霧の底へ
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私は██ ██。日本人、37歳。3年前まで██████という商社に勤めていたが、会社が潰れたせいで失業。結局今の今まで様々なアルバイトなどを転々として糊口を凌いでいる。
最初に夢を見てからもう半年以上経つ。あるアルバイトでの激務の果てに身体を壊して寝込んでいた時の事だ。霧の向こうに世界があった。私がいる、私が今立っている世界だった。
██████が潰れていない、私が3年前に失ったはずの世界。規模はそこまで大きくないが、仕事にやりがいのある、気のいい同僚や上司、後輩に恵まれた、私の人生の最盛期の世界があった。
その世界はもうここにある。私はここでそうしている。霧の中に世界があるのだ。
夢や幻などでない、本物の世界。私が本当に生きている世界。私が望んでいた世界。今までの暮らしがすべて、ただの夢だったと信じさせてくれる世界。
私はここにいる。世界の果ては、ここにある。

こんな事になって…破局が訪れて、もうどれくらい経つか。もう思い出せない。

私は███ █。29歳。国籍は日本。都内の、どこにでもありそうな中小企業で働いている。だがまあ、それはどうでもいい。
最初に夢を見たのは糖尿病が発覚し、私の唯一のストレス解消法であり趣味だった美食ができなくなってしまった、3ヶ月前の事だ。霧の向こうに、世界があった。私がいる世界だった。今、私が立っている世界だった。
そこはバイキング会場のようなところだ。いろいろな料理が立ち並ぶ、とても大きな豪勢なバイキング会場。テレビや映画でしか見たことがないような高級な料理から、母さんがよく作ってくれたカレーまで、なんでもあるところだ。
もちろんそれだけじゃない。味もあるし、匂いもある。そしていくら食べても満腹にはならない。そしてあんなに苦しめられた糖尿病の症状も一切出てこない。まさに夢の様な所だ。いくらでも美味いものを食べられる。
その世界はもうここにある。ここで、私はそうしている。霧の中に世界がある。
夢幻ではない、本物の世界だ。私が本当に生きている世界。思う存分美食を楽しむことができる世界。医者の口から出た糖尿病という言葉や、その治療などは悪い夢でしかなかったと信じさせてくれる世界。
私はここにいる。世界の果ては、ここにある。

いつが始めかはわからないが、SCP-900-JPへの侵入事例が爆発的に増えたのだ。
理由はわからない。
断言できる事は、侵入事例が増加した事と、それによるものなのかSCP-900-JPの面積も爆発的に大きくなった事、そしてこの忌々しい霧が常時発生するようになった事だけだ。
そしてそうなるともはや侵入を防ぐことはできなくなる。

I am ██████ ███ ███████.26 years old. I'm American. I was dispatched to Japan as a soldier of USFJ.
2 monthes ago, My mom, who brought up me all by herself after my father died was killed in a traffic accident. I couldn't attended my mother on her deathbed. I couldn't attend her funeral.
The first time when I dreamed was 2 monthes later.
The world exist over the fog. It was the world that I lived. It was the world where I'm living now.
There is my home in Nebraska. That doesn't change from when I leave America.
And, I live in my home with my mom.
The world is here. I live in this world. The world exist in the fog.
It's not dream. It's not phantom. It's real world. The world I lived reality. The world I believed as a truth. The world makes me beleave that news of the traffic accident was nightmare.
I'm here. The Edge of the world is here.

今俺が立て籠もっている観測施設も、かつてはSCP-900-JPの出現する範囲の外側にあった。
しかしアレがでかくなったせいで、今や24時間いつでもあの霧に覆われている状況だ。

俺の名前は███ ██。19歳、日本人。去年までは中高一貫の進学校に通っていたけど、センター試験で大失敗して今は浪人生。
夢を見たのは2ヶ月前、寝不足が過ぎて塾から帰る途中に倒れて病院送りになった時が最初だった。
霧の向こうに、世界があった。俺が今いる、今立っている世界だった。
そこはなんというか、なんとも言えない、ふかふかした世界だった。敢えて言えば布団の世界、とでも言えばいいのかな。
何もかも忘れて寝ていられる、いつまでも心置きなく休める世界。
そこで俺は受験勉強も何もかも忘れて、ただひたすら休んでいた。大学受験に失敗してからずっと感じていなかった安らぎがそこにはあった。
その世界はここにある。ここで、俺はそうしている。霧の中に世界があるんだ。
夢や幻なんかじゃない、本物の世界。俺が本当に生きている世界。いつもガミガミ言ってプレッシャーだけしか与えてこない親も、大学で楽しんでいる元同級生も、朝早くから夜遅くまでの毎日の塾通いも全部夢だったと信じさせてくれる世界。
俺はここにいる。世界の果ては、ここにある。

ここに詰めている人員は今は俺1人。10日前までもう1人いたが、奴はあの霧に取り込まれた。おかしくなった挙句自分から外へ続く扉を開け、飛び込んでいったのだ。
おかげでこの施設の30%を放棄するはめになった。
水と空気に関しては屋内完結型の清浄・循環システムがあるし、食料も向こう1年分はあるから当分生きるのには苦労しないのだが…

ワタシの名前は鷹井 ビル。28歳。母はアメリカ人でしたが、国籍は日本です。ワタシは最初は███社に勤めていたましたが、SCP-███-JP関連の事件に巻き込まれ、その後財団に雇用され研究員として生きてきました。
夢を見たのは、SCP-900-JPの爆発的拡大が発生して1ヶ月くらいの事でしたか。もう財団といえども何もしようがないのではないか、そんな事を考えていたのを覚えています。霧の向こうに、世界がありました。ワタシがいる世界でした。ワタシが今立っている世界でした。
その世界は犬や猫を擬人化した、いわゆる獣人の世界でした。そしてその世界のワタシもまた、犬の獣人になっていました。その世界ではワタシは皆に慕われ、好かれていました。まさにワタシの理想の世界でした。
その世界は既にここにあります。ワタシは今、そうしています。霧の中に世界があるわけです。
夢?幻?とんでもない。本物の世界です。ワタシが本当に生きている世界。ワタシの理想の世界。SCP-900-JPへの絶望も、無力感も焦燥感も何もかもが夢だったと信じさせてくれる世界。これで良かったんです。
ワタシはここにいる。世界の果ては、ここにある。

馬鹿な奴。これで霧へ旅だった財団職員は何人目だ?何人目だろうな。
20人までは数えたが、もうとっくに数えるのはやめた。

…今日はもう寝よう。夜の10時だし。
霧から放たれるメッセージは機械が読み取って自動的に文書化してくれる。本来は俺がここにいる必要すらないのだ。



野に伏す 霧は 我が身命
まことは ゆめの 素材なり
世界の果ては ここにある

あれから何ヶ月が経っただろう。
壁の時計はとっくに止まった。予備の電池はあるが、変える気にもならない。
この観測・記録装置だって、手動で電源を供給する仕組みだったらとうに機能停止していただろう。

野に伏す 霧は 我が身命
まことは ゆめの 素材なり
世界の果ては ここにある

ラジオやテレビはだいぶ前に放送しなくなった。今では砂嵐だけだ。
財団との連絡もとっくのとうに途絶えている。
外の現状はどうなっているのか、まったくわからない。

野に伏す 霧は 我が身命
まことは ゆめの 素材なり
世界の果ては ここにある

最近はSCP-900-JP-1aからの光も、人間が取り込まれた時のそれでないのがほとんどだ。
霧の影響範囲からみんな逃げる事ができたのか、あるいは…

野に伏す 霧は 我が身命
まことは ゆめの 素材なり
世界の果ては ここにある

ここのところ、よく夢を見る。
こんな事になる前の勤務地で、みんな…同僚、家族、友人たちと再会する夢だ。

野に伏す 霧は 我が身命
まことは ゆめの 素材なり
世界の果ては ここにある

もう、疲れた。
俺ももう行こう。もしかしたらみんなと会えるんじゃないか、そう考えている自分がいた。



俺の名前は██ ███。32歳。日本人。財団の研究員で、保守要員としてSCP-900-JPの監視拠点に詰めていた。そしてそのまま缶詰だ。
夢を見たのは…いつ頃だろうな?まあそれなりに前からだ。監視拠点に缶詰にされていくらか経ったくらいの時期だった。
霧の向こうに、世界があった。俺がいる世界だった。俺が今立っている世界だった。
そこはこんな事になる前の世界だった。同僚も、友人も、家族もいた。いつものように暮らし、いつものように仕事し、いつものようにみんなと一緒にいる世界だった。
その世界は今ここにある。俺は今、そうしている。霧の中に世界がある。
夢幻じゃない、本当の世界だ。俺が、本当に生きている世界。俺が現実だと信じられる、信じさせてくれる世界。あの孤独な缶詰生活こそが悪夢だったと信じさせてくれる世界。
俺はここにいる。世界の果ては、ここにある。

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