異常音楽
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店の屋根に掲げられたその看板は「Jive Kat’s Funky Disco Beats」と読むべきなのだろうが、文字が四つ落ちてしまって「Jiv at’s Fun y Disco Bats」になっていた。色ガラスの窓は幾度も割れて交換されており、上からポスターが貼られている。歩道はガラスの破片とタバコの吸殻の繁殖場だ。壁を背にしてズタボロのジャケットを被った泥だらけの男が寝ていた。

小さな黒い車が止まった。痩せこけたブロンドヘアの男と煙草をふかした浅黒い肌の女が下りる。二人ともスーツ姿だ。女は大きく一息煙を吸い込み、肥大化し続ける歩道のゴミ山に弾き飛ばした。彼女は扉を叩き、数歩下がって待った。ドアが開く。立っているのは身長6フィートほどある汗びっしょりの太った男だ。髪は黒く、目の下に隈ができていた。左胸の名札には「ジョン」と書いてある。

「何かお探しで?」と彼は言った。

浅黒い肌の女はジャケットから革の財布を取り出し、それを開く。「私はサブリナ・マークス」そう言って親指で後ろのパートナーを指した。「こっちはアイザック、FBIの異常事件課です」

「じゃあな」そう言ってジョンはドアを閉めようとした。サブリナの手がしなり、ドアを掴んだ。

「5分でいいんです」

ジョンは顔をしかめた。「閉店でね。また来てくれ」

「今が一番いい時間なもので」

しかめっ面が険しくなる。「それなら二番目の時に来るこったな」彼の肩がドアの向こうで震えるが、ドアは動かない。

サブリナは溜息を吐いた。「勿論お金は出すわ。100ドル、店の中を10分見せてもらって幾つか質問するだけよ」

彼は下唇を噛んだ。「150ドル」

「125」

ドアが開き、ジョンが道に出てきた。「10分だ、そしたら出て行きな」

サブリナは頷いて中に入った。アイザックがそれに続き、称賛の口笛を鳴らす。「わお、悪くないな」彼は言った。「ゴミ溜めかと思ってたぜ」ジョンは彼に悪意に満ちた眼差しを向けた。

店は外から見るより随分と広く、奥に50フィートはあった。レコード、CD、DVD、そしてTシャツの色とりどりな通路が並んでいる。真っ白な壁はバンドのポスターで覆われていた。ドアの側のカウンターの裏では、破れたジーンズとU2のTシャツを着た若い細身の黒人男性が眠っている。ジョンはすれ違いざまに彼を強く叩いた。「マイク、もしまた寝てるのを見つけたらクビだからな」マイクは会釈し、椅子に腰を下ろすとまた寝始めた。ジョンはカウンターに寄りかかって言う。「そうかよ、じゃあ俺の店で何してんだ?」

アイザックはサブリナに頷き、通路の中に消えた。サブリナはジャケットからノートを取り出してさっと開いた。「勘違いじゃなければここでミランダ・ドールという女性が働いていましたよね?」

ジョンは頷く。「数週間前に辞めたよ」

「じゃあどうして私達が来たのかは分かります?」

彼は話しながら、カウンターからバンドのノベルティのペンを一本取り、指の間で回している。「ミランダはレコード達が話しかけてきたって言ったんだ。そして俺みたいな一般人には理解できない理由でFBIはそいつを調べる価値があると思うだろうってな。俺が思うに、そいつは現政権のでかいスキャンダルか何かの事だな」

サブリナはノートに何やらメモした。「じゃあレコードが喋ったっていうのは信じていない?」

「ああ、レコードが喋るなんて信じるかよ。そんな事あるはずないだろ?」

「そうですね」サブリナがマイクの肩を叩くとマイクは目を開いた。「あなたは喋るレコードがあるって信じます?」

彼は肩をすくめた。「さあね」

「なるほど」彼女はジョンの方に向き直った。「彼女が言っていた事を詳しく話していただけますか?」

「それで気が済むなら。ええと、4週間前の事だ。ミランダはこの店に勤めて3週間くらいで、いい仕事ぶりだった。客にも親切で、覚えてる限り苦情がきた事は一度も無かった。ところが急に仕事中にマジで怯えるようになっていったんだ。例えば話しかけようとすると跳び上がるとか、わざわざ店のある区画を避けるとか。ロックの棚から何かを取ってくるように言うとヒップホップの棚を通らずにクラシックの棚から迂回するんだ。ちょっとイライラしたね。分かってくれるだろうが、私生活で何か良くない事があったんじゃないかと思って心配になったんだ。数日後に彼女を引っ張ってきて、どうしたのか尋ねてみた。何か困ってるなら助けてやるとも言った。あいつは黙っちまった。話したくないみたいで、冷たい感じになったよ。そしてそのまま何も言わずに出て行っちまった。本当に心配してるんだ。言うまでもないけどな」

「次の日、俺はもう一度あいつを連れ出した。そして言った。『よく見ろ、俺は君の上司だ。君の仕事に影響が出かねないような問題があるなら知っとかなきゃならないんだ』ってな。そしたらあいつは咽び泣き始めて、何枚かのレコードが話しかけてくるって話を始めた。ご想像通り、こいつは俺が思ってたのとは随分違う話だ。何を言ったらいいか分からない。畜生、俺は固まっちまったんだ。一体どんな反応をすりゃ良かったってんだ?で、あいつはそれをよく思わなかった。叫びだしたよ。俺が信じないのは分かってたってことに、俺がこの話をしないように願ってたってこと、そして自分の言い分が狂ってるのも分かってるってこと。あいつは走って行っちまって、それから姿を見ていない」彼はカウンターにペンを戻し、腕を組んだ。「これで全部さ」

「ふーむ」サブリナは言った。「分かりました」

「だろうな」

「サブリナ!」通路の一つでアイザックが呼んでいる。「これを見てくれよ」

サブリナは微笑んだ。「ちょっと失礼します」彼女はアイザックのいる通路へ向かった。アイザックは中指で36チャンバーズの色あせたアルバムを抱えている。「何か見つけたの?」

彼は頷いた。「俺たちのミランダはまともだったようだぜ」彼はアルバムを中指で弾いた。何も起こらない。サブリナは眉をひそめた。

「素晴らしいわね」

「待て待て、さっきは上手くいったんだ」彼はレコードを強く弾いた。やはり何も起こらない。彼はレコードを両手で掴んで言った。「ぶっ壊してやる」ゆっくりとレコードを曲げ始める。

「分かった、分かったよ!くそ!」レコードから声がした。「何が望みだ?」

アイザックはにっこりと笑う。「よう、36チャンバーズさんよ。俺のガールフレンドに挨拶してくんな」サブリナは呆れてぐるりと目を回した。

「36チャンバーズじゃねえよ。大バカ野郎。俺はコーンウォーラスだ」レコードは言った。

「よろしくね、コーンウォーラスさん」サブリナはそう言ってノートに目を通した。「この店で喋れるレコードはあなただけ?それともやっぱりミーンタイムとブロークンのレコードも喋れるの?」

「言うもんか」とコーンウォーラス。アイザックが再びレコードを曲げ始める。「分かったよ、クソが!このキチガイ人間め。そうだ、そいつらも喋れる。喋った事は無いけどな」

「お前らは何者なんだ?」

レコードの声が卓越した旋律を奏でた。「レモリアン1だよ、もちろん」

「10分経ったぞ!」ジョンが言った。「出て行ってくれ」

アイザックはまたレコードを弾いた。「どうしたらいいか分かるんなら黙っとくんだな」そしてジョンに言う。「もう一分!ちょっとレコードが要るもんでね」彼はコーンウォーラスをサブリナに手渡し、メタルの棚へ走り去っていく。サブリナは仏頂面のジョンの元へ戻った。

「必要なもんは揃ったか?」彼は冷笑した。

「ええ」サブリナは言った。アイザックが二枚のレコードを持って戻ってきた。

「これでいくらだい?」彼は尋ねた。

ジョンはレジに歩く。「20ドルと23セント」彼は歯を剥き出しにして笑った。「それと125ドルだ」

サブリナが金を手渡し、二人のエージェントは歩き去った。アイザックが笑う。「UIUに1点」彼は拳を差し出した。サブリナは溜息を吐き、拳を突き合わせた。

「もしも私が君なら」後ろから声がした。「その勘定はまだやめておくがね」二人は振り向いた。ホームレスの男が立ち上がる。彼は肩の埃を払い、手を出した。「レコードを渡してくれないか」

「てめえ何者だ?」アイザックが言う。彼はレコードを脇に抱え込んだ。

「誰だと思う?」男は言った。「連合だよ。これは我々の任務だ。レコードを渡せ」

「ふざけんな」アイザックは言った。「金だって払った。俺たちが全部やったんだ」

「君らは連合の仕事を邪魔した」彼はジャケットから5枚の100ドル紙幣を取り出し、アイザックに放った。「そら、報酬だ。受け取って貴様らの小さなクラブハウスに帰れ」

アイザックは一歩踏み出した。「なんだと?」

「アイザック」サブリナが彼の肩に手を置いた。「レコードを渡して」

アイザックは唸り、レコードを男に差し出した。その中の一枚が呻く。「あいたっ!」

男は微笑むと嘲るように手を振って鼻歌を歌いながら去って行った。アイザックは吠え、壁を蹴りつけた。「クソ!こんなのデタラメだ。俺達がやったんだぞ!ああジョシュアの言う通りさ。俺はもうあいつらが脚光を浴びるのを座って見てるだけだなんてうんざりだ」

「アイザック。落ち着きなさい」サブリナは言った。「こうなるのを予想してなかった訳じゃないでしょ」

「ああ、予想だとこんなんじゃなかったけどな!何てこった!」彼は乱暴にドアを開けた。「帰ろうぜ」

「きっとこれで良かったのよ」

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