Trick or Treat
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おう坊主、かっこいい仮装してるじゃねえか。本当さ、顔にちょこちょこっと紐がくっついてるだけってのが逆にいいぜ、シンプルでよ。

……って、まあ芝居はいいか。ああ、そいつが本物だってのは知ってる。悪いが、ちょっと大人しくして俺についてきてもらえねえか? 助かるぜ。そこで話そう。

さて、話ってのは……おっと、そいつはやめとけ。無駄だ。お前がやったことに関しちゃ、よく調べさせてもらったからな。対策は講じてある。まあ、少し落ち着きな。こういうヤバそうな状況になったら、まずは相手の素性を確かめてみるのがいいと思うぜ。

俺はな、ある組織のメンバーだ。超自然的な能力を持つ物とか人間とかを封じ込める活動をしてる組織のな。そうだ、お前みたいな人間をだ。……わかってる。余計なお世話だろうがな。

逃げるのはよしな。逃げたきゃ逃げてもいいが、そうしたらこの銃の出番ってことになる。死にはしねえが、次に目が覚めるときは死ぬほど強烈な頭痛を覚悟してもらわないといけねえ。馬だってお寝んねするって代物だからな、馬より死ぬほど体重の少ないお前にはきついぜ。

それでだ、俺がここに来たのはな、噂が本当かどうか、お前についての報告が正しいかどうか確かめるためだ。お前の居場所は何日か前に突き止めてたんだが、お前が表に出てくる日を待ったほうがいいと思ってな。

俺も昔からハロウィーンは好きだった。この日はどんな顔にだってなれる。俺もお前も顔に問題抱えてるのは同じだからな、マスクをつけるのが楽しみだって気持ちはわかるぜ。年に一度だけ、堂々とパーティーに繰り出せる日だもんな。

ともかくだ、俺たちはこの機会を待ってた。お前が確保しやすい場所に出てきてくれるチャンスをな。この場の状況は俺の仲間が監視してる。これからすぐにお前をバンに乗せて、新しい家に送り届けてやるって手はずだ。

ああ、勝手な話だよな。俺もそう思う。お前の言う通りだよ。本当なら、こんなことをせずにみんな平和に暮らせりゃ、それが一番いい。だけど俺もお前も、何の因果かこんな正義もクソもねえ世界に生まれついちまったんだ。俺たちはせめて、自分にできる一番マシなことをするしかねえのさ。

お前のママのことか。すまねえが坊主、別れの挨拶をさせてやるわけにはいかねえ。他の奴に頼んでちゃんと事情は伝えるから、そこまで心配させることにはならねえさ。……本当を言うとな、お前のママは色々と忘れちまうことになる。俺たちの組織はそういうこともするんだ。だが、危ない目には遭わせねえよ。それは約束する。おい、いいか、よく聞けよ。俺たちはお前を連れていく。かわりに、お前のママには一生楽に暮らせるだけの金を渡す。そういう条件でお前は納得した。そうだな? そういうことにしとけ。そう報告すりゃ、上は納得するんだよ。これからまずお前が覚えなきゃいけないことはな、組織に敵対的なスキップよりも、協力的な奴のほうがずっとマシな暮らしができるってことだ。上の連中がお前を連れていくと決めた以上、そこは覆せねえがな、そんなに思いつめることはねえ。上も馬鹿じゃねえからな、模範的な態度ってのを示してりゃ、それなりの報いはあるんだ。

残念だが坊主、お前を逃がしてやるってのは無理だ。もう後には戻れねえんだよ。ああ、誰にも危害を加えるつもりはないってんだろ。信じるよ。だけどな、俺たちの他にも色んな組織があるんだ。お前を閉じ込めるんじゃなくて殺そうとしてる奴らとか、もっとひどいのになると、お前を兵器として利用したがってる連中とかがな。そういう奴らは、お前を使って人を傷つけようとするだろう。これまでもそういうことは実際にあった。それだけじゃなく、お前を手に入れるために誰かを傷つけようともするだろう。例えば、お前のママとかをだ。

……この世界にはな、危ないものが山ほどあるんだ。危ない奴らもいる。世界を滅ぼしかねないような危ない道具もある。そういうものを俺は見てきた。どいつもこいつも一筋縄じゃいかねえ。中にはいいものや役に立つものもあるが、俺でさえ死ぬほど恐ろしいと思うものもある。俺でさえだぜ。いつ人を殺すかわからねえ道具がたくさんある。一方で、人間の味方になってくれるだろう奴らもいる。

お前の味方になってくれる奴はいないって? そうだな……だけど、一つ覚えとくといい。何かまずいことがあったり、あまりひどいことをされたりしたら、警備の奴に伝言を頼め。「マックス・ロンバルディに伝えてくれ」ってな。俺には大したことはできねえが、大したことができる奴に事情を伝えて文句を言ってやるくらいはできるかもしれねえ。保証はできねえけどな。何でもかんでも思い通りにやれる奴なんていやしねえ。俺たちはみんな、自分にできる一番マシなことをするしかねえんだ。

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