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シビア(Severe)博士は眠い目をこすり、次の職員を呼び出した。先の事故に関する話を聞いた職員はこれで19人目になる。

11人が死亡、負傷者はその倍、損害額は9億米ドルにのぼっていた。そして19人のうちにSCP-9017がどのようにして封じ込めを破りおおせたのか説明できる者は誰一人としていなかった。エージェントに研究員、エンジニアに技術職員、果ては清掃員にまで聞き込みを行ったが、封じ込め用の特製電場フィールドを一万年生きた雷撃のバケモノがどうやって潜り抜けたのか、答えられる者は誰もいなかった。

やっかいなことに、調べられる限りではシステムに異常は見られなかった、ということもシビア博士を悩ませていた。電場フィールドの配線はまったくの無傷で、発電装置は通常通り稼働中、冷却装置も完璧に動作していた。SCP-9017が脱走するその瞬間まで、少なくとも数値上では何もかもが正常に動いていたのだ。通常であれば取扱方に欠陥があったと見るべきだろう。しかし9017は今まで何年もの間このシステムを用いて封じ込めが維持され続けており、最捕獲後にも同じシステムで収容されている。プロトコルに欠陥があるとは考えられない。

シビア博士は溜め息をつき、次のインタビュー対象者が入ってくるのを見て立ち上がった。彼はジョナサン・ブレイク(Jonathan Blake)と名乗った。シビア博士は人事ファイルにざっと目を通した:24歳のコーカソイド男性、元陸軍歩兵、クラス1技術職員、財団勤務歴4ヶ月、他のKeter任務経験なし。ブレイクが封じ込め違反の日に初めて9017に任命されていたことを確認し、シビア博士の眉がぴくりと上がった。

「座ってくれ。」シビア博士はブレイクに席に着くよう促した。

「イエス・サー、有難う御座います、サー。」博士のデスクの向かいの椅子にこわばった様子で腰かけ、神経質な様子でブレイクが答えた。

「ブレイク、リラックスしてくれるかな。ここは軍隊じゃないし君が何か問題を起こしたってわけでもない。9017が檻から脱走したときに一体何が起こっていたのか調べているだけだから。それじゃまず、あの日何が起こったのかを、勤務開始の時点から話してもらおうか。」

「イエス・サー、かしこまりました、サー。」ブレイクは話し出した。「私はマルハチマルマルに持ち場に就き、各温度計を確認してすべてが正常に動作していることを確かめました。次に……」

「なんだって?」シビア博士が言葉を遮る。

「なん……なんでしょうか?」ブレイクはどもりつつ聞き返した。

「すべてが正常に動いていたって?」シビア博士は簡潔に問い直した。

「イ…イエス・サー、数値はいずれも正常でした。すべての温度は4.0K以下でした。サー。」

「よろしい。続けてくれ。」この答えはシビア博士の予想の通りだった。他の技術職員2人の証言もこれを裏付けている。

「えー、その後監視ステーションに戻り、発電ステーションCの温度がやや高くなっているのを確認、標準プロトコルに従ってバックアップステーションLを起動すべく移動しました。」

シビア博士はうなずいて先を促した。発電ステーションは定期的に過熱するため、各ステーションにはクールダウンの時間を稼ぐための切り替え用バックアップが用意されているのだ。

「バックアップステーションに到着後、ステーションCをオフに切り替えてから持ち場に戻りました。そのおよそ15分後、9017が脱走しました。」

「封じ込めを違反した、な。」シビア博士はやや上の空気味に訂正した。「バックアップステーションに何か異常はなかったか?目に見える損傷とか、異常な数値とか、そういうものは?」

「見ておりません、サー。すべての機器は正常に働いており、電流はきっかり3ミリアンペア、電圧は……」

「待て、なんだと?」シビア博士は慌てて聞き返した。「いま君は3ミリアンペアと言ったか?」

「イエス・サー、発電ステーションの掲示どおり3ミリアンペアに設定いたしました。」ブレイクは戸惑った様子で答えた。

胸に嫌な予感が広がってくるのを感じつつ、シビア博士は紙切れを1枚取って「5km」と書き込み、ブレイクに見せた。

「これになんと書いてあるかね?」シビア博士が問いかけた。

「は、五キロメートルです、サー。」まだ戸惑った様子でブレイクが答えた。

次の数字を書き込む、今度は「12nm」だ。

「これは?」

「十二ナノメートルです、サー。」

最後に「1Mm」と書き、ブレイクに突きつけた。

「一ミリメートルです、サー。」ブレイクはこの奇妙なゲームへの当惑と疑問を浮かべてシビア博士を見上げた。

シビア博士はヘルメットを脱いでブレイクを殴りつける衝動を数秒かけて抑え込み、どうにか言葉で答えた。「違う、違うんだブレイク、これは一ミリメートルじゃない。一ミリメートルは0.001メートルだ。君に今見せたのは一メガメートル、1,000,000メートルのことだ。」

ブレイクが理解したことは表情から読み取れた。「それ……私が……申し訳ありませんサー、大文字小文字に意味があるとは考えたことがありませんでした。その……そのミスがSCP-9017の脱……封じ込め違反につながったと、お考えで?」

この質問はすべきではなかった。「それが関係していると私が考えたかって、ブレイク?何かつながりがあると考えたのかだって?お前はSCP-9017の封じ込めに必要な量を9ケタも下回る電流を流していたんだぞ!答えろ、どんな風に関係していたと考えられるか!?」

答えるより先にシビア博士が遮った。「いや。いい。ああ……出て行け。処分は追って知らせる。」

がっくりと肩を落としたジョナサン・ブレイクが退室し、シビア博士は溜め息をついた。9億ドルの資金と11の人命、たった一人が単位を読み間違えただけでそれらが失われた。「NASA。」シビア博士が吐き出すようにつぶやく。「君たちの損害なんて大したことなかったよ。」

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