名前の無いファイル
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ファイル名: 未記入

ファイル作成者: サイト81██管理官 石破博士
作成日:  2024/03/01 08:49
最終更新: 更新中


名前の無いファイル













That's All.


2024/03/14 07:52

 ──弾切れが近い。すぐに補充しないと丸腰になる。SCP-233-JP-3実体の死体で運動場出入り口に防御壁を構成し、すぐに二階へと移動した。


「石破さん!こっちに!」


 ハウンド4の声に誘導され、何かが破れるような轟音を背中に受けながら死に物狂いで二階に駆け上がり、自動防壁を降ろした。武器弾薬の補充を一瞬で済ませ、すぐにこのサイトの地下シェルターに向かう。ハウンド2とハウンド3が先行して食料を輸送している最中だ。

 もう四日ほど前からあれと戦い続けている。数は減るどころか寧ろ増えるばかりで、サイトをぐるりと一周囲う迎撃システムも今日の明け方に全滅した。防壁は突破され、東棟の一階部分は占領されている。装甲車で逃げ切れる数でもない。それこそ自殺行為だ。ここから出てはいけない。

 ああ、何であの日シェルターから出たんだろうか。

 あの日、自分を押し殺して、踏みとどまっていれば、“ヴァイトマン”は死ななかった。こんな最後を迎えなかった。

 これから私は死ぬ。確実に死ぬ。

 死にたくない。しかし死ぬ。避けることができない運命なんだ。

 だからせめて、あの日外の世界へ一歩踏み出した自分のように、最後に、最期に、「暇潰しのネタ」を探そう。退屈と孤独の中で死にかけていた自分はもういない。死の瞬間までそれを探す。


「……ハウンド2とハウンド3のバイタルサインが停止。多分地下シェルターはダメです。駐車場は占拠されているため脱出も不可能です。」

「畜生、ここまでか。石破さん、俺なら外壁を伝って別のエリアにアクセスすることが可能だ。何かやれるはずだから、まだ粘ってみようぜ。」

「それはだめ。あのカエルは速すぎるし壁も上る。ハキムでも追いつかれる。」

「じゃあどうしろってんだよ。他に何かできんのかよ。」

「……私の拳銃、二発残すから好きに使って。」

「……ふざけんなよ。何ヘルメット取ってるんだ馬鹿。よせ!」

「まずはそれで私を殺して」

「コーフィー! 石破さん、彼女を──」

 ──目の前で壮絶なドラマを繰り広げる彼らに、私は軽く微笑み、そして頭ではなく、心の底から湧き出る、私ですら予期していなかった声をぶつけた。


「ミサイル」


さっきまでの争いは嘘のように止まった。


「ミサイル撃ってみませんか?」

「……は?」

「石破さん?」


 二人の間に転がっていた拳銃を窓から投げ捨て、自分でもびっくりするような笑顔で再度問いかける。


「ミサイル、撃ってみませんか?4000発、この基地に眠っているやつ全部。楽しいですよ。きっと。」


 ハキムは口を開けたまま立ち尽くしていたが、ハウンド4はちょっと沈黙したあとにまぶしい笑顔を見せてくれた。


「……やります!」

「石破さん? コーフィー? あんたら何を……」


 ハウンド4と共に五階中央管制施設へと走り出した。ハキムはしばらく棒立ちしたあとに慌てて追随する。

 最後の最後まで持っていた私の職員証を提示し、クリアランスレベル4権限でサイトの武装システムにアクセス。全ミサイルを発射可能体制に移行する。

 もはや「確保、収容、保護」などというふざけた理念も、私が人生を費やしてきた信念も必要ない。職員証も、白衣も、部屋の片隅に転がっていたゴミ箱に叩き込んで、日本全土に均等にミサイルをお届けすべくデタラメに攻撃座標を設定した。部屋一面に位置する発射ボタンが一斉に点滅する。

 私はこれから死ぬ。

 世界はこれから滅び行く。

 こんな世界のために、私は全てを捨てて生きてきた。

 だから最後の最後くらい

 大儀も責務も、全部捨てて

 やりたいことをやろう。


「押せェッ!」


 三人で片っ端から発射ボタンを叩き、叩き、叩き、叩ききって、管制室を揺るがす轟音から逃げるかのごとく、すぐに屋上に向かう。

 ──今日も今日とて空は青く、美しく、見上げれば短距離、中距離、長距離、弾道弾、対地、対空、対艦、ありとあらゆる種類のミサイルが、4000発、大空へと舞い上がっている。私の背後から、左右から、目の前から、眩く光るそれが一斉に羽ばたいて行く。もう音が聞こえない。何も聞こえない。後ろの笑い声は何かに消されて届かない。

無数の光が、私だけを照らしている。

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