クレフがワッフる
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クレフの見ていた夢は、彼の眼の前で目覚ましが絶叫したために打ち壊された。
薄眼を開けて、のそのそと目覚ましを手探りして止めた。
今日も、また午前5時スタートだ。
クレフは、また暖かい布団から出ようともがいた。

「だまれ……」
クレフは愚痴をこぼす。まだ目覚ましのスヌーズボタンを見つけられずに、四苦八苦していた。
挙げ句の果てに、クレフは時計を床に叩きつけた。
目覚ましはビーっという断末魔のビープを鳴らして、その持ち主といえばこの音を聞いて喜ばしい唸り声をあげた。
だが、この目がとろんとした男はまだ暖かいお布団の中から出られなかった。
それでも、クレフは起きなければならない。

今日は特別な日だ。

今日はワッフル・デイだ。彼が大好きな朝食を抜く可能性なんてありっこない、まさか。

クレフはゆっくりと体を起こして、腕のストレッチをして、腰の骨を鳴らしてから起きあがった。
部屋中に雑多な衣料品や、役に立たない書類がばらまかれていた。
この部屋の惨状は、もはや普通となっていたが、若干の罪悪感を感じていた。

しかし、そんな考えは部屋を出ると、たちまち吹き去ってしまった。
クレフは小さなキッチンまでとぼとぼと歩いて行った。

今こそはワッフル・タイム。
床のしっちゃかめっちゃかに、ふくれっ面を浮かべている暇なんざ無い。
たとえそれが、どれほど最悪であろうとも……

クレフは水棚を開けた。
少なくとも5パックほどのワッフルが棚の中に用意してあるのを見つけると、チェシャ猫のような笑みがクレフの顔面に満ちた。
パックを引き抜いて、封を開けたときに、うっかり床に一個を落としてしまった。
「うーぷ ── 5秒ルール。」
と、甲高い声で言うと、ゆっくりかがんで、落ちたるワッフルの同志をお迎えして、青いパジャマで拭った。

トースターへ、ワッフルたちを。
1パック分のワッフル4つ全部を、床に落ちたワッフル付きで。
クレフはトースターの前の小さなレバーを押し下げる。トースターは火にかけられた。
調理完了までの間、クレフはどこにも行かなかった。
トースターから出ずる香りすらも愛おしい、ワッフルはどんどんホカホカになるのだ。

数秒後、
ポップ!
トースターからお出まし。
クレフは少しビクッとしたものの、それを笑い飛ばした。
「バーカ、トースター。」
などぶつくさ言っているが、まだ完全に目が覚めていない。
だが、ついに、ワッフルが用意できた!

彼は別の戸棚から、プレートを掴んでくると、トースターのワッフルを引き抜いた。この間に指先がどれほど火傷しようがお構い無しだった。

ぽとん!

プレートの上に、順々に積み上げられたるは誇り高きワッフル・タワー。

そのオヤジはソファーに飛び込んだ。
メープルシロップの瓶がコーヒーテーブルに置かれていた。昨晩に用意していたものだ。
クレフは瓶を掴んで、ワッフルの上にシロップを絞り振った。

やっと、クレフはワッフルを食べるのだ。
素敵な、生産的な日の始まりは、黄金色のワッフルから。
ナイフもフォークも知らんぷり。ナイフにしろフォークにしろ汚いシンク(それとも床)にとっ散らかっている。
シロップに覆われたワッフルをただの手で取って、さあ食おう食おう。
パジャマに滴ったシロップはすぐに、ワッフルのかけらですくい上げよう。


「そしてもちろん、私はとっても沢山のシロップをパジャマにこぼしてしまったから、ゆーーっくりそれを拭き取らなければならなくて──。」

O5-8が話を遮った。
「あなたの話を聞くことで、柔らかくて、吊り下がっているものをエロチックに固化させようとすることは魅力的かもしれませんが、私たちは直面している問題に戻らなければならないと思うのです。もう一度お尋ねします、今度は”ワッフル・タイム”での話は無しですよ。八日、サイトを去ってから、60時間以上何をしていたのですか?」

でたらめを言う力が及ば無いとクレフは感じ取ったが、もう一度だけ試してみた。
「あー、それは神秘と不思議に満ちた驚くべき話で、私をそれを『シッティング卿が子供をプールに落とした』と呼んで──。」

クレフは、上司の唇がかなり細くなったのを見て、ひるんだ。

「それではなぜ、ニュージャージー州のアトランティック・シティーのかなりの箇所、それもカジノを含んで、しかも偶然にも君のクレジットカード履歴がサイトに残されているカジノなどが、火事になったんだね?」

クレフは深く飲み込んだ。
「私は、これがぼんやりと仕事に関連していると約束することができます。」

「その”仕事”とやらは、君のデスクの”マイ・マスター・ギャンブル・プラン”とラベルが付いていた文章に関連はあるかね?」
O5-8は前もって用意していた手段を取り出した。その時、クレフの口はぽかんと広がっていた。
「いや、十分だな。私の見解としては、君のサイト66責任者としての任務の著しい不履行に関して、規則上、君が置かれる立場は──。」

O5の言葉は遮られた。
クレフがワッフルを研究室コートから取り出したのだった。
既に半分ほど乾燥したシロップに覆われ、クレフのポケットにシミをつけていた。神のみぞしるらむワッフルは取り出されにけり。
O5とワッフルを食べ始めたクレフの間の沈黙には、咀嚼音のみ。

O5-8はようやく話し出した。
「以下の規則は──。」

O5の言葉は遮られた。
クレフはひからびたワッフルをゆっくりと食べながら、ガンをつけてきたのだ。
O5-8はこのような時間に対する寛容さを持ち合わせていなかった。
「出ろ。」
彼はクレフの鼻柱をつまみながら、きっぱり言い放った。
「出て行ってくれるかね、クレフ。」

クレフはまだワッフルで目一杯の口でニヤリと笑い、歯を食いしばった。クレフは食いさしのワッフルをO5-8の机にある種の置き土産のように置いて、ちょっとしたスキップでオフィスから歩み出ていった……。

……そして別のポケットから、別のワッフル。

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