公費旅行: ややキャン☆
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山梨県某所にあるキャンプ場。10月の寒空の下、エージェント・時任は旅行客に偽装してテントの設営を行っていた。このキャンプ場周辺に日本生類創研が放棄した生物実体が出没するという情報を入手したため調査に来た次第である。

季節外れであるためか、広いキャンプ場はモノ好きなアウトドア愛好家が数グループ存在するだけであり、ほぼ貸し切りで快適ではあるが10月の山梨は流石に寒い。別にアウトドア愛好家でもなんでもない時任にとっては本来ハズレの任務であるが、この日の時任に限っては大大大当たりの任務であった。

というのも、時任はつい先日の休暇の最中に、暇が極まりすぎて大手動画配信サイトの配信する動画群を見漁って時間を潰していた。某北海道ローカルバラエティのユーコン川編、ディスカバリーチャンネルのガチンコサバイバルドキュメンタリーといったラインナップでアウトドア系の動画を見漁った後に、「██キャン△」というアニメが目に止まった。

時任は諜報活動の一環としてSNSなどの情報媒体の調査活動を行った際、このアニメの話題を目にしていた。時任はこのアニメに対して"薬にも毒にもならないような、カワイイ女の子が仲良しするだけのアニメ。"と偏見を持っていた。しかし見始めるとこれが中々。1~3話は半分小馬鹿にしながら、4~6話は黙々と見続け、7~9話を見る頃には食い入るように見入って、12話すなわち最終回が終わったころには"██キャン△ロス"を起こす始末だった。

そして今回の任務である。今回の任務は山梨県██村にある村営キャンプ場に旅行客として潜入し、日本生類創研が放棄した実体の目撃情報が本当であるかを調査するというものである。収容は時任が報告した情報を基に機動部隊が行うため、時任が実体と格闘する必要はないし、GoIやPoIに妨害攻撃をされる心配も少ない。危険が迫れば即座に退避しても構わない、ただ普通にキャンプを行っていれば良いのだ。任務の毛色としては諜報員の役得的な側面を持ち、公費旅行と呼ばれる任務に近い。時任は██キャン△に触発されキャンプにノリノリであるため益々公費旅行である。

テントとスクリーンタープの設営はあっという間に完了した。野外活動において特別な訓練を積んでいる財団エージェントが行ったのであるから当然と言えば当然の結果である。続いて昼食の準備であるが、時任は既に献立は炭火で作る本格ハンバーガーと決めていた。██キャン△劇中で主人公の女子高生一行はカップラーメンや簡単なスープパスタに感動していたが、完全なるオッサンの時任は少々凝った物を作ろうと考えているのである。

時任の手際の良さはここでも光る。まず火おこしであるが炭火グリルに備長炭をくべると、財団製トーチバーナーで強制的に着火。██キャン△劇中にて主人公達が悪戦苦闘した備長炭への着火をものの数十秒で終えると、次は経費で買い込んだ食材の調理である。ビーフソーセージ用の牛ミンチに塩コショウをパラっと振り、2つに分け形を整えて網で焼く……なかなか贅沢なハンバーグである。焼くのはパティーだけではない、バンズも炭火で加熱する。業務用スーパーで買ったバンズを肉の隣で加熱する。軽く焦げ目がついたら網から引き揚げると、食欲をそそるパンの優しい香りが漂う。

焼きあがったバンズに、レタス、パティー、トメィト、もう1度パティー、ピクルス、蕩けるチーズを挟み串で上から貫き完成である。串がなければ立たないほど迫力満点のハンバーガーの完成だ。この間僅か5分。さっそく時任はそれを頬張る。

「うん。食いづらい。」

完全にオフモードの時任は気の利いたコメントすらできないのである。時任は持ち込んだ瓶コーラのキャップを手刀で吹き飛ばすと、口に残るハンバーガーごと流し込んだ。やはりハンバーガーにはコーラがニューヨークである。

「かぁ~~~~~~~~。」

作って5分、食って5分。10分で終わったハンバーガーに大満足の時任であるが、強烈な違和感が突如として襲い掛かる。「何かが違う」そんな違和感だ。

違和感の正体は簡単に推理できた。自分が憧れた██キャン△と、自分自身とのギャップである。彼女たちはテントの設営に際してゴムハンマーすら所持しておらず、石でペグ打ちをするような装備である。スクリーンタープによる風避けなんて当然所持していないし、トーチバーナーで強制着火なんて夢のまた夢である。学生であるが故の金銭的ハンデを工夫で打開した彼女たちに対し、時任の装備は上から下まで財団製の最新科学に裏打ちされた最高級品であり、特に持ち込んだ寝袋に関して言えば1個62万円のスーパーハイエンド寝袋である。さらに時任の経験値もギャップに拍車をかける。彼女たちは誤って支柱を折ってしまったり、ペグ打ちを忘れてテントを吹き飛ばしてしまったりするが、時任はものの5分で無駄なく設営を完了してしまうのだ。それどころかこの男はさっきコーラキャップを手刀で開封するという離れ業までやって見せたのだ。そして究極のギャップは、

「俺は…..女子高生じゃないな。」

当たり前である。██歳の野郎の大人である。しかも財団に雇用されるような存在である。彼女たちのようにフワフワマッタリとキャンプだなんて、そもそも無理な話である。思わぬ形で財団職員であることを御門違いにも後悔しはじめた時任は、トボトボと使い終わった食器類の洗いに水道に向かった。

しかし、スクリーンタープを出たその時である。時任の耳に女性の悲鳴が入り込んだ。悲鳴の方を見ると、3mはあろうかという熊が口からビームを吐きながら女性に襲いかかっているではないか。日本生類創研の放棄した実体とはあの熊であるのは間違いない。目撃情報は本当だった。時任の任務はこの瞬間完了した。急いで退避するべきだ。

時任が実体と格闘する必要はないし、

危険が迫れば即座に退避しても構わない。

ただ普通にキャンプを行っていれば良いのだ。

「とんでもない。」

時任は退避するどころか全速力で実体に向かって立ち向かった。彼は女子高生ではないが財団職員なのである。財団職員には財団職員にしか果たせない仕事がある。時任は女性に襲いかかる実体の前に立ちはだかると、実体をにらみつけ仁王立ちした。

「さぁ!はやく逃げなさい。」

女性は女子高生ぐらいの背格好に見えた。時任はニヤリと笑うと、護身用スタン棒を構えた。彼らは、ふ…..とした瞬間、民間人へのあこがれを抱いてしまう時がある。それでも彼らは自らの役割を決して捨てない。彼らの正義は、彼らにしか貫けないのだから。

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