願望
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福路弐条さん。報告があります。」

福路弐条。それが私自身の名前であることを認識するのに、少し時間がかかった。僕のことを福路と呼ぶ人はいないはずだ。私はあの日オブジェクト指定され、SCP-████-JP-1となったのだから。しかし、目の前の女性、人事部長の沖波往恵さんは私のことを福路弐条と呼んだ。もうかなり立つはずだが、今さら呼び間違いだろうか。いや、それよりその後何か言っていたな。報告?報告とはなんだ?沖波さんがぺらりと手に持っている紙の束をめくる。

「あなたの融合事案とSCP-████-JPの新異常性に関連性が見られなかった点、また、あなたの保持している異常な捜索能力がもともと保持していたものがイエイヌとの融合時に急激に活性化したものであり、同オブジェクトの因果関係が確認されませんでした。」

……何を言っているのだろう。

「これにより、あなたの研究を行う必要性が無くなり、同時にあなたへのオブジェクト指定をこれ以上行う必要性が無くなったので、本日よりSCP-████-JP‐1、もとい福路弐条のオブジェクト指定は解除され、以前の業務へ復帰、つまり財団へ再雇用されることが予定されました。以上で報告を終了します。」

つらつらつらと感情が感じられない、まあ最初に言われたが、事務報告だ。……ちょっと待て、再雇用?再雇用とは、つまり……。

「さあ、何をぼうっとしているのです。あなたにはしてもらわなくてはならないことが沢山あるのですよ。まだ再雇用が決まったわけではないのです。てきぱき動いてもらいますからね。」

もやもやとした疑念を切り裂くように、さあ。と手が差し伸べられる。おそるおそる私も手を差し伸べる。重ねた手をぎゅうっと握り返される。こんなにも人の手は暖かかったかな。沖波さんに引っ張られる形で、私はいくらかぶりの外へと、足を踏み出した。

そこからはとても忙しかった。軽いテストみたいなものを受けさせられたり、身体検査、異常性消失が無いかの実技テストを行った。別段異常性の劣化などは起こっておらず、合格点をもらえた。その後、収容時におこった財団内の変化や新収容オブジェクトの概要を一気に教え込まれた。そこから色々なことを知った。収容時から5ヶ月も経っていないこと。捜索部隊ふ-96は現存していること。もちろんいいことばかりではなく、実験中に亡くなった職員もいた。しかし、死亡職員一覧に、特別仲のいい職員がいないのはとても幸運だった。

そして、ついに隊員たちとの対面の日がやってきた。元気にしているだろうか?しっかりと職務を果たせてるだろうか?部隊待機室に向かうまでどきどきを抑えながらあれやこれやと考える。そして、ついに扉の前に来てしまった。扉に伸ばす手が震える。これは緊張だろうか、それとも恐れだろうか。そんなことはどうでもいい。今は、隊員のみんなに会いたい。滑るように扉は開いた。中に見知った顔が見える。

「みんな、ただいま━━」

言いかけた瞬間。

「おいおい、オブジェクトが戻ってきたぞ。」

今のは、何だ?

「あそこでずっと収容されてれば良かったのに。」
「何で戻ってきたの?」
「早すぎるだろ。何のための収容だよ。」
「別にお前みたいな異常実体、財団も雇用する意味ないから。」
「帰れよ、あの収容室の中へ。」
「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」「帰れ。」

みんなが、詰め寄ってくる。やめて、やめて。やめてくれ。やめてください。

「わ、わた、しは。」

背中に何かぶつかる。振り向くと、国都さんがこちらを見下ろしていた。

「国都、さん。」

国都さんが呟く。

「あら。収容違反ですね。早く報告しないと!」

にっこりと笑う。初めて会った日と同じ、あの笑顔で━━


ベッドから落ちた衝撃で私は目を覚ました。壁掛け時計は午前3時をさしていた。早まる鼓動を抑えるため、深呼吸をしようとしたが、だめだった。息が落ち着かない。まただ。また、あの夢だ。楽しかったあの頃。あの頃に戻れる、そんな夢。ありえないのだ。あんなに早く戻れるなど。おかしいのだ。でも、もうこれでこの夢は……何日目だろうか?正しい期日を測ることは少し前からやめていた。どうしてこんな夢を見続けるのだろう。未練は断ち切ったつもりだ。あの頃に戻ることはもう……。

……あれは、現実なのだろうか?私は元からずっとここに収容されていて、あの頃の思い出は一夜の夢であって、泡沫の如く消え去るもので。でも私は縋り続けている。だから、こんなに脳にこびりついているのではないか。……だめだ。思考が纏まらない。最近はいつもこうだ。あの頃を願い、あの頃に戻ることを望み、そして、あの頃を疑い続け、

そして今日も、また同じ夜が来る。

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