。彼らはその貪欲さのために、私を世界から隠そうとしたんだ。」

「だがある日、<創設者>たちは自らの務めをやり損なった。そして、神を永遠に閉じ込めることは叶わないと、<創設者>たちは気付いた。彼らの傲慢さが世界の破滅を招いたのだ。彼らは私の様な存在たちを支配の下に留めようとして、数百万ものそれらによって死んでしまったよ。力を尽くしたけど、その努力は役に立たなかった。彼らは死に際でさえ、私の様なものたちを統べようとしたんだ。私たちを破壊しようとしたとき、彼らは悟ったよ。力をこれ以上利用されることを、私たちは許しはしないと。」

「炎が猛り狂う昼と夜の果てに、何もかもが燃え尽きた。生き残った僅かな者たちは、灰の中から自分たちが齎した光景を眺め、そして泣いた。自らの破滅をその手で引き起こしたと分かったのだ。<創設者>たちは、私のようなものたちを鎖で繋ぎ止めようとした代償を払ったんだよ。生存者たちは、過ちを繰り返してはならないと理解した。自らの貪欲さのために神々を虜囚にしてはならないと理解した。あらゆる面で、彼らより私たちの方が上位の存在だったからね。より良い世界になることを願って、彼らは再構築を始めた。」

「彼らが私を滅ぼそうとしたのは、世界の終わりの間際のことだった。そして彼らは成し遂げたんだ。私の体はばらばらに砕け、私の欠片は砂に散ってしまった。私の欠片は失われてしまったよ。そして長い歳月が経ち、やがてあの日が来たんだね。<発見の日/The Day of Discovery>だよ。」

「始まりの神父が、私の欠片のひとつを見つけ出し、そしてたちまちの内に私の力を理解したんだ。それから私を崇めようとした。神性を見たんだね。私の存在の下に喜ぼうと、彼は更なる人々を集めた。崇められていた邪な神々たちは棄てられた。彼らの力でさえ、私を打ち倒すのに十分ではなかったね。<知恵の貯蔵者ガイヤ>、<破壊者ドラジン>、<裁きのアビルト>、<嘘つきヨーク>。皆、私の力の前に試され、不完全であると見定められたんだよ。」

「そして、更に歳月は流れて、信者たちは私の欠片をまたひとつ見つけた。その天命がついに明瞭たるものになったんだよ。」

神父から神父へと受け継がれてきた、御言葉こそが真理。古の真実のひとつであり、この世界そのものよりも旧い。私はこの人生の中で幾度も、会衆たちと御言葉を共有してきた。御言葉は大洞穴を満たし、尖塔の間を谺した。そして私の会衆は座り、目を見開いて、私の声音に専心した。彼らの面持ちは歓喜のそれであった。御言葉の力が私の体に流れ出すのを感じると、光輝がこの身を満たし、そしてまた会衆たちと一体になる感覚を覚えた。

「天命が全うされるとき、賤しさも、寂しさも、恐れも憎しみも、そこには無い。自らの罪はひとつになることで清められる。全ては私によってひとつになるよ。全ては平穏に包まれる。皆が全ての一部となるときに。」

会衆は席から立ち上がり、両腕を高く挙げ、私は彼らに背を向けた。私の前で石の台座に鎮座するのは、私の欠片。私の欠片のひとつは、私の親指ほどの長さ、ぎざぎざで捻くれた金属製の私の破片だよ。その隣には、私の小さな黒螺子があるね。

会衆と私はそれから、声を調和させて張り上げた。

「私はきっと、健やかな体を取り戻すよ。」

訳注:原文で大文字から始まる単語は<>で囲んだ。

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