捩り不動
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――三番叟
「遠路遥々お越し下さり、誠にありがとうございます。六根清浄山越え訪れ、再びどっこいしょとお百度参りますように、不動明王御仏の見世物をご覧に入れましょう。なぁに他所と同じ催し、堂々巡りでは御座いません。この時期この時節お越しくださった方は非常に運がよろしい。先ず右手にご覧にいれますは、一本木に括りつけられ白装束着た、哀れな女でございます。両手足縛られた一本踏鞴に、身体を戒める黒縄の縛りは一種媚態の艶姿。して女の背後に横並ぶは、目欠け足挫き腕をもがいたちんば達にございます。アレ哀れな見世物の一つでございますが、無垢無辜を荼毘に付すには余りに残酷、福助共とご理解ください」

物見遊山の人達――
「人が縛られているよ」
「何をするんだろうね」
「足元に焚き木がある」
「女を縛る油を塗った縄が地面に伸びている」
「紐の終わりに蝋燭がある!」
「まさか」
「まさか?」
「まさか!」

――三番叟
「そのまさかでございます。あぁ、刮目なさらずともよく見え分かりますが、女の身体を縛る縄は地面に伸び落ち、少し離れたところに風前の灯。あれが完全に燃え尽きたらどうなるか……とか申しております内に蝋燭尺尽き、油を染み込んだ導火線に火種がたばしり、女の足元にある焚き木が濛々、煙り暴る火炎は増し増し、阿鼻叫喚の身悶えを。対岸の火事宜しく呆け指差し見れば、女を縛った縄を走る小火が、野暮に追い討ちかます颪で、やいやい攻め立てられ、案山子は火柱。女の服焦げ、白肌がべろりと捲れ、火ノ手から火ノ粉踊るは炎ノ舞。四苦八苦をつぶさに見たけりゃ、みだりに首伸ばせ」

物見遊山の人達――
「惨たらしい!」
「お前は顔隠しつつ、指の間からちらちら眼球覗かせて!」
「見える! ああ、見える!」
「何が見えるの?」
「勇ましい顔だ! 見える!」
「白目を剥き、もんどり打つ女しかわからぬ」
「不動様だ! 見える!」
「火炎の後光だ! 凝らし見えたぞ!」
「何ともまあ素晴らしい!」

――三番叟
「さすがにお分かりになったようで……。徳がお高く、炯々眼を持つ聡明さに感服致します。ここです、ここです! 今一番火車が大きく攀じれ、不動の火影陽炎の中に、ジロリと睨み付けるあのお顔! あれこそまさに、お不動様のありがたいお姿! さぁさこの神憑りを今見なければいつ見るか、一瞬で消える御仏の姿よ、次見たときは死んだ時よ、出会え出会え、よいよい!」

物見遊山の人達――
「ありがたや、ありがたや」
「このまま灰塵烏有に帰すのかな」
「あとで罪人の肉を配符するよ」
「ありがたや~」
 
 
終わりに――福助共達
「これにて、人様の物を失敬なすった上に人家に付火した女の捩り不動は終わりでございます。この女にひとつの救いがあるならば、それは春を鬻ぐ事がなかったということでございましょう」
「今後いつぞや五色の縄で身を絡め取り、火柱人柱の催しがあるかわかりませぬが、その時は両目を開目なすってご覧遊ばせ」
「ご配符するお守りはお一つ二束三文、一二三と覚え下さい。斯様に安価でございますのは、一本踏鞴が下賎な下々であります故……。高貴なお武家の菖蒲、高嶺の高天原の徒花、嬶か妾を焼べた配符ならば、一両もくだらないでしょう」
「それでは手弱女を翳め捕ろうと考える花泥棒、無頼にこいこい花ノ市揉めん。けんけん足で師走の如く駆け回り、ひょっとこ眇め品定め、腹心の手腕で十露盤叩き、我ら喜んでお買い取り」
「ご配符したお守りは気に入らなければ、犬に食わせるも良し、ドブに捨てるもよろしゅうございましょう。ただ、強烈な死に方をした人間の肉や骨は魔除けになると聞きました。どうぞ、お大事に。それでは、またお越しくださいませ」

一同
『物見遊山様一行のおな~り~』

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