昇天
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私は子供の頃、きらきらした物を集めていた事があった。
鉱物だとか、ガラスだとか、ビィズだとか、確かそんな物らだった。
反射する光に目をわあっと見開いて、きゃっきゃっと無邪気に笑っていたものだ。
そして今も、鉱物蒐集と鑑賞にその趣味は受け継がれている。

なんでそんな事を思ったのかと言えば、懐かしき日々の思い出を詰めた宝箱――偽の金色に塗装された、プラスチック製の容器だ――を見つけた物だから、つい浸ってしまったのだ。
放置されて埃に塗れた"宝箱"を開けると、そこには数十年前と変わらぬ、きらきらした物達が居座っていた。
ハァトの形をしたピンク色のビィズ、ビィル瓶底のガラス、あからさまに偽者であろう小さな小さな水晶、そしてその物らと比べれば遥かに大きい紫水晶。この紫水晶だけがやけに魅惑的だった。僅かに鼻腔をくすぐる葡萄酒の香。

……気が付けば、その紫水晶を口にしていた。
冷たくない氷を齧ったみたいな、独特な食感。しかしながら、実に美味だった。
口内には上質な葡萄酒の香がまだ残っていた。
今度は自分の意志で、もう一口。ああ……ああ。好い……実に好い。自然に頬が緩んでしまう。
そのまま、それを、幼き頃の宝物を食べ終えた。

あれから五日が経った。
ひどく、酔っている。視界が覚束無い。千鳥足になってしまう。至極簡単な仕事さえ、出来なかった。
ああ、だが、何故だろう。気分が良い。手足がほどけるような感覚だ。
その感覚は指先から二の腕、爪先から太腿、といった風に移動していった。
ああ……心地よい……天にも昇る気持ちだ……遂に胸部にもその感覚がやってきた……。
……やがてそれは首を伝い顎を融かし目をほどけさせ、遂に全ての部位を融か

……オヤ?久し振りに葡萄酒が来たな。
人間共の身体を使って作る葡萄酒は最高に美味なんだよな……
サテ。それじゃあ。
今日は之を呑むとしよう!ハハハハハハハ!

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