星と海、そして鮫
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天の光を意にも介さず、三隻のMTBはただ海の闇を行く。

「・・・・ ・ -・-- --・ ・・- -・-- ・・・」

前を進む “先導者バンガード”が突然速度を落とし、”大目玉ビッグ・アイ”と”白口ワイト・マゥス”は慌てて左右に舵を切る。
美しい単縦陣はあっという間に崩れ、夜の狩りには不適な単横陣となる。

「・-- - ・・-・」

“先導者”の船尾に舳先を擦りかけた“大目玉”は怒りの信号を放ち、横波に乗ってその左腹へ体当たりする。
一方“白口”は”先導者”の真意を言外に察し、感覚を集中して喫水線下の闇へ鋭い声を放つ。
声は不可視の波となって海中を飛び、その幾らかは邪魔物や獲物、あるいはただのモノを見つけて戻ってくる。
だが今回は違った。音波が捉えたのは確かに獲物であったが、これまでに狩ったどれよりも巨大であった。

「・-- - ・・・・」

普段は冷静な”白口”も、今は”大目玉”と共に唖然とするのみ。
“先導者”は黙って波に揺られていたが、やおら発進すると戸惑う二隻の前で急転針、信号を放つと元来た方へ走り出す。

「・・-・ --- ・-・・ ・-・・ --- ・-- -- ・」

二隻ははぐれ子のようにそれを追いかけ――実際子供なのだ、義理ではあるが――再び単縦陣を組んでその場を離れる。
”大目玉”はすっかり縮み上がってしまい、幾度も威嚇の声を発しては皆の感覚を掻き乱す。
しかしその反射が彼らに獲物の接近を教える。こちらへ向かってくる。
やがて海が泡立ち、潮が狂乱し、飛び出した漆黒の巨体が星々を喰らったその時!

「--・ ・-・ ・ ・- - - ・・・・ ・・ -・ --・」
「・・ - ・----・ ・・・ -・・・ ・ ・ -・ ・- --・ ・ ・・・」

若き鮫狩たちは大波に呑まれる寸前、”先導者”が二度放った大きく穏やかな信号を確かに聞いた。
大物グレイト・シング”は獲物でも仲間でもなく……この海において最も彼らに似た、偉大なる存在であると知った。

やがて波は静まり、海は再び空と溶け合う。”大物”は黙して応えず、ただその身を浮かべるのみ。
船隊は粛々とその横を通り過ぎ、やがて速度を上げて白み始めた水平線へ去った。

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