おまえは誰だ?
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プリシラ・ロックは背が高くすらっとした、おそらく30代前半の女だった。無愛想で超然とした表情は、一組の鮮明な影の背後に隠されたままだった。黒いバンを降りる仕草は、訓練され、均整のとれた傲慢に近い無関心だった。癒し手や学者というよりは戦士のそれに近い、シンプルだが機能的な野外服と巨大なバックパック。彼女は自分で戦闘に対処できるだろう、フランクは思った。

彼はまた、灰色のTシャツの上から着たセピア色のフィールドベストの中で目立つ、彼女を国連の監査代表であると示している白いシンボルに気付いた。

比較的顕著ではないが明らかに視認可能な国連のシンボルの下には、世界超保健機関(World Parahealth Organisation)のイニシャルのついたIDカードがぶら下がっていた。それらは2匹の絡みつく蛇と半分の月桂冠のあるシンボリックな国連の半球図を伴っていた。控え目だが、決して見間違うことのないWPhOの象徴。

GOCチームの茶色に茶色の制服を着た男2人が彼女に付き添っていた。両方が鷹のような目つきで辺りを見渡した。フランクには少なくとも、赤新月のボランティアの服装をした3人目に心当たりがあった。その男の体はキャンプに来るのに用いたバンの近くで、寛ぎながらも油断のない姿勢で休んでいた。好都合な点としては、MCF国際評議会により丁重に要求された通りに、彼らはキャンプの制限内にある明らかな武器を一切見せびらかしていなかった。

しかしながら連合の工作員であることだけで、彼らがそれらを衣服の下に隠し持っていることを意味していた。

フランクは顔をしかめた。彼はしばらくあの女がただの監査人だとは信じなかった。

「ようこそ、代表!」

サラは監査人の元へ急ぎ、同僚のecSecがその真後ろに続いた。他の役員全員が地域にワークグループが配備していた少数の資産を移送する支度をし、モバイルストレージユニットを展開できるようにしている間、サラ―彼らの上司―は到着時間までにはもう用意ができていた唯一の存在だった。フランクはこのとき彼女が当時かなり孤独を感じているのではないかと推測した。

彼女はナーバスに代表と握手した。「ここまでの旅が素敵だったら幸いです」

「あなたがサラですね」彼女は言った。彼女の声は乾いた、厳粛な一本調子だった。

「そうです!」彼女は陽気な抑揚をつけた。「でもオパールとでも、サラとでも、ドクター・デジューとでも、デジューでもオーパライン(Opaline)でもなんでも、好きなように呼んでください、問題あり・ません!」

フランクは束の間目を閉じ、視線を逸らした。サラはあまりにも大半の社会的習慣からかけ離れている傾向がありすぎて、フランクは頻繁に、何故彼女がこんなにも愛されているのか不思議に思っていた。現に、彼には彼女がどうやって初対面の人間全員に不快な低能として受け取られないでいるのか疑問だった。あの歌う声は確実に彼にとっての懸念事項だった。

代表が苛立っているのを期待して、彼は意を決して見てみることにした。あるいはより悪く、あるべき礼儀作法のこのような不履行に立腹しているかだ。

彼は代表の表情に変化を見て取ることができなかった。彼女の顔は未だ石から彫りだされたかのようだった。

おおっと、俺はデジューの対極に出会うとは予想もしていなかったぞ―

「ああ、その通りです、フランク! フランク、こちらプリシラ」フランクは彼女が現実に両手を動かしているのに気付いた。「プリシラ、こちらフランク。フランク・ウェスティングハウスは慈善財団版の警備員、ecSecね!」

「結構です」女は突如退いた。「彼のことは知っています。それと私のことはただロックと呼んでもらって結構です」

明らかにこんな露骨な反発に驚かされた様子で、サラは代表を見つめた。彼女の顔は未だ石像のようだった。そして我に返り始めたサラは、間違いなくクレバーで不快な反論を試みるだろう。

もしフランクが状況を正確に読んだなら、彼女らはそうはできない。「ええと、とにかく」彼は手を前に出して素早く介入した。「私のことはフランクと」

「貴方が私のボディーガード?」

「ボディーガードというのはちょっと言いすぎかもしれませんね。エスコートとか?」

「申し訳ないけれど、私の予算外です、それにいずれにせよ貴方は私のタイプじゃありませんね」1

「ハッ!」

両者はオパールを見た。彼女は息を切らしてむなしくも哄笑を試みていた。その代わりに、彼女はどもり始めた。

「う―うまい!」興に乗った自分自身を喉に詰まらせぬよう、フランクは心配してサラの背中を擦った。「ほんとに、ほんとに面白い―!」

代表は彼女にこれ以上時間を浪費しなかった。

「貴方とできる限り早く話をしなければなりません。対処すべき潜在的な保安上の懸念があります」

ああ、今度は今以上の保安上の懸念か?

「オパール、ちょっと……ちょっとだけテントの方に戻ってくれ、な?」

「オーウあなた、ご―ご―御丁重にどうも」フランクはジゴロジョークの気配を感じた。彼は手を挙げ、4日前に通訳兼訓練生として雇った若いソマリア人ボランティアであるユースフ(Yusuf)に合図した。彼が近づいてくる間、オパールは話し続けようとした。「や―優しくしてね―ね―ね―」

「ユースフ頼む、息が整うまで彼女をピックアップのところまで連れて行っててもらえないか」

「分かりました、フランク」彼は言った。「もうすぐ出発ですね!」

「心配するな、そのうち行くさ、ただピックアップの1台に彼女を連れて行っておいてくれ。サラ、ラスアノドで会おう!」

彼は最初の笑いの発作のせいで単語を1つ理解できなかった。

「あれは一体なんなんです?」代表が訊ねた。彼女の言い回しにやや苛立ちながらフランクは向き直った。

「あなたも彼女に好意的になりますよ、本当に」

プリシラ・ロックは腕組みした。彼女は退屈しているように見えた。

「話の他になにか?」彼女は眉間にしわを寄せて彼の方を向いた。

なんともビジネスライクだ。「分かっていますよ、でも私はあんた方の連合のお仲間には退いて欲しい。もしできることなら出て行ってもらいたい。結局ここは銃器禁止エリアなんでね」

彼女は彼らを見、そしてフランクに視線を戻した。「気付いていましたか」

「いやああ」彼は悪童めいた笑みを浮かべた。「なんの話ですかな?」

今度は彼女が笑う番だった。「結構。皆さん、もう役務は必要ありません。以降はこの人が引き継ぎます」彼女は兵士たちに向けて叫んだ。

3人の男たちが―そしてフランクは遣り取りの間ずっと難民になりすましていた4人目に気付いた―バンに退却し、発進すると去っていった。女は再び彼を見た。

「今度こそ話を?」

「どこかでこっそりとということじゃなかったでしょうかね?」彼は出来うる限りの媚びた笑顔で言った。「ジープに乗りましょうか、あそこならいいでしょう」

「いえ。いいえ、貴方のジープでは駄目です」フランクにとってかろうじて囁きと言える声で彼女は呟いた。「盗聴の可能性が」

「おっと、了解」彼も声を低くして応えた。「何者であれ我々の話を聞きたい者がうちのジープを全部同時に盗聴するつもりなら、その値打はあるでしょうね」

にもかかわらず、彼はジェイコブがラボとして使っているワールドツリーのトレーラーに連れて行った。道中に会話はなく、そのことが彼に強迫的に罠や暗殺者や、さらなる潜入者を確認させた。

「くそが滅茶苦茶」彼は代表が言うのを聞いたが、彼に話しかけたというよりは独り言ではないかと思った。

「ええと、これIDP2キャンプですよ、マダム」彼は試みに言った。

「ロックと呼んでください」彼女はすぐさま返答した。

「分かりました。ミスか、それとも―」

「ロックだけで」

なんとも陽気な御婦人だこと。フランクはワールドツリーのトレーラーに着くまでそれ以上なにも言わなかった。トレーラーは幸運にも無人だった。オランプの組の訓練を受けたボランティアが2人、扉に向かって立ち見張っていた。通常は放っておかれるが、彼らの存在は理解できるものだった。そこには高価な装置があったからだ。

フランクは警備員に微笑みかけて大きな金属のコンテナに入ったが、ロックはついてこなかった。彼は振り向くと、彼女が躊躇しているのが見えた「どうしました?」

「ここも盗聴の恐れが」

「ああ、それがここにお連れした理由ですよ。問題にはなりません。どうぞ、お入りください」

ロックが入り、フランクは外の男たち両方に話しかけるためにドアから顔を見せた。

「ちょっと時間をくれ。センシティブな事だ。もしジェイコブがやってきたら、とてもセンシティブだ。分かったか?」

警備員たちは頷いた。

「オーケー、スキップ」

「いいですよ」

「よし」彼は言った。

フランクは扉を閉めるとロックに向き直り、彼女はバックパックを下ろしていた。

「さて、ミス・ロック。この場所は安全だ、ある意味。オパールが壁にスクライングやらなにやらのペテンを防ぐなにかをやってるし、ジェイコブはこいつがあらゆる種類の技術的な諜報手段に対していかに馬鹿馬鹿しいほど保護されてるかについて喋り倒すだろうな、だから早速―」

「この物体はなんです?」

彼女のだしぬけな発言にフランクは一瞬足を掬われた。腕を組んだロックはタンクを見ていた。

カバではないもののいるタンク。

「アノマリーなんじゃないですか、そうでしょう?」フランクにはほとんど彼女の歯噛みが聞こえるようだった。彼女はタンクの透明な側壁を指差していた。「この素材はこれを収容しておくのに十分強固なんですか?」

フランクの心の中のなにかがカチリと噛み合った。

彼はタンクから目をそらさずバックパックを下ろしているロックを見つめ、己の迂闊さを叱責しながら注意深くオプションを実行していった。どうして事前に分からなかったんだ?

「それは我々が入手して以来ずっとそいつが収容されているタンクだ。それは逃げようとすらしていない、つまりイエスだ。そう、そいつはそれを収容するのに十分なんだ」ecSecは微笑んだ。 彼はジェイコブの透明の引き出しの1つに長いねじ回しを見つけた。己の幸運に微笑みながら、彼は穏やかにそちらへ歩み寄った。「ある種の受動的な動物だけどな。そいつを研究しているジェイコブはある種の付着生物だと延々言い続けるよ。そう、たとえば―」

「安全なんですか?」

「ええっと、」フランクは切り出した。「俺は安全safeという言い方はしないな……」

彼はねじ回しに近寄り、そしてロックの不意を突き、つつがなく彼女をタンクのガラスに張り付けにして、その過程で中の不格好な獣を―"なあああああああああに"―目覚めさせた。両脚を離させ、右腕を極め、もう一方をタンクに可能な限り押しつけた。彼女の首元にねじ回しを当て、ひやりとした中子を感じさせた。ロックは束の間反撃を試みたが無意味だった。主導権を握っていたのはフランクだった。

「どうやって俺を見つけた!?」

「一体何の話?」

ロックの声はどうにかして冷たく、フランクのそれよりも状況を支配しているように聞こえることに成功していた。彼は押し続けた。

「貴様らがどうやったかは知らん、だが奴らに俺を放っておけと言え、さもなきゃ消すぞ!」

彼女が応えたとき、その声は完全に氷のごとく冷徹だった。「オーケイ。明確にしておくと、私たちのどっちももう財団のためには働いていない、ウェスティングハウス。そして財団のエージェントは脅迫を、分かってるだろうけど、あなたが試みている種の脅迫を真に受けることはない。だから私を解放して、頭のお薬でも飲んでからお話しさせてもらえない?」

フランクはたじろいだ。

その一瞬、肘が極めを抜けて彼のみぞおちに届いた。次の瞬間、彼は床に倒れて起き上がろうともがいていた。ねじ回しは彼女の手の内に移った。

それを彼女はジェイコブのワークデスクに仕舞った。

「落ち着いた?」ロックは彼に尋ねた。答えを待つことなく彼女は言った。「まず1つ、マナによる慈善財団が受け入れたから私はここにいる。自分の持ち物で勝ち取った地位だから」

「あんたが―なんだって?」

「私は財団で働いていた。今となっては終わったこと。事実、今じゃそもそも起こりすらしないことだった。あれのおかげで」

彼女は自分のバックパックを指差し、それはワークデスクのすぐ横に横たわっていた。フランクは彼女の指を追った。「あれ―あんたのバックパックの中身の?」

「出さないよ」彼女は言った、簡潔に。フランクは状況に適応しようとした。

「分かった。分かった……あんたがここである種のなりすましをやろうとしてるかどうか―」

「あなたがまず私を水槽に叩きつけたんでしょう」

動揺も気遣いもない女に向かい、彼は叫んだ。「あんたトレーニングを受けてるだろう! その目線―その身のこなし! タンクの中の物を見たとき、見た瞬間、それが眠っていてすらも、ガラスがそれを持ち堪えられるかを訊いた! フィールドエージェントのように喋りすらした、くそが!」

ロックの眉間のしわは深まった。

「'収容'と'安全'と言ったからあなたは私がエージェントだと思った。で、あなたはフィールドエージェントだったと?」

「その態度。その―そのスタンス―」自信を失い、フランクは瞬いてかぶりを振った。

「片足跳びでもしてきた方がよかった? もう関係ないんだけど。今は違うから」彼女は頭を振った。「2度目だよ。次の話題に移ろう」

ロックはバックパックのサイドポケットから小さな物体を取り出した。フランクは既に立ち直って彼女の一挙一動を見ていたが、彼女が示すものを予期していなかった。

「それは……おもちゃの鳥」

異常なおもちゃ鳥、準セーフ。あなたのところの人たちがくれたの」彼に向かって小さな木製の鳥を動かしながら、彼女はほのかな軽蔑のこもった声で述べた。「あなたへのメッセージっていうことになってる」

彼が選択を強いられたのはここだった。助けを呼ぶか、それとも馬鹿げた決断をするか。まだ彼女を制圧するか、扉に走るか、オランプの部下にどうにかして警告を試みることは可能だった。

一瞬彼は、ラビが彼は他者を信頼することを学ばねばならないといかに語ったかを思い出した。

彼にすれば普遍的なアドバイスのつもりではなかったとフランクはほぼ確信していたが、ここでecSecは細部を使うことができた。

「もしこいつが俺を殺したら、オパールが気付くぞ。彼女はスタッフ全員を見てるからな」

「受け取って」

ロックは彼に向けて鳥を投げた。彼はそれを顔にぶつかる道筋の半ばで受けた。そのとても小さな木のくちばしが動き出したのはそのときだった。

「ああ、やっと! もしもし、フランク!」

酷く混乱したフランクは鳥を見た。長い管の一方で誰かが喋っているように聞こえるが、彼にはそれがロアン・リンズバーグの声であるとなんとか分かった。

「もしもし?」それが主張した。

「副理事長!?」フランクは、彼が発する音節毎にそれの小さな木の翼が動くのを見た。その後再度くちばしがカチカチと動いた。

「ええ、ええ、もしもし、目を覚まして聞いてください、どうも、これは緊急です」リンドバーグの慌ただしい調子に追いつこうと、実質的にそのくちばしを開く代わりに振動させて鳥は言った。「分かりますか、ロックは難民です、ある意味で。彼女は文字通り他に行く場所がないので我々のところに来ました」

フランクは彼女を見た。「じゃあ彼女は職務放棄者だっていうのか、副理事長?」

「いえ、違います。ああ、そうでもありますね」鳥のリンズバーグが言った。「そうですね、なんと言えばよいか……ああ面倒臭い。どうかこの件に関しては慎重に、フランク。誰にも言わないで、特にオパールには、彼女がこの手の話にどう反応するか御存じでしょう、強い信念とかなんとか。彼女は現実性越境(trans-reality)難民なんです」

フランクは鳥を見、そして目を眇めて彼女を再度見た。「それは……いくらか説明がつくな」

「どのように?」

「俺はてっきり―」

「彼は私が追手だと思ったの」ロックが割って入った。「なんとか説得した」

「おやおや。お互いに手荒い真似はしてませんね?」

両者は一瞬視線を交えた。フランクはすぐに折れた。「いや、特には。彼女を見て俺の知ってるフィールドエージェントを思い出したんだ、それだけだ」

「ああ。分かりました、どうです、我々はこれを秘密にしてかねばなりません、フランク。我々は皆あなたが己を癒し、職務の中での調和を見つけられるよう、財団での年月があなたに教え込んできたことを捨て去ろうとしているのは知っています、でも事態は……くそっ、オブラートに包んだ言い方が思い付きませんが、あなたに彼女を注視していてもらいたい」

「なに? 待ってくれ、あのGOC―あれは―」彼は思わず口走った。

「彼らはGOCではありません、フランク。GOCのふりをしたうちの人員です」床に着地して以来ぼんやりしていたフランクの脳は、目の前に置かれた点を繋ごうと試みていた。副理事長が彼の邪魔をした。「どうか最後まで言わせて下さい、ややこしいのは分かっています。一般に連合と国連が関わる限り、彼女は新しいワークグループのセキュリティスペシャリストで、あなたは彼女が新しい労働状況に慣れるまで面倒をみる人です。数ヶ月前に新しいecSecをリクエストしましたよね? そう、そこで彼女というわけです」

混乱したフランクは一瞬座り込んだが、素早く尋ねた。「なんで一体こんなことを?」

「何故? ああもうフランク、あなたはスキッパーでしょう。考えなさい。もしGOCが彼女のことを知れば狩り立てるでしょう。彼女は越現実跳躍者ですよ。彼らが越現実跳躍者をどうするか知ってるでしょう!」

「だが―!」

「これはただの見せかけですよ、ええ、我々がいつもやることじゃなく、不快に感じるのも正常です、でも理由があります、信じなさい。さあ、もしそこのオパールを含む誰かが彼女について尋ねたら、彼女はパラヘルサー(Parahealther)です。オックスフォードで学び、マサチューセッツはウェストボローでの人狼襲撃の後に加入。論文があり、うちの人員の誰とも一緒に働く必要がなく、基本的な安全上の懸念(Safety Concerns)以外のすべてを免除されている。問題があればなんでも大陸支部か私に報告しなさい。国際は無関係です」リンズバーグが息を止めると、軽いさえずりの音がした。「分かりましたか?」

フランクはあらゆる財団エージェントがプレッシャーを掛けられたときに切るカードを切った: パラノイア。

「本当にあんたかどうかどうやって俺に分かる!?」

「セーフフレーズとして今私に思いつくのは『クラス-Dってなんだ』ですよ、フランク」

それは最初に彼に尋ねたことで、その時彼は慈善財団へ離反することを決めたのだった。盗聴されず、窓もないあの部屋の外では誰もあの遣り取りを聞いていない。

フランクはめまいがするのを感じた。「そんなん……そんなんじゃ、十分じゃないぜ」

「分かってますよ。構いませんから。これ以上は十分時間がありません、このワンダーテインメント無線は充電がかなりすぐ切れるんですよ、訳ありの寄贈品です……フランク、彼女は大変価値あるアブノーマリティを運んできました」

ああ。

「『世界を変えられる』?」

「ふざけるのは止めなさい、フランク。頼みますから。ええ、違いが作れますよ、もしかしたら違いね。この件に関して我々に同意できると言ってもらえませんか」

「ほんとにあんただったら構わんが、でももうあんたの'我々'と俺のが同じかどうか分からんぞ」

「ワークグループのボランティアのような言い草を」鳥は一瞬の間沈黙した。「お願いです、フランク。見逃せない機会でなければこんなことはしませんよ」

彼はロックの様子を見ながら他の選択肢を思案した。目線を逸らすことなく鳥に話しかけた。「これがあんたじゃなきゃ、絶対に始末して皆に言いふらしてやるところなんだがな。ワークグループの全員に警告するぞ。俺は馬鹿だが流石にそこまでじゃない。分かるかい?」

騒々しく鳴る赤いくちばしを通じ、答えが迸り出た。「その言葉を待っていましたよ、フランク。プリシラ、そちらの約束を果たしてくれますね?」

女は腕組みした。「ええ。もちろん」

「なら彼にヴェスタ-90のプランを渡して実験に関係してないことを全部教えてあげて下さい。どうか10日ごとに折り返し報告してください、我々はこちらからワンダーバードを充電して連絡しますから。離さず持っていてください、プリシラ。お二人に幸運を」

おもちゃの鳥はフランクの手の中で沈黙した。

彼はしばらくその物体を見つめた。それから彼は視線を上げ、プリシラの眼差しが彼の顔に釘付けであることに気付いた。彼女は穏やかであるように見えた。

「さあ、大暴れする? 暴力をふるって私を傷つける?」

怒りで顔をさざなみのように打ち震わせてフランクは彼女を見た。「そうだな。間違いなくそうしてやろう、ロック。まず、俺はお前を検査する。銃も通信機もコンピューターもなしだ。おまえのものも含めて異常資産を使ってなにかしようとしたら、慈善財団の憲章になんと書いてあろうがお前を殺す。誰であろうがグループのメンバーを傷つけたら曝し首だ。おまけに、もしおまえがなんらかの形で別の財団のために働いていると分かったら―」

「どうぞ、やれるもんならやってみなさい」彼女は負けず劣らず忌々しい視線をフランクに向けた。「あんたたち泥遊び好きの取り柄は口の減らなさだね。私は姉妹がMCFで働いてるからここにいるわけ。まだ気に入るかどうかわからないけど、死んでるよりはマシ。だから殺すか慣れなさい、私はどこにも行かないから。さあ、さっさと検査したら」

彼がバックパックと―彼女はアナなんとかと呼ぶ布の塊を彼に触らせようとしなかったが―彼女の体を検査する間、彼らは終始ほぼ無言だった。フランクは1分かそこらの間腹を立てたままでいたが、すぐに心底屈辱を感じた。検査を終えて、ロックは未だ彼をねめつけていた。

しかしながら、沈黙を破ったのは彼女のほうだった。

「で、私の死体をチームにどう説明するつもりだったわけ?」

彼は肩をすくめた。「多分ほんとのことを言っただろうな。俺はあんたが財団のエージェントで、グループのことを連中に話すと思ったと。間違いなくクビだったな」

ふたたびバックパックを手にしてプリシラが立ち上がると、彼女の顔はあらゆる共感への追悼となった。

「私の財団の資格証明書がどこにあるっていうの? ここで財団のために働いているプリシラ・ロックという名前のだれかがいるって?」

「なに、あんたの宇宙じゃほんとに資格証明書を使ってたのか? 財団のバッジみたいに?」フランクは厳然としてせせら笑いを浴びせた。彼はタンクとその住民を指差した。「おういいだろう、あれは汚水から生きていないものをなんでも取り除くように思えるが、どいつも俺にDクラス候補を探させないだろう、そこで俺はあんたの死体をあそこに入れてテストをやった方がいいと思う、どうだ?」

ロックは一瞬彼を見て、そして短くあざ笑った。「ああそう」

「マジさ。そしてあんたは俺を殺してどうする? あんたこそチームの他の連中に俺の死体をどう説明する?」

「しない。他にもまだ私をつけ回すガードがいるから。ただ逃げてやる」

「おっと、今度は俺が同意できないな……」


残りの会話は異常生物には理解できず、それはヒト科生物たちが去り、臨時の住居となったラボのドアを閉めると若干の安堵を感じた。彼らのどちらも気付いていなかったが、それは目覚めた瞬間からバックパックの中の存在……いや、'もの'を聞かずにはいられなかったのだ。

彼らのどちらも気付くことはできなかっただろうが、それは一時の安堵以上に、バックパックの中のものに怯えはじめていた。

全オパール-1ミッションワークグループが動き出したとき、それはまだ怯えていて、当初想像したよりもしばし長く怯えていることになった。その他すべての場合と違って彼らが警告を気に留めると分かっていたならば、それは警告しようとしただろう。

不運にも、それはすることはなかった。

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